ジョン・ランディス監督の隠れた良作「大逆転」(1983)。
面白いし、出演者もそれなりに知名度があるのに、今は埋もれてる感じ。
そんな「大逆転」を今回レビューしました。
(あらすじ)
「人間が出世するのは、生まれ持った才能か、それとも育った環境か」。金持ちの老兄弟の意見が対立し、「じゃ、実験してみよう」と自分たちの会社に勤めるエリート会社員と会社の前にいたホームレスの立場を入れ替えてしまう。一夜にして全てを失ったエリート会社員と、一夜にして大金持ちの会社役員になったホームレス。紆余曲折を経て、「入れ替え」が老人たちの実験であることを知った二人は、彼らに一泡吹かせるべく賭けに出る・・・
「大逆転」はロードショーでは見てないんですが、学生の時にリバイバル上映で見ました。
4本立てのオールナイト上映の最後の一本だったんですが、普通なら眠くてしょうがない朝方の時間なのに、全く眠くならなかったぐらい面白かった記憶があります。
主演のダン・エイクロイドは、この頃唯一無二の相棒、ジョン・ベルーシを亡くして、パートナー探しの旅に出ているような状態。
そこで、この映画で彼のパートナーに選ばれたのは「48時間」(1982)で注目されたエディ・マーフィー。
まだ「ビバリーヒルズ・コップ」(1984)で人気が爆発する前です。
トレードマークのあの独特な笑い方は見せないものの、間の取り方とマシンガントークは既に健在。二つを巧みに使い分けて、ダン・エイクロイドと絶妙なやり取りを繰り広げます。
ちなみに二人ともアメリカの超有名コメディ・バラエティ番組「サタデー・ナイト・ライブ」の出身ですが、出演時期は重なってません。
そのダン・エイクロイドを助ける娼婦は、何とジェイミー・リー・カーティス。
「ハロウィン」(1978)を皮切りに血みどろホラー映画のヒロインを幾つも演じ、スクリーミングクィーン(絶叫の女王)と呼ばれた彼女ですが、意外にこの娼婦役がハマってるんですよ。
僕の好きなナンシー・アレンが演じる可愛い娼婦(「殺しのドレス」(1980))とは、また違った「ちょっと姉御肌で情にもろい」娼婦を実に魅力的に演じてます。結構色気もあるんですよね。
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金持ちの老人の気まぐれで、突然立場を入れ替えられた二人のシチュエーションコメディ。
エディ・マーフィーは金持ちになって最初のうちは作法は酷いし、手癖は悪いんだけど、すぐに相場の才能を発揮。更にホームレス時代の間を呼んでパーティーするんだけど、バカ騒ぎに嫌気がさし、上流階級の生活に馴染んでいく。
片やダン・エイクロイドは落ちぶれるだけ落ちぶれて、ジェイミー・リー・カーティスの娼婦に助けられるものの、底辺の生活には慣れず、何とか元の生活に戻ろうとするが上手くいかない。
普通ならエディ・マーフィーは金持ちの生活の悪いところに気づいて、「自由だったホームレス時代が懐かしいゼ」っていうのが、本来は王道。
でもこの映画では、
二人ともお金持ちの生活が好きってことは、やっぱり大切なのはカネだよね?
最後も老人をやり込めた上に、3人が金持ちになってハッピーエンドですしね。
誰も庶民の生活に戻りたいって言わない(笑)
そっちの方がリアルですよね。
一応、二人が主役ですが、やることなすこと上手くいかないダン・エイクロイドの話の方がドラマの中心になってます。
エディ・マーフィーのシーンも面白いんですが、ダン・エイクロイドの物語=悲惨さを引き立てる役割っぽいです。
まぁ、不幸になってる方に目が行くのは普通ですからねー。
終盤、自分たちを陥れた老人を嵌めるために手を組んだところで、初めて二人が対等になる印象です。
ラストは老人たちに偽情報を掴ませて、冷凍オレンジ相場で大損させるんですが、社会人でずっと相場の仕事をしてきたお陰で、このシーンを最初に見た学生の時より楽しめました。
この映画のラストの舞台は商品取引所。
この頃はまだシステム化されておらず、場立ちと言われる人たちがお客の注文票を持って、ピット(取引スペース)に殺到するシーンが出てくるんですが、懐かしかったですねー。
僕が社会人になった頃は、まだ東京証券取引所もあんな感じでした。
今や取引所はモニターがあるだけの部屋。
取引もネットを通じて行われるし、注文を出す方もAIだったりします。
あの頃の人間臭い熱い雰囲気を体感出来ないのが、ちょっいと寂しいです。
「大逆転」には同じジョン・ランディス監督、ダン・エイクロイド主演の「ブルース・ブラザーズ」(1980)のような爆発的なパワーも、ぶっ飛ぶような笑いもありません。
でもテンポよく進み、ずっとクスクスと笑わせてくれます。
筋立てで笑わせるコメディなので、日本人にも楽しめるんでしょうね。
この映画の成功は何といってもメイン3人のキャスティング。
3人が、それぞれ相手を引き立てつつ、自分の味をしっかり出していました。
先ほどエディ・マーフィーはダン・エイクロイドの引き立て役と書きましたが、引き立て役のエディ・マーフィーのアクの強さがあったからこそ、ダン・エイクロイドの芸風である「受け身の面白さ」が際立ってました。
そして二人が絶妙なやり取りを見せられたのは、ジョン・ランディス監督の演出力&コメディセンスがあってこそ。
「ブルース・ブラザーズ」のジョン・ベルーシ/ダン・エイクロイドのコンビとは、また違った面白いコンビを見せてくれました。
「狼男アメリカン」(1981)の迷いが生じてる演出とは別世界です。
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つまりこの映画を傑作にしたのは、エディ・マーフィーとジョン・ランディスと言っていいんじゃないでしょうか。
このトリオであと何本か映画を作ってもらいたかったです。
そんなワケでコメディ映画好きなら、見て損はない映画です。
今回はU-Nextのサブスクで視聴しました。
新品のBlu-rayは入手可能のようです。