実家に帰省している時に、地元の名画座・ロイヤル劇場の前で、「岐阜でロケが行われた映画特集」というポスターが貼ってありました。
そこにあったのが「喜劇競馬必勝法 大穴勝負」(1968)
自分の出身地「岐阜」がロケ地になるってレア過ぎますよね。
それも世界遺産の白川郷や観光地の高山じゃなくって岐阜市です。
その映画には、どうやら今はもう失われた昭和の岐阜の中心地が見られるようです。
まさにその場所の。その時代に子供時代を過ごした僕は気になって仕方ありません。
残念ながらその時には既に特集上映は終わっていたんですが、是非いつか見てみたいと思ってました。
ロケ地の岐阜目当てなんて、映画の本質からずれてますね(笑)
そんな一本を今回やっと見ました。
(あらすじ)
小心者で、競馬好きの詐欺師である主人公が、繊維会社の社長を騙そうと岐阜にやってくる。なかなか社長に会うことが出来ない主人公だったが、競馬場で偶然にも社長と出会い、たまたま予想を当てたことから、競馬の先生と崇められるようになる。その後も競馬の予想を的中させ、社長の信用を得ていく主人公だったが、実は仲良くなった地元で有名な競馬予想屋の娘の助言のお陰だった。
しかし社長からカネを取る話が、遅々として進まないことに業を煮やした詐欺師のボスが自ら乗り込み、まんまと300万円をだまし取る。主人公はその金を競馬で取り戻そうとするが・・・
この映画は「喜劇競馬必勝法」(1967)の続編になりますが、話が続いているワケではありません。
谷啓さん主演、伴淳三郎さんの共演、どこか小心モノの主人公が、カネに困って、ベテラン予想屋の協力を仰いで競馬の大穴を当てにいく、というのアウトラインは前作と似てますが、全然、別の話です。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
映画は主人公が電車で岐阜に向かうシーンから始まります。
笠松競馬場って、のちに地方競馬から出たスーパースター、オグリキャップを生んだ競馬場。
今は「ウマ娘 シンデレラグレイ」で有名かもしれません。(同じオグリキャップの話だけど)
笠松競馬場が線路脇に見えるってことは、名古屋鉄道で岐阜に向かってるってことです。
平行して走っている国鉄(死後)ではありません。
そして半裸&全裸の女性が、巨大な麻雀パイやトランプのオブジェに絡む、謎のオープニングタイトルになります。
主人公がギャンブル好きってことで、こういう演出になったんでしょう。
当時人気が急上昇していた007シリーズの影響が伺えるオープニングタイトルです。
(007ほどスタイリッシュじゃないけど)
このオープニングからして、1作目にはなかった艶っぽい演出が目立ちます。
オープニングタイトルが終わると、長良川~岐阜駅の空撮に変わります。
ここで僕は「おおお」となりましたね。
今の岐阜駅は平成に出来た三階建ての近代的な建物になっていますが、ここに映っているのは当然、昔の岐阜駅。
薄暗く、武骨な平屋作りで、改札を抜けると目の前がすぐにホームだったんですよね。懐かしい~。
大学生の時に、趣味で夜行列車に乗って横浜を往復していた時は、まだこの古い駅舎でした。
この映画に出てくる駅舎は1998年に取り壊しになってるんですね。写真を撮っておけばよかった・・・
ちなみに駅前のビル群の中には、今でも昭和の香りをプンプンさせながら残ってるものがあります。
もうすぐ取り壊しの話があるので、昭和マニアの人は是非、早めに見に来て下さい。
その後、駅前の問屋街に行くんですが、ここが賑わってます。
今はゴーストタウン化していますが、昭和50年ぐらいまでは繊維の街として問屋街も活気がありました。
こちらも寂れてはいますが、昭和の雰囲気を存分に味わえます。
この問屋街にも取り壊し・再開発の噂があるので、昭和マニアの人は早めに見に来た方がいいと思います。
(現在の問屋街)
そして僕的に一番、感動したのは、主人公が金華山に上ると、そこにあった「お買い物は丸物へ」っていう看板。
これ、デパートの宣伝なんですね。
丸物というのは戦前から岐阜の繁華街、柳ヶ瀬にあったシンボル的なデパートなんです。
1977年に経営不振から近鉄グループ傘下になり、名前が丸物から岐阜近鉄百貨店に変更。
その岐阜近鉄百貨店も1999年に閉店になり、跡地は中日新聞の(味気ない)ビルになってます。
子供の頃、日曜日になると丸物に連れっていってもらって、親が買い物をしている間、おもちゃ売り場で待ってたのを思い出します。
(おもちゃは見るだけで買ってもらえなかったけど)
ちなみに子供の頃、岐阜駅~柳ヶ瀬にかけての中心地には、ダイエーやジャスコも含めると7つのデパートや大型商業施設がありました。
そして今年(2024)の7月に最後に残った高島屋が閉店します。
デパートがない県としては、6県目になるそうです。
映画館も10軒あり、それ以外にも成人映画館が数件ありましたが、現在は4スクリーンのシネコン、名画座、成人映画館がそれぞれ1軒づつです。
寂しい限りです。
(今は郊外に幾つかあるシネコン付き大型ショッピングモールがその代わりになっています)
弁護するワケではありませんが、よく他の地方デパートにある「客がほとんどいないガラガラ状態だから閉店する」のではないようです。
反対に最近、高島屋の周りにタワー型マンションがいくつも出来たおかげか、食料品売り場を中心に週末になるとそこそこお客さんが集まってます。
今回、閉店になるのは建物の老朽化と耐震工事だとか。改修には何十億円もかかるそうで、それをどう負担するかが折り合いがつかずに、高島屋が撤退を決めたそうです。残念・・・
ただし岐阜アピールの大半はここでほぼ終了。
その後は「お、あそこだ!懐かしい」という場面は皆無でした。
ちょっと期待が大きかっただけにガッカリ。
今作でも主人公を演じるのは谷啓さん。
今回も口八丁手八丁のいい加減な男だけど、どこか憎めない小心者は、谷啓さんの得意とするキャラ。今回もハマってます。
ただ前作のしがないサラリーマンと比べると、今回の詐欺師の方が魅力が薄いかなぁ。
またサラリーマンの方が観客の共感もあったでしょうし。
更に今回違うのは、独身で、ナンパしたケーブルカー嬢(競馬予想屋の娘)と恋に落ちるという展開があること。
この恋のドタバタも悪くなんですが、やっぱり前作の奥さんに尻に敷かれてる方が、私生活のダメっぷりが出ていて良かったなぁ。
伴淳三郎さんは、今回もベテランの競馬予想屋。相変わらず、この人が登場すると画面を一気にさらっていきます。
そしてヒロインの競馬予想屋の娘を演じるのは、若き日の十朱幸代さん。
これが可愛いの、なんのって!
年をとっても綺麗な人なんで、若い時だって綺麗なのは当たり前と言えば当たり前なんですが、初めて見る若き日の彼女は新鮮でした。
今回は前回のカラっとした喜劇に違い、人情劇の色が強い作りでした。
人情劇っぽくなったのは、主人公の恋愛ドラマ(?)をメインの一つに据えたからでしょう。
それはそれで悪くないんですけど、やっぱり谷啓さんを主演に据えてギャンブルネタをやるなら、爽快な喜劇の方が合っているんじゃないでしょうか。
ラストはかなり練られてました。
いざ勝負に出かけて、考え抜いて賭けることを決めた馬は、直前に熱を出して出走中止。さぁ、どうする?っていうハラハラの展開。
これは上手かったですね。
ただラストが「予想は外れたけど、間違えて買った馬券で大当たり」というオチはドラマ的にはありかもしれないけど、僕的にはしっくりきません。
やっぱり伴淳三郎さんの予想屋がちゃんと当てて、さすがプロっていうのが良かったなぁ。
今回もオールスター喜劇の体裁となっていますが、出演者の顔ぶれは前作より小ぶりです。
飽きることはありませんが、思いの外面白かった前作を超えられてません。
これは続編の宿命かもしれません。
どんな映画でも、続編っていうのは難しいんですね。
今回は半分ぐらい岐阜の観光ガイドになってすみません(笑)
現在はDVD、Blu-rayとも廃盤(商品化されたことがない?)になっています。