どうしても強烈な先行イメージが邪魔をして避けられる映画っていうのがあります。
そんな一本が「宇宙人東京に現わる」(1956)。
この映画と言えば、宇宙人「パイラ人」。
この宇宙人のお陰で、チープなSFモノじゃないの?と思われて、見ず嫌いな人も多いんじゃないでしょうか?
これが実は「見たら凄いんです!」っていう作品。
(私脱いだら凄いんです、みたいですね)
さて、どこが凄いのかレビューします。
(あらすじ)
東京の天文台で謎の円盤が目撃され、怪奇な生物が目撃される事件が頻発するようになった。彼らはパイラ人という宇宙人で、やがて人間に擬態して、天文台に現れ、このまま核兵器競争を続ければ、人類が滅亡してしまうことを警告する。しかし彼らが高度な文明を持つ宇宙人であること信じない人間に、それを証明するために、まだ見ぬ遊星が地球に向かって飛来していることを予告する。そして彼らが指定した日、ついに遊星が確認される。それは同時に地球滅亡の危機が現実になりつつあるということだった・・・
この映画、SFマニアの間ではかなり有名な作品。
何で有名かというと、勿論パイラ人。
で、パイラ人の何が凄いかっていうと、そのデザインと造形。
下の写真がパイラ人。
ね、凄いでしょ?
決して、宇宙人が操る怪獣ではありません。れっきとした知的宇宙人。(それも地球よりかなり進んだ文明の宇宙人)
パイラ人のデザインは、なんと岡村太郎先生!
あの大阪万博(1970年の方)の太陽の塔をデザインした、世界的な大芸術家です。
僕らの世代では「芸術は爆発だ!」ってうCMで有名です。
パイラ人ってどことなく太陽の塔に通じるものがありません?
岡本太郎先生が描いたオリジナルのパイラ人を見てみたいんですが、画集に載ってるんでしょうか?それとも川崎にある岡本太郎美術館に行けば見れるんでしょうか?
とっても興味があります。
そしてパイラ人をカルトにしているのは岡本太郎先生のデザインだけではありません。
それはパイラ人の造形。
・・・完全に被り物(泣)
文化祭出し物か?!っていうレベルです。
布で作って、中に人が入ってるのがバレバレ。
このパイラ人を見て、見るのを避ける人がいても仕方ないです。
怖いとかじゃなくて、「こんなのが出てる映画なんて、チープなC級に違いない」って思われて。
↑ 昭和の時代はこんな縦長ポスターが洋画・邦画問わず多かったですね~。
この映画、どうしてもインパクトの強いパイラ人が全面に出ちゃいますが、実は登場時間は限られてます。
彼らは地球の危機を伝えにきただけ。(バルタン星人のように襲ってくるワケでも、ウルトラマンのように全面に立って地球の危機を救ってくれるワケでもありません)
もっと言えば、あのヒトデ姿は前半だけ。
後半は普通の人間に擬態してます。
人間の姿の時も普通の洋服やスーツで、変な宇宙服を着ているワケでもありません。
つまり、映画のポスターは誇大広告の疑いありです。
あれを見たら、絶対に「地球坊援軍」(1957)みたいな侵略モノって思うのが普通。
だってポスターは、まるでパイラ人が大挙して地球に飛来して、襲ってくるようなイメージじゃないですか。
更に当時のロビーカード(スチール写真)では、東京駅を破壊しているようなものもあります。
勿論、そんなシーンは全くありません。
ちなみに映画に出てくるパイラ人は、ほぼ人と同じサイズです。
他の宣伝写真には、人間がパイラ人の足元にいる「巨大パイラ人」っていうのあります。
ひょっとしたら当初の企画では「巨大な宇宙人が東京を襲う」っていう、普通の怪獣モノだったのかもしれませんね。
とにかく実際の(?)パイラ人は、序盤こそおどろおどろしく姿をチラ見せするものの、蓋を開ければ、実は地球の平和を願うとってもいい人たち。
更に人間に擬態していたことを日本の科学者に見抜かれても動じず、淡々と大量破壊兵器の廃絶を訴えるパイラ人は沈着冷静。
前半はそんなパイラ人と、彼らを半信半疑の目で見る科学者たちの駆け引き。
目撃される謎の生物は何か、主人公たちの前に突然現れた美女こそが宇宙人なのか、そして彼らの目的は何か、彼らは自分達を証明出来るのか、というミステリー要素が強く、意外に静かに進んでいきます。
彼らは地球が核兵器で滅亡しないように、世界に核兵器の廃絶を訴えますが、ガン無視され、仕方なく自分達が科学の発達した宇宙人であることを信じさせるために「あなたたちにはまだ見えませんが、遊星が地球に向かって飛んできてます。あなたたちも15日後に見えるようになります」と予言。
この宇宙の平和を訴える宇宙人が、破壊とかではなく、ちょっと地味目の凄い力を見せるっていう展開は、「地球の静止する日」(1951)に似てますね。
あっちは「12時に世界の電気を止めてみる」でした。
ひょっとしてアイディアをお借りしたのでしょうか?
その影響で宣伝写真にあるような悪の宇宙人話から、平和を訴える宇宙人の話に変更したりしたんでしょうか?
(想像し過ぎ)
後半は遊星が地球に接近し、人類が滅亡の危機が迫る中で繰り広げられる人間ドラマ。
はっきり言って、この映画の見所はこの後半。
この映画は登場人物は、主人公の壮年~老年の科学者3人(渋い!)を始め、パイラ人を除けば、市井の人々ばかり。
そのため前半から赤提灯の店での飲むシーンや家(昭和の日本家屋)で仕事をするシーン、酒屋の兄ちゃんが電話の取次ぎをする(当時は電話がない家が多かったみたい)シーンといった市井の人々の生活が描かれていました。
そんな人たちが遊星の接近によって引き起こされる地殻変動や異常気象、気温の急上昇により、絶望にとらわれてきます。この辺りの描写は今でも通用する迫力がありました。
ただ幼稚園の保母さんが、泣く子供たちに「さぁ、みんな歌を唄いましょう」って、童謡を歌うシーンは、さすがに昭和だなぁ、と思わせましたが。
そんな無力感と終末感溢れるクライマックスは見応えあります。
この辺りは屈指の終末感と絶望感を感じさせてくれるのは東宝の特撮映画「世界戦争」(1961)に通じるものがありした。
「世界戦争」は無情にも第三次世界大戦(核戦争)が始まってしまうのですが、こちらは科学者の一人が発見した核兵器を上回る元素を利用し、パイラ人がミサイルを作って、遊星を破壊するハッピーエンドなんですが。
この映画(製作は大映)の特撮はかなりのレベルでした。(ただしパイラ人を除く)
特に後半の災害シーンは、ぱっと見た目、特撮と分からないものもあり、かなりの高水準。
この頃の特撮と言えば、神様・円谷さんが君臨していた東宝特撮が抜きんでている印象がありますが、大映もこの映画や「大怪獣ガメラ」(1965)や「大魔神」(1966)と引けを取らない、素晴らしい特撮を作ってたんですね。
(調べたら、この映画で特撮を担当してた方は、のちに円谷プロに移籍し、ウルトラシリーズで活躍されたようです。納得)
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
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そう言えば、この映画の6年後に作られた東宝特撮映画「妖星ゴラス」(1962)も遊星衝突をテーマにしてました。でも、あっちは人類が総力を挙げて遊星衝突を回避するというヒーロードラマだった記憶があります。
パイラ人のことばっかり書いてた気がしますが、見応えのあるドラマであることは間違いありません。
それに、きっとパイラ人がもっと普通のデザインだったら、SFマニアにさえ忘れ去られていたかもしれません。
そう思うと、この映画はパイラ人のお陰で歴史に名を残せたんです。
彼らの存在は功罪相容れるってとこですね。
(どんなに公平な目で見ようとしても、見終わったらやっぱりパイラ人のことが記憶に残っちゃうのは仕方ありません)
古いSF映画でも見れるよ!という人であれば、一見の価値があるので是非。
最後に昭和30~40年頃の特撮は、子供向けではなく、大人をメインターゲットにした作品が多く作られました。
でも気が付けば昭和50年前後は特撮映画=子供向になってました。
怪獣映画もリアルな怖さではなく、怪獣プロレスと揶揄されてたし。
(ただし「ゴジラ対ヘドラ」(1971)は除く)
やっぱりゴジラが子供の味方になった東宝チャンピオンまつり祭(1969~1978)のせいでしょうか?
(チャンピオンの名前の由来は、「怪獣王を決定する」という怪獣対決映画がメインだったから、らしいです)
「宇宙人東京に現る」のDVDはそこそこ手軽なお値段です。
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