前回の「嗚呼!!花の応援団」(1976)に続いて、マンガ映画をレビューします。
それはあのルパン三世。
小栗旬さんが実写化(「ルパン三世」(2014)より40年前に実写化されてたんですね。
それが今回レビューする「ルパン三世 念力珍作戦」(1974)。
製作はマンガ映画の雄、東映や日活ではなく、東宝。
どんな映画なことやら・・・
(あらすじ)
盗んだ車でドライブしていたルパン三世は、偶然にも護送車で輸送されてる峰不二子を見かけ、ひとめぼれ。彼女を刑務所から脱獄させるが、まんまと一人で逃げられてしまう。片やルパン一世と二世が作ったルパン帝国は部下マカ・ローニの裏切りで崩壊し、たった一人の生き残り次元大介は、ルパン二世の子供・ルパン三世を探していた・・・
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映画化された1974年っていうのは、TVアニメの「ルパン三世」の第一期(1971-72)と第二期(1977-80)の間。
「ルパン三世」のイメージはそこそこ浸透してました。
まずはキャスティングから紹介しないといけないですね。
ルパン三世 / 目黒祐樹
次元大介 / 田中邦衛
峰不二子 / 江崎英子
銭形警部 / 伊東四朗
古い日本映画に詳しい方なら「???」と思いますよね。
「あー、もう外れが目に見えてる」って思った人も多いんじゃないでしょうか。
実際にスチール写真や予告編を見ると、心配になります。
僕もその一人でした。
ところがこれがいい意味で裏切られるんですよ。
まずこのキャスティングが意外にナイスなんです。
本当なんです。
江崎英子さんの峰不二子は違和感ゼロ。
アニメの峰不二子のような妖艶さはないですが、キャラ&雰囲気は観客の期待通り。
田中邦衛さんの次元大介は、見る前は心配でした。
ところが意外や意外。動くと見た目の違和感も少なく、これは次元大介だよね、って納得します。
さすが演技達者です。
ただキャラはアニメ版よりコミカルなので、そこは気になる人もいるんじゃないでしょうか。
伊東四朗さんの銭形警部は、写真を見た人全員が間違いなく「これが一番ダメだー」と思ったハズ。
でも映画の中では、ちゃんと銭形っぽいんですよ。
確かに次元大介同様に、コミカルっぽいキャラに寄せられてますが、大筋としては銭形キャラは守られてます。
そして最後は目黒祐樹さんのルパン三世。
あの「ルパン三世」の制服と言えるあの服装をしていません。
クラシックカーにも、フィアットにも乗りません。
ワルサーP38は持っていますが、金ピカです。
でも、間違いなくルパン三世でした。
他のキャラ同様にコミカルな要素が強くなってますが、ああ、この人がルパン三世をやってくれて良かった、って思いました。
Wikipediaによると、目黒祐樹さんはこの映画を作るときに「あの原作を再現するのは無理」と思い、監督と話し合って好きなように演じたそうです。
(本人も気に入っていて、チャンスかあれば、またやってみたいって言ってたようです)
監督や主要キャストが「ルパン三世とは何ぞや」という本質をよく理解してたってことなんでしょうね。
田中邦衛さんも伊東四朗さんも、与えられたキャラを守りつつ、自分の色を出していたのは流石です。
特に目黒祐樹さんは、「ルパンはシンプルだけど、おしゃれな服が好き」「いつも冗談みたいな余裕をかましている」といったルパン三世像を掴んだまま、目黒祐樹として自由にやってました。
こういう人たちを芸達者って言うんでしょうね。
話自体は峰不二子に翻弄されながら、宝石泥棒をしたり、銭形警部に追いかけられたり、敵のマカ・ローニ一家から命を狙われたり・・・と「ルパン三世」のよくある話を小気味よくつないでいく展開。
ちなみにタイトルは「念力珍作戦」となっていますが、ルパンが念力を使うわけではありません。
というか、念力は全く出てきません。
当時の超能力ブームでこんな変なタイトルになったそうです。
つまり目新しいことは何もない、どこかで見たことがあるような話です。
「ルパン三世」の根底には60-70年代に流行った、ヨーロッパの娯楽映画、特にコメディ調の泥棒モノがあります。
ぱっと僕のレベルで思いつくだけでも、「黄金の七人」(1965/伊)、「ミニミニ大作戦」(1969/英米)、「大頭脳」(1969/伊仏米)、「黄金の眼」(1968/伊)があります。あとジャン・ポール・ベルモント主演のコメディ作品も参考にしてるんじゃないんでしょうか。
この映画でもヨーロッパの娯楽作品っぽく作ろうとしているようです。
でも、時々、日本的なベターとしたギャグや展開になっちゃうのが残念。
確かに伊東四朗さんはTVでそういう笑いでウケていた時代なので、日本的なノリを持ち込みたくなったんでしょうね。
(ちなみに僕らの世代で、伊東四朗さんと言えば「みごろ!たべごろ!笑いごろ!」(1976~78)の電線音頭ですね)
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もしヨーロッパ娯楽作を下敷きにした雰囲気で押し通せたなら、隠れ名作になった可能性があったんじゃないでしょうか。
(勿論、過大評価です)
とにかく、日活や東映で作られたようなマンガ映画とはちょっと違う、実写化はさすが東宝。「子連れ狼」の実写化をヒットさせた実績は伊達ではなかったですね。
さて、この映画と対局にあるのが小栗旬さんの「ルパン三世」(2014)。
昭和のマンガ映画みたいな、無理くり似せたんじゃなくて、どのキャラもとってもリアルに似てます。(綾野剛さんの五右衛門でさえ、似ている!)
セリフもアニメ版「ルパン三世」の決めセリフや口癖をちゃんと取り入れてます。
キャラの再現度は圧倒的に小栗版「ルパン三世」の勝ち。
でも映画の肌触りが全くダメ。
現代の真面目アクション映画の要素を不必要に取り入れ過ぎ。
ルパン三世は、冗談を飛ばしながらどんな難題、難敵にも立ち向かっていく軽やかが売り。
でも小栗旬さんのルパンって、「ルパン三世」より、「ミッションインポシブル」シリーズのイーサン・ハントに近い。
リアルバトルを、真顔のリアルアクションで敵を倒していく。
それも知恵や工夫じゃなくて、力業で倒すのが目立つ。
冗談を言っていても、真面目に見えちゃう。
ルパンのシリアスは、たまにほんの一瞬だけ見せるからいいんです。
いつも見せていてはダメ。
だから小栗さんの「ルパン三世」は肌触りが違うんです。
映画として純粋に見た作品の完成度は小栗さんの「ルパン三世」が上。
多分、映画として目指してる志の高さも、小栗さんの「ルパン三世」の方が高いです。
でも「ルパン三世」らしさ、という点では「念力珍作戦」の方が上じゃないでしょうか。
あ、だからと言って、この映画がすごーく完成度の高い映画という意味ではありません。
あくまでも昭和のB級娯楽作です。
ルパンファンでも、よほどのことがなければ見る必要はないです。
そう言えば、音楽もこの映画のルパン三世らしさを支えていました。
どことなく昔のヨーロッパの娯楽映画の雰囲気があり、第一期のTVシリーズに使われても違和感がなさそうな曲が多かったです。
ルパン三世好きなら、一度聴いてみるのもいいんじゃないでしょうか。
ちなみにこの映画、劇場公開された時は、のちに封印作品になってしまった「ノストラダムスの大予言」(1974)と二本立てで全国封切だったそうです。
僕は親に連れられて、岐阜の東宝劇場で「ノストラダムスの大予言」を見ています。
その時に買ったパンフレットは今でも実家にあります。
なのに「ルパン三世 念力珍作戦」を見た記憶が全くありません。
親は無類の映画好きだったので、同時上映がどんなくだらない映画でも最後まで見てました。
また見た映画は必ずパンフレットを買ってました。
当然、この映画のパンフレットはありません。
ひょっとして岐阜だけ「ノストラダムスの大予言」の上映回転数を上げるために、同時上映なしでやっていたのでしょうか?
でも岐阜では無理やり二本立てにするようなことはあっても、逆はないはずなので、謎は深まるばかりです・・・
ちなみに今回は大昔に録画したDVDがあったので、それで視聴しました。
PRIME VIDEO、Netflix、U-Nextのサブスクにはありません。
DVDは今や新品での入手は難しいようです。