今回レビューするのは渋い刑事ドラマ「マシンガンパニック/笑う警官」(1973製作/1976日本公開)
主演は日本でも名が通っていたウォルター・マッソーだったんですが、やはり渋過ぎたんでしょうかねぇ。
(あらすじ)
サンフランシスコで、真夜中に路線バスでマシンガンを使った乗客皆殺し事件が発生。被害者の中に、相棒を見つけた刑事のジェイクは、捜査を進めるうちに、死んだ相棒が迷宮入りをした事件を単独で追っていたことを知る・・・
原作は以前レビューをした映画「刑事マルティン・ベック」と同じマルティン・ベックシリーズの「笑う警官」。
舞台をサンフランシスコに変えたアメリカ映画です。
主演のウォルター・マッソーは元々喜劇が得意な人ですが、70年代にシリアスな役柄に芸風を広げて成功しています。
ただシリアスな役柄の中にも、いい意味での軽さを混ぜることの出来る俳優で、この手の娯楽作品との相性は抜群です。
この映画でも冗談なんだか、シリアスなんだか、どっちとも取れる微妙な雰囲気を上手く出していて、キャラクターに深みが出ています。
この映画の彼を気に入った人には、是非彼が主演の「サブウェイパニック」を見て欲しいです。最高です。
(「サブウェイパニック」は2009年にジョン・トラボルタ主演で「サブウェイ123」としてリメイクされてますが、オリジナルの出来の方が数段上です)
殺された相棒の代わりに、ウォルター・マッソーと組んで事件を追う刑事を演じるのはブルース・ダーン。デヴィッド・リンチ映画の常連ローラ・ダーンのお父さんです。あんまり似てないんですけど。
元々、エキセントリックな役柄が得意な俳優ですが、ここでは「主人公に拒絶されてるけど、命令なんで嫌々手伝ってる」という役がハマってます。
この映画、サンフランシスコの下町を舞台に、よれよれの刑事、ストリップ、麻薬、ギャング、訳ありの被害者たち、権力者と昭和のハードボイルドには欠かせない材料が揃えられています。
ただし見ている間、ちょっと居心地が悪いんです。
それは主人公に相棒がいるのに、全くバディ感がないんですよ。
ハードボイルドってやっぱり友情が必要じゃないですか。
でも、二人はずっとお互いに邪魔、みたいな雰囲気なんです。
それも「バッドボーイズ」や「フリービーとビーン/大乱戦」みたいに、騒々しいぐらいに喧嘩して、それが一種のアクセントになってるんじゃないんです。
お互いにシラーっと嫌味を言い合う、冷たく、静かな嫌悪。
人間関係的に一番嫌なヤツです。
まぁ、主人公が全然いい人じゃなく、家庭でも疎まれてるし、情報屋や死んだ相棒の彼女にも容赦ない。新しい相棒にも不愛想で、邪魔者扱いしてるんで仕方ないです。そりゃ、ブルース・ダーンの刑事も嫌いになりますよね。
この主人公のキャラクター設定って、映画「刑事マルティン・ベック」でも同じだったので、原作の通りなのかもしれません。
とにかくそんな主人公なんで、見ている僕は、彼に共感して、一緒にハラハラすることはなかったですねー。寧ろ、相棒の方が可哀想と同情するぐらいです。
話は、そんな二人が地道に捜査をして、事件を解きほぐしていくプロセスを冗長にならないよう、上手にまとめながら進んでいきます。
ただ観客に全体像が分かるような筋立てかというと、時々、「これ、誰だっけ??」となるところがあるのが残念。大筋を見失うことはないですが、伏線全てを完全に理解するのは、かなり高い理解力が必要そうです。
そんなわけで、ちょっと二人のギクシャクが改善しないまま進み、見ているこっちの居心地が悪いまま、話は終盤に。
そこでどんでん返しが待ってたんです!
主人公が相棒に「頼む、手伝ってくれ」と言うようになり、相棒もクビを覚悟で彼を助けるんですよ!ジーンときます。
そしてラストはマシンガンを持った犯人と主人公が乗ったバス(犯人は主人公を殺す気満々)を、相棒が必死の運転で追いかけるんです。
このラストの爽快感は堪りません!
二人がずっとそりが合わない状態で話が進んでいたのは、このカタルシスのためだったんですねぇ。
脚本家に見事にやられました。拍手。
カーチェイスとかアクションシーンもあるんですけど、見終わった後は「派手さはなかったなー」と思わせる地味な映画ですが、普通に面白かったです。
こういう渋い娯楽系の佳作って60-70年代はいっぱい作られてたのに、80年代後半ぐらいから消えちゃいましたね。
TVでも、僕の子供の頃は、この手の作品を日曜の昼に90分枠の吹き替え版で放送されてました。勿論、CM込みの90分なのでかなりカットされているものも多かったですが(中には話が変わってしまうような編集もあったらしいですw)、そこでいろんなB級映画を勉強しました。
最近はそういう枠もめきっり減り、子供たちがB級映画を目にする機会が減ってきているのが残念です。(子供たちにとっては良いこと???)
ちなみにこの映画も新品のDVDやブルーレイでは手に入らないようです。
またサブスク系でもなかなか見かけません。
今回はTSUTAYAで借りて見てみました。