パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【スクープ・悪意の不在】現代でも通じる報道の在り方を問う娯楽作

僕が子供の頃はポール・ニューマンは大スターでしたが、僕が中学生を過ぎる頃には出演作も少なめになってきて、やや外れの映画が多くなってきた時期だったように思えます。

そんな時期に見たのがスクープ・悪意の不在(1981製作/1982日本公開)。

 

実は、この映画、本当に見たのかどうかさえ怪しいぐらい、中身の記憶がないんです。

印象としては「さっぱり中身が分からなくて、つまらなかった」

そんなタイトルとざっくりとした印象しか覚えてない映画を、今回は見てみます!(というか、見直す?)

 

(あらすじ)

FBIは迷宮入りしそうな港湾労働組合のリーダー行方不明事件を打開すべく、マフィアの親族である主人公に目をつける。FBIはさも彼が重要容疑者であるような情報を新聞記者のわざと目につくところに置き、彼女はそれを記事にする。それは彼を追い詰めて、何らかの情報を入手しようとするFBIの罠だった・・・


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この映画を見たのは、多分、岐阜のロイヤル劇場。

この頃、たまたまつけていた映画メモ帳を見ると、同時上映はジョン・ベルーシの遺作「ネイバーズ」(1981)だったようです。

「ネイバーズ」もジョン・ベルーシのコメディだからってすんげー期待して見に行ったんですが、まったく笑えなかった記憶があります。勿論、中身はほとんど覚えてません。

 

「さっぱり分からなくて、つまらない」から、きっと「単調で冗長な映画なんだろう」と思いつつ、前回の「クロスロード」(1986)や「シークレット・レンズ」(1982)の件もあり、「今の自分ならひょっとしたら理解出来るのでは?」と思い見てみることにしました。

(それでも「シークレット・レンズ」は中身は理解したけど、面白くなかったのですが)

 

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主演のポール・ニューマン

この頃はヒーロー的な人物を演じることが多かったんですが、この映画では半分善人、半分悪人といった灰色の人物を演じきってます。

元々、若いころは「暴力脱獄」(1967)や「ハスラー」(1961)といった、正義や善ではない主人公で高い評価を得た人なので、実はこういう役は得意なのかもしれません。

この映画でアカデミー主演賞候補になったんですが、それも納得の演技です。

 

ちなみにこの頃のポール・ニューマンは何をやっても今イチ上手くいかないと言われた時期なんですが、決して彼がダメだったんじゃなくて、ただ昔のようなネームバリューで客を集められなくなってただけって気がします。

 

事の発端となってしまう新聞記者を演じるのはサリー・フィールド

2年前に社会派ドラマ「ノーマ・レイ」(1979)で主演アカデミー賞を取って、ちょっと社会派寄りの女優に見られました。その点ではこの映画のキャスティングとしては理に適ってたかも。

ちなみに彼女はこの映画の前後がピークなんですが、バート・レイノルズのヒット映画「トランザム7000」(1977)に出てたりと、硬軟両方いける女優なのです。

サリー・フィールドってパっと見、綺麗でも可愛くもないけど、見ているうちに魅力的になっていく、不思議な存在感があります。それだけ演技が上手いんでしょうね。

スクープ・悪意の不在 パンフレット表紙

話はびっくりするぐらいしっかりとした社会派ドラマでした。

それもただの社会派に終わらず、ちゃんと娯楽作にも仕上がってる出来の良さ

 

初公開時僕の年齢を考えると、当時この内容と面白さは分かって良かったんじゃないかなぁ~って思うんですが、余程中身が子供だったってことでしょう。

残念過ぎる。

 

前半は主人公がFBIの罠にハマって、従業員が全員辞めたり、取引先が相手にしてくれなかったり、挙句の果てに彼を助けようとした親友の女性が自殺に追い込まれたりします。

ここまでの展開は、がっつり社会派劇。

ここであぶりだされるのは、記事が公正平等ではなく、耳目を集めるために多少の不確かさがあっても目をつぶって報道してしまうということ、そしてそれが特定団体に意図的に利用されてしまうというメディアの問題点ですが、残念がらそれは現代にも通じる問題点だってことです。

今見ても、リアルに感じられるということは、40年間メディアの問題点は改善されていないということでもあります。

 

途中でラブロマンスっぽくなった時は「???せっかく社会派劇なのに、残念な展開になるか?」と思ったけど、後半は怒涛の騙し合いゲームになって、1枚上手の主人公が勝利。

 

FBIの強引な捜査官と検事を罠に嵌めていく展開は、まさに娯楽作。

ヒロインの記者にわざと曖昧な態度をして、彼女に自分が検事にワイロを送ってるんじゃないかって記事を書かせるんですが、それすら彼の計画の一部だったってところに、詐欺師的なカッコ良さがあります。

実はヒロインとのロマンス(これも急に彼が謝罪に来たところから始まってる)自体が、彼女を利用するための罠の一環だったのかもしれません。

 

そう思うと、ラストで街を去るために船出をするポール・ニューマンが、訪ねて来たサリー・フィールド一緒に行こうと誘わずに、「元気で」で終わるのは、本当のロマンスではなかったからかもしれませんね。

 

また主人公が逆転ゲームを仕掛ける直前に、マフィア(と思われる)叔父のところを訪ねて「情報が欲しい」とだけ言うシーンがあるんです。

どんな情報か分かりませんが、「主人公が検事にワイロを送って、自分の捜査を打ち切らせた」という記事が出た新聞を見て、叔父が「ついにやったな!」って大笑いするんです。

主人公が不利な記事なのに大笑いしてるなんて、明らかに主人公の計画を知ってたんですね。そして、多分、それに1枚噛んでるんでしょう。

そういう点でも、やっぱり主人公は実は黒かったんじゃないかって思えます。

 

だからこの逆転ゲームも、「無実の自分の疑いを晴らし、強引な捜査をしているFBIをギャフンと言わせる」ように見えますが、実は「本当は自分が事件に関わってるのだが、自分への疑惑を逆手に取って、捜査を打ち切らせた」とさえ見えてしまいます。

 

本当は主人公と恋に落ちた新聞記者が、ち密な取材を重ねて、主人公の嫌疑を晴らし、無罪キャンペーンを張って、FBIに諦めさせる、とか、後半に辣腕弁護士が出て来て、法廷で主人公の無罪を晴らしていく、といった展開だったら、純粋な社会派ドラマになったかもしれません。

 

そこを敢えて、一般人がFBIを詐欺にかける、みたいな、ちょっと荒唐無稽にしたからこそ、社会派ドラマほど重くならず、娯楽作ほど軽くはないという映画になったのかもしれません。

 

自分のことを弁解するわけじゃないですが、一見この中途半端さが僕の理解を超えていたんじゃないでしょうか。

 

監督のシドニー・ポラックは大作や名作を作る監督ではないけど、娯楽色の強めな佳作・良作が多いタイプ。この映画では製作もしてます。

自分の色にあった映画を知ってるなぁ、という感じです。

音楽のデイヴ・グルーシンや、クレジットはないけど脚本のデヴィッド・レンフィールドはポラック作品の常連。

つまりポラック色の強い作品だってことですね。

 

さて、そのデイヴ・グルーシンですが、特色はちょっとフュージョン/ポップス寄りのスコア。

ただ、この映画のテーマ曲は、フュージョン/ポップス味がありながらも、スリリングでめっちゃかっこいいです。ちょっと戦争映画っぽい感じもします。

オープニングの新聞印刷工場のシーンと、とてもマッチしてました。


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テーマは力強さが全面に出てるけど、劇中ではもっと彼っぽい、良い意味で軽やかさのあるものも流れます。

 

この頃が作品が最も脂が乗っていて、学生から社会人の初めの頃まで彼の作品をよく聴いてました。

彼のスコアの中で一番のお勧めは「コンドル」(1975)

ロバート・レッドフォード主演のスパイ映画で、これも監督はシドニー・ポラック

「コンドル」のサントラはレコードでもCDでも持ってます。

Condor!

Condor!

  • provided courtesy of iTunes

余談ですけど、「コンドル」は40年経った2018年にTVドラマシリーズにもなっています。

 

今回もPRIME VIDEOの100円セールのお世話になりました。

DVDはお手頃な値段で入手出来るようです。