公開当時、新感覚のホラー映画として宣伝された「ファンタズム」(1979)
SF/ホラー映画にどっぷりつかっていた当時の僕は、当然劇場に足を運びました。
場所は今も昭和の繁華街・柳ヶ瀬で唯一、昭和の時代から生き残っているロイヤル劇場。(今は名画座)
同時上映はいしいひさいち先生のマンガをアニメ化した「がんばれ!!タブチくん!!」(1979)
凄い組み合わせでしょ?さすが、昭和の地方二本立て。
実は数年前、40年ぶりに見たんですよ。
その時の感想は公開当時と同じく、「分かったような、分からないような映画」でした。
さて三回目はどうでしょうか?
(あらすじ)
主人公は、兄の友人の葬式を盗み見した時、葬式後に不気味な男”トールマン”が、200キロもある棺を乱雑に霊柩車に投げ込むのを見てしまう。
その怪しい行動を不審に思った彼は、トールマンのいる霊廟に忍び込み、そこで空中を滑空する殺人球体シルバーボールに襲われる・・・
この映画、個性はあります。
不気味な背の高い男(トールマン)、謎の小人、空中を滑空する殺人ボール「シルバーボール」、白を基調としたシンプルな霊廟の内部、といったインパクトのあるビジュアルイメージ。
幽霊とかゾンビとかではない、ファンタジー要素の強いホラーセンスはなかなか良いと思います。
特にシルバーボールのインパクトは相当なものがありました。
でも面白いか、面白くないかと言われたら、相当にビミョー。
何でかというと、話がそういう要素を上手に生かせてません。
というか、素晴らしいビジュアルイメージを繋ぐ話やキャラ設定が雑過ぎ。
話に整合性というか、観客を納得させるような筋立てがないんですよ。
思いついたネタを繋いでみました、という感じにしか見えません。
唐突に話が展開したり、唐突に謎が説明されたり、またその説明がすげー思いつきにしか見えなかったり・・・
ダリオ・アルジェント監督の映画に似た匂いがしますが、ダリオ・アルジェント監督の映画が話的にはストレートで分かり易いのに比べ、「ファンタズム」は話が???になります。
というわけで話に魅力が皆無。
その最たるものが、登場人物の描写。
主人公のマイク少年はどう考えても偏執狂。
年の離れた兄のことが好き過ぎて、いつも彼の後をつけています。
ストーカーです。
お兄さんが酒場でナンパした女の子とエッチしようとしている姿を、遠くの茂みの中から、双眼鏡で監視しています。
兄を慕ってる、っていうレベル超えてますよね?
そんなちょっとアレな感じの少年なので、彼が見たというトールマンやドワーフも、実は彼の幻覚・幻想なんじゃないかって、兄だけじゃなく、見ている僕も思っちゃいます。
しかし暴走する彼は、周りに理解をしてもらおうと努力する気はなく、「俺はあいつらに襲われる」と不安に駆られ、サバイバルナイフを持ち歩くようになります。
あれ?これって最近、日本でも起きている事件の犯人の供述と行動に近くないですか?
関係ない人を刺しちゃうんじゃないかって心配です。
当然、兄の言うことなんて全然聞かずに、ひたすら暴走するマイク少年。
うーん、これじゃ見ている方が応援する気になれないので、彼がピンチになってもハラハラしません。
当然、そんなパラノイア的な主人公の話を兄は信用しません。
(いくら弟でも、女の子とHすることろをのぞかれてたらねー)
が、終盤になって唐突に兄が彼の話を信用し、トレンディエンジェルの斎藤さんのような禿げ方をしている兄の友人レジーも巻き込んで、トールマン退治に霊廟に向かいます。
そこで驚愕の展開が・・・
彼らが死体をドワーフ(小人化)していたのは、別の惑星で働かせるためだった!
え?
これってホラーじゃなくて、侵略物SFだったんですか?
トールマンは宇宙人だったんですか?
もし彼らの目的が死体を勝手に小人として生き返らせて、別の惑星で働かせてるだけなら、実害なくないですか?(親族の心情は別として)
すったもんだあって、レジーはトールマンに刺されて死亡。
トールマンの本拠地だった霊廟は、光に包まれて消えます。
これって「ロッキー・ホラー・ショー」(1975)のラストでフランクン・フルター城が宇宙へ飛び去ってたのと同じで、正体がバレたから宇宙に帰ったんでしょうか?
しかし残されたトールマンはしつこく主人公兄弟を追い回すんですが、300メートルあるという炭鉱の竪穴(70センチ四方ぐらいの四角い穴)に落ちて、THE END。
そんな小さい深さ300メートルの穴ってあるんだっけ?
ちなみに上から蓋をするために落とした岩は、めっちゃ発泡スチロール感満載でした。
だが、これがエンディングじゃないんです。
場面変わって、何故か死んだはずのレジーがマイク少年と一緒に暖炉の前にいます。
「お兄さんが死んだのはトールマンのせいじゃない。交通事故だよ。君は悪夢を見てたんだ」
やっぱり兄が好き過ぎた少年の妄想だったのか・・・
夢オチかよ・・・
でも、やっぱり最後にトールマンが登場して・・・と、何がなんだか分からない状況でおしまいでした。
そんなワケで本当にビジュアルイメージだけの映画といっても過言ではないでしょう。
何か残念な話ばかり書きましたが、この映画のテーマ曲は70年代ホラーテイストに溢れた、なかなかの佳曲です。
(ホラー映画じゃないけど)
さて、70年代のB級映画(ホラー映画)と言えば、日本の映画配給会社のイケイケな宣伝を抜きでは語れません。
この映画の配給会社は、70年代のイケイケ映画広告の王様「東宝東和」。
何度、この会社の宣伝に踊らされたことか・・・
このブログでも「メガフォース」(1982)、「サスペリア」(1977)、「キャノンボール」(1981)で、東宝東和パワーについて触れてます。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
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この映画でも遺憾なく東宝東和パワーが発揮されています。
この映画も70年代特有の(?)特集音響効果を売りにしています。
その名も「ビジュラマ」!!!
説明によれば立体音響で、この映画のウリであるシルバーボールが前後左右から飛んでくるように聴こえるそうです。
まぁ、「ジェット・ローラーコースター」(1977)のセンサラウンド、「世界が燃えつきる日」(1977)のSOUND360、とありましたから、宣伝手法の流行りものだったんでしょうね・・・
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
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昔のホラー映画には「実際の撮影現場でも、こんな恐ろしいことが・・・」っていうのがよくありました。
出演者や監督が完成直後に急逝したとか、画面に幽霊が映り込んでるとか。
画面に幽霊が映り込んでるっていうのは、「サスペリア」の冒頭でタクシーの運転手の後頭部に男の姿が映っているのが有名です。
でも、あれって監督のダリオ・アルジェントが「わざとやったんだよ」って、インタビューで答えてましたね・・・
情報流通の少ない、インターネット以前の世界で使われた、宣伝の常套手段でした。
この映画にもそういった宣伝的盛り上げネタがあって、パンフレットにも掲載されてました。
その中で、「シルバーボールを考案したウィラード・グリーンが撮影中に亡くなったが、不思議なことにシルバーボールの設計図や記録が全て消え失せたため、あれがどう動くかは誰も知らない」とあります。
でもね、この映画、続編が4本もあるんですが、どの作品でもシルバーボールは元気に飛んでいます。
これぞ、昭和の宣伝ですね。
総論として、どういう角度から見ても、B級映画以外、何物でもありません。
それもB級映画の中でも平均ちょい下。
なのに、この映画、さっきも書きましたが続編が4本作られてるんですよ。
凄いでしょ?
でも安心して下さい。4作目までは、1作目同様にドン・コスカレリの制作、脚本、監督です。5作目だけ監督を別の人に任せてます。
まぁ、彼の超個人的ライフワークってことですね。
ちなみにこのシリーズの主人公は、この話の発端であるマイクではなく、彼の兄の友人であるレジー(禿げたおじさん)です。
でも、なかなか味があって悪くないですよ。
DVDも出てますが、お高めです。やっぱりマニア狙いなんでしょうか・・・