パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【デスレース2000年】ブラックユーモアたっぷりの実写版チキチキマシン猛レース

「昭和の妖しい映画」という看板を掲げいて、この映画を素通りすることは出来ません。

中二病の心を熱く燃やした映画。

それが「デスレース2000年」(1975製作/1977日本公開)。

 

70年代B級娯楽作の金字塔(?)

勿論、カルト映画です。

しかし同じカルト映画でも「ピンク・フラミンゴ」(1972)や「ホーリーマウンテン」(1973)のような作家性の強い芸術的(?)カルト映画ではなく、娯楽映画系カルトです。

同じ系列としてブライアン・デ・パルマ監督の「ファントム・オブ・パラダイス」(1974)やキング・オブ・カルトの「ロッキー・ホラー・ショー」(1975)でしょうか。

ただそのどちらと比べて、「デスレース2000年」は圧倒的にチープさが凄いんですけど(w)

さて、この映画は何度も見てますが、今回改めてレビューしてみます!

 

(あらすじ)

西暦2000年、世界はアメリ連邦に支配された管理社会となっていた。その世界での最大の娯楽は「デスレース」と呼ばれるアメリカ横断レース。参加する5人組(レーサー&ナビゲーター)の中には奇跡のカムバックを果たした人気レーサー、フランケンシュタインの姿もあった。レースはルート自由、相手への妨害自由、そして国民を轢き殺せば、年齢、性別によってポイントが加算される「死のレース」だった・・・

 


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殺人改造車がお互いだけじゃなく、公道にいる人を殺して観客を殺してポイントを稼いでいく・・・これで熱くならない中二病はいないと思います。

まぁ、今考えると、モラルスレスレの設定ではあるんですが。(ってかアウト?)

 

話は70年代に流行ったディストピアSFです。

流行った設定は、閉鎖感のある(欺瞞に満ちた)管理社会という、ジョージ・オーウェルの小説「1984」的ディストピアが主流だったと思います。

 

この映画も管理社会下で大衆のストレス発散のために行われる殺人ゲームと、実は政府に疑問を持っている大スターが主人公という、典型的なディストピア設定。

実は同じ1975年に作られたディストピアSFの「ローラーボール」(1975)も同じ設定でした。

 

そして、どちらも映画で描かれた殺人ゲームが、後々の映画、小説、マンガ、アニメに大きな影響を与えています。

 

なのに片や格調高いシリアスな作風で、片やコミカルでチープな作風になっちゃうんでしょうかねぇ。

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レースを繰り広げるのは、5台の殺人改造車。

どの車も「チキチキマシン猛レース」感全開。

見てもらえれば一目瞭然かと。

デスレース200年_フランケンシュタインの車

デスレース2000年_カラミティ・ジェーンの車

デスレース2000年_マシンガン・ジョーの車

残りの2台も「押して知るべし」です。

 

当然、レース中に人を轢くシーンもコミカル。

レポーターやキャスターも大袈裟(これは当時のニュースバラエティのレポーターをパロディってるんだと思います)。

行き過ぎて新興宗教的にレーサーに執着するストーカー的ファンも出てきます。

 

そして独裁制に抵抗するレジスタンスが登場しますが、彼らがとっても間抜け。

レースを妨害しようといろいろと罠を仕掛けるんですがドジばっかり。

でもどうしようもない罠でドライバーも死ぬんですよ。

赤ちゃんに爆弾を仕掛け地面に置き忘れたように見せかけ、得点狙いのドライバーが踏んでドカン!とか、トンネルの絵を描いた看板を崖のところに置いておいたら、本当のトンネルだと思って突っ込んで崖下に墜落とか。

まさにチキチキマシン猛レース」のブラック魔王がやってることと同じです。

 

キャノンボール」(1981)の時に「これはチキチキマシン猛レースだ!」って書きました。

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でも、車のおバカな改造度合いや幼稚な罠に引っかかるところ、相手を直接攻撃するとこなど、断然この映画の方がチキチキマシン猛レース」の実写版と言えます。

 

話はレースを通じて、レーサー同士、レーサーと一般人(わざと挑戦してくるツワモノあり)、そしてレーサーとレンジスタンスの馬鹿し合い(?)が程よく絡んできます。

それが1時間半に満たない上演時間(84分)に詰まっているので、どのエピソードも軽く、短く、テンポ良く進んでいきます。

凝った演出、予想外の展開、「なるほど!」と驚くような伏線はありません。

正直、見ているうちに予想出来る展開(オチ?)も多いです。

言い換えれば、普通に楽しめる娯楽作に徹しているということです。

 

映画の絵作りとしては、車のデザインを見てもらえば分かる通り、チープなんですよ。

特撮もチープだし、舞台セットもチープ。

ラストにアメリカ連邦大統領が出てくるんですが、彼が登壇する演台がベニヤを赤白布でくるんだだけに見えるんですよ。

それも、なんとなく許せちゃうんです。

だってこれはシリアスなSFではなくて、文明批判のブラックユーモア映画だから。

そこは同じコミカルなSFだけど、「フレッシュゴードン」(1974)とは違うわけです。

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レーサー&ナビゲーターを含む登場人物もみんなコミカルで大袈裟なキャラを演じてますが、主人公のフランケンシュタインだけ異質です。

殺人改造車で繰り広げられる殺人レースの、伝説のチャンピオン・フランケンシュタイン

彼だけはニヒルで、クールで、謎めいたカリスマレーサーを公開前に僕らが抱いた期待通りでした。

フランケンシュタインを演じてるのは、ロバート・キャラダイン

先日見た「原子力潜水艦浮上せず」(1978)でも、一匹狼的な深海潜水艇パイロットを演じてましが、とにかくプロ意識の高いクールな役を演じさせたらピカイチです。

 

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これで主人公までコミカルだったら、ただのコメディ映画になっちゃったんじゃないでしょうか。

彼がシリアスキャラであることで、映画はディストピア感を保てているし、単なるお笑いではない、文明批判のブラックユーモア映画にしてるんだと思います。

 

さて、そんな主人公を最後まで目の敵にするライバルがマシンガン・ジョー。

演じるのは若き日のシルベスター・スタローンです。

まだ「ロッキー」(1976)でブレイクする前。

でも、喋り方、身のこなし、演技は完全に僕らの知ってる「シルベスター・スタローン」です。

粗野で、短期なキャラがとっても似合っていて好感が持てます。

 

この映画の製作はロジャー・コーマン

B級映画の帝王として知られていて、本当に凄い数のB級映画を製作してます。

その中にはこの映画や「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」(1960)、「ピラニア」(1978)、「ビッグ・バッド・ママ」(1975)のようなカルト映画が何本もあります。

また若手で優秀な監督や俳優を登用する(安くこき使う?)ことで有名で、彼に発掘された才能はジョー・ダンテジェームス・キャメロンフランシス・フォード・コッポラジョナサン・デミジャック・ニコルソンロン・ハワードなどなど。

その他に外国映画を買い付け、アメリカで公開するという映画の輸入も積極的にやっていて、「銀河鉄道999」(1979)や「風の谷のナウシカ」(1984)をアメリカで公開してます。

ただ吹替版を作る時(アメリカでは外国映画は吹替が一般的らしい)に、登場人物の名前や、時に話まで改変してしまうので、必ずしもオリジナルのファンからの評判は良くなさそうです。(多分、ジブリファンも怒ってるハズ)

 

ある意味、売れるためには手段を択ばない人なので、この映画も暴力あり、エロあり、笑いありと70年代B級娯楽作のツボがしっかり押さえられてるのは彼のお陰かなんじゃないでしょうか。

 

余談ですけど、当時この映画を参考にしたTVゲーム「デスレース」というのがありました。

人(一応ゲーム内ではグレムリンとなってますが、どう見ても人です)をひき殺して点数を稼ぐっていう、殺伐として、モラル的に完全にアウトなゲーム

登場したのはこの映画の日本公開と同じ1977年。

まだファミコン登場前(ファミコンの発売は1983年)で、ゲームはゲームセンターでやる時代。

このゲームもアーケードゲームでした。

僕も名鉄岐阜駅の裏にあったダイエー(現在はマンション)のゲームセンターに、同じSF映画好きの友達とやりに行きました。


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今見ると、ただダダっ広い場所で単に追っかけて轢くだけ、という、本当に殺伐としたゲームだったんですね。

記憶では平安京エイリアンパックマンみたいな迷路っぽいところで追いかけると思ってたんですが、全然違ってました。

 

でも、あまりこのゲームをやることはありませんでした。

何故ならすぐに摘発され、ゲームセンターから消えましったからです。

(摘発って何の罪状だったんでしょうか?公序良俗違反??)

 

ちなみに今はこの映画そのままのような「カーマゲドン」というゲームがあるそうです。

時代は変わりましたね~。

車椅子の一般人を轢き殺すのはエグ過ぎ。

ひき殺すのはギャングとか、そういうのがいいですよね。


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日本公開当時から、どれだけこの映画が好きかって言うと、当時雑誌「スクリーン」に載っていたこの映画のオリジナルポスター(5㎝ X 10㎝ぐらい)を切り取って筆箱の中に入れてたぐらいです。

(それが下のポスターだったと思います)

デスレース2000年海外版ポスター

 

この映画は、2008年にジェインソン・ステイサム主演でリメイクされてます。

アメリカでもカルト扱いで、人気があったんですね!

それも製作費は何と4500万ドルの大作としてリメイク。

オリジナルの本作の製作費は30万ドルなので、150倍です。33年間の物価を勘案しても、各段の差です。

(ちなみに米国消費者物価ベースで1980年と2008年を比較すると、ざっくり2.7倍

 

でもリメイク版は、舞台が閉鎖的な刑務所の中に作られたコースに変更されたり、一般人の殺人もなし。そしてユーモアはゼロのシリアス路線。

この映画の美味しいところを全部取り除いたリメイクに、僕はピクリとも感動しませんでした。

製作総指揮には、ロジャー・コーマンも参加してるんですが、完全に別物です。

もうチキチキマシン猛レースではありません。

本当のデスレースです。

(それじゃダメなのか???)

目の付け所は良かったんですけどね・・・

 

まぁ、完全武装した車同士が殺し合いっていう中二病を熱くする設定を、カッコ良く見せるっていう点では、とっても優秀な映画です。

(きっと、あの熱い設定を真面目に使ったら面白いんだろうなぁ、という人がいたんでしょう。気持ちはとっても分かります)


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70年代のカルト的映画を「商業的な娯楽作」としてリメイクして失敗したのは、「ローラーボール(リメイク)」(2002)と似てます。

 

今回調べてたら「デス・レース2050」(2017)っていうリブート作があったんですね。

こっちはちゃんとオリジナルの「デスレース2000年」のスピリットを継承してるっぽいです。見たいですね~。

これもロジャー・コーマン製作。どんだけ「デスレース」で儲ける気なのか(笑)

 


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チープな映画への耐性があれば、カルト映画好き、B級SF映画好きなら、必見です。

(カルト映画やB級SF映画はチープなのが多いので、マニアなら慣れてると思いますけど)

同じカルトでも「ピンク・フラミンゴ」や「ホーリーマウンテン」のような今でも唯一絶対的な孤高の存在ではなく、その後も模倣や影響を受けた作品が生まれ続けているので、マニアなら「現代B級娯楽作の源流の一つ」を学ぶという意味でも必要かと。

 

一応、「ピンク・フラミンゴ」と「ホーリーマウンテン」のレビューのリンクを貼っておきます。これはこれで強烈な映画ですが。

 

pagutaro-yokohama55.hatenablog.com

 

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ただ、普通の人には、「何が面白いんだか分からない」と言われそうですが・・・・

(長文を最後まで読んでくれた人は興味があると信じてますけど)

 

残念ながらオリジナルの「デスレース2000年」はDVDもBlu-rayも入手困難なようです・・・必見と言いながら、これかよ・・・(涙)