ジェームス・グリッケンハウスって名前を聞いて、「おー懐かしい」と思う人は相当のヲタクです。
そんな彼の隠れた名作(?)が「ザ・ソルジャー」(1982)。
大昔に劇場で見た時は面白かったんですが、今見るとどうでしょうか?
(あらすじ)
アメリカで核物質が強奪され、サウジアラビアの油田に核兵器が隠された。テロリストの要求はパレスチナのイスラエルからの解放。核兵器が炸裂すれば、世界の原油供給の50%が絶たれることに。アメリカはCIAの特殊工作員<ザ・ソルジャー>にタイムリミットの96時間以内に秘密に解決するように指令を受ける・・・
僕がこの映画を見たのは、昭和の時代、多分85~86年頃です。
同時上映は多分、ジャッキー・チェンの「プロテクター」(1985)。
そっちもグリッケンハウス監督なので、<グリッケンハウス特集>だったのかもしれません。
ちょっと通好みの特集過ぎませんかね?
話が逸れますが、「かもめ座」は普通の映画と18禁の映画を週替わりで交代に上映するような映画館でした。
スクリーン両脇にカーテンがあったり、椅子がフカフカ「だった」椅子だったり、と、「昔は格式のある映画館だったんだなぁ」と思わせる作りでしたが、当時は相当に古びて、小汚い感じになっていて、まさに場末の映画館という佇まい。
近所に場外馬券売場や特殊映画館(?)「光音座」があるような地域なので、映画目的ではなく、時間つぶしで入るようなお客さんが多い印象でした。授業が終わった夕方の遅い時間に入ると、お客さんもまばらで、ちょっと怖い感じだったのを今でも覚えてます。
「ターミネーター」(1984)もここで見ましたが、その時一番印象に残ってるのが、隣の席にどぎつめのエッチな本がポンと置いてあったことです。後にも先のもそんな経験は、「かもめ座」しかありません。
さて、昭和のB級アクション映画好きが、グリッケンハウス監督と聞いて思い出すのは「エクスタミネーター」(1980)じゃないでしょうか。
残酷描写多めのB級アクション映画で、フルフェイスのヘルメットに革のベストと、マッドマックスのパクリみたい(きっと意図的)なポスターがB級臭をプンプンさせてました。
だけど中身はテンポのいいアクション映画。
今でもカルト的な人気があり、僕も見直してみたいと思ってます。
アクション映画を作ることに長けた監督で、ほとんどがB級映画。
また監督作、プロデュース作ともに多くなく、まさにマニアのための監督です。(笑)
で、本題の「ザ・ソルジャー」です。
正直に言います。
どんな話か全く覚えてなかったです。
いや、もっと正直に言っちゃうと、僕の頭の中でこの映画の感想は「アクションがいっぱいの面白い映画」っていうテキスト情報になっていて、動画どころか、映像も覚えてない状態でした。
映画館のことはあんなに覚えているのに(笑)。
そんなわけで、とっても新鮮な気持ちで今回改めて見てみたら、やっぱり面白かったんですよ。
話のテンポも良く、アクションシーンのキレもいい、そして何よりもダラダラしたところが少ないのがいいですね。
その売りであるアクションシーンはかなり上手いです。
アクションに次ぐアクションの連続!っていうよりは、要所要所できちんとアクションシーンを見せてくれる構成。
勿論、アクション自身はお金をかけた大作のような派手さやスケール感はないですが、十分楽しめるレベルにあります。
スキーでのチェイスなんて、007シリーズ????っていう出来。
グリッケンハウス監督に007を撮らせてみても面白かったんじゃないでしょうか。
話の舞台が主にヨーロッパっていうのは、往年のスパイ映画の雰囲気があってGOODです。特に冷戦下のベルリンはスパイ映画の王道ですね。ベルリンの壁があるうちに訪問してみたかったなぁ。
ただ話としては雑になるところが多いんですよ。
理論的とか、整合性とか、説明力はあまり気を使ってないように見えます。
例えば今回の黒幕はテロリストじゃなくて、KGBなんですけど、何でKGBがイスラエルをパレスチナから撤退させようとするのか、世界大戦の引き金となるような事件を起こすのか、イマイチ腑に落ちません。
そんな感じで、全体的に詰めが甘いところが目立ちます。
まぁ、そもそも主人公(CIAの秘密特殊工作員)のコードネームが「ザ・ソルジャー」。
めちゃめちゃストレート過ぎてコードネームになってないですよね?
ちなみに脚本はグリッケンハウス監督本人。
監督作は一作目以外、全部自分で脚本書いてます。
根っからのアクション監督なので、「面白そうなアクションが出来そうなプロットを思いつく → 具体的なアクションシーンを描く → アクションシーンが映えるような脚本を書く」って流れなんじゃないでしょうか。
ただし庇うワケではないのですが、時間も95分とお手頃だし、「おー面白い」って思ってる間になんとなく終わってしまうし、そもそもB級だって目で見ているのも事実。
この手のB級アクション映画(それも80年代)に脚本力を求め過ぎてはいけない
そういうことだと思います。
そう考えると、このノリで007の脚本を書かれても困るので、やっぱり007の監督は無理ですね。
ちなみに「プロテクター」では、主演のジャッキー・チェンがグリッケンハウス監督の脚本と演出に大いに不満だったみたいで、アジア地区ではジャッキーが脚本も変えて、アクションシーンだけでなく、普通のシーンも撮影・編集し直したバージョンが公開されたようです。
正直、ラストの戦闘機が出撃するシーンがニュースフィルムっぽいやつからの露骨な使い回し(画質が明らかに違う)だったりと、所々安っぽさが匂います。
しかし安っぽさは「ちらほら」というだけで、リアル低予算映画に見られる、「どこを切っても安っぽい」というワケではありませんので、ご安心を。
寧ろベルリンのカーチェイスや、前述のスキーでのチェイスシーンはしっかりつくってあるので、安っぽいところが相対的に目立ちやすいのです。
まぁ、単にアクションシーンにだけカネとチカラをかけました、ということかもしれませんが。
主演のケン・ウォールは、左右繋がっていそうな太い眉毛にばかり目が行きますが、ちょっとカッコイイし、軽くもなく、かといってシリアス過ぎず、アクションもそこそこサマになる、この映画にうってつけの人材。これはナイスな配役です。
ケン・ウォールのフィルモグラフィを見ると、あまり作品に恵まれず、1990年代後半で映画出演がなくなってますね。
「ストリート・オブ・ファイヤー」(1984)や「フィラデルフィア・エクスペリメント」(同じく1984)で人気の出たマイケル・パレと似たような立ち位置だったんでしょうが、マイケル・パレほどB級アクション映画まっしぐらに振り切れなかったことが敗因だったのでしょうか。
(マイケル・パレは今でも年に数本B級アクション映画に出てます)
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
また意外なところで名優(怪優?)のクラウス・キンスキーがKGBの大物を演じています。
カメオ出演ではなく、ちゃんとした役です。
「キャットピープル」(1982)の時にも書きましたが、クラウス・キンスキーは、美人女優ナスターシャ・キンスキーのお父さんとしても有名な人です。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
そして僕が密かに驚いたのが、音楽を担当しているのがドイツのプログレッシブバンド・タンジェリンドリームだったこと。
元々、彼らはちょこちょこサントラを担当してる、それもB級が多いのでこれも「さもありなん」なんですけどね。
彼らのサントラの中では、フリードキン版「恐怖の報酬」(1977)がお勧めです。
中学生頃に名鉄岐阜駅の近くにあった小さな輸入レコード屋で買って以来、今でもCDに買い替えて聞き続けてます。
ちょっと鬱になりそうな音楽ですが、映画の雰囲気に見事にマッチするので、興味のある方は是非。
映画史的に見れば、かなりの小作品。
胸を張って「この映画のことを覚えてる人は相当マニアック」と言える作品です。
それを証明するかのように、この映画もAMAZON PRIME、Netflix、U-NEXTのサブスクにはありません。勿論、近所のレンタルDVD屋にもありません。
また現在、新品のDVDも入手出来ないようです。
そんなワケで前回の「食人族」(1980)でも書きましたが、この作品もTSUTAYAの宅配レンタルを利用しました。
大切なことだから、前回に続いて言っておきます。
本当にこんな映画まで揃えてくれているなんて、宅配レンタルは神です。