パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【キャノンボール】これは”レース”ではない。チキチキマシン猛レースだ!

公道を使ってアメリカを横断するレースを描いたキャノンボール(1981)。

70年代から流行ったオールスター映画でもあります。

勿論、当時のお約束でポスターにも俳優がズラズラと描かれています。電飾みたいです。

この豪華布陣の「キャノンボール」、無事に観客の心にゴールイン出来たのでしょうか?

 

(あらすじ)

アメリカの東海岸から西海岸まで公道で速さを競う非公認レース「キャノンボール」。参加者は警察につからないようにあの手この手と知恵を絞り、あるものは救急車で、あるものは偽装神父、あるものは新婚夫婦を装ってゴールを目指すのだった・・・


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オマケに日本版のTVCM。めっちゃ昭和を感じられます。


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この映画が公開されたのは1981年12月。お正月映画第一弾でした。

岐阜でも大都市圏より1週間遅れて公開されてます。

いつも通りの二本立てなんですが、同時上映は「エンドレスラブ」。当時人気絶頂のブルック・シールズ主演の甘い恋愛映画で、主題歌がすさまじくヒットしました。(久々に聴きましたが、いい曲です)

 

 

当然、中二病まっさかりの僕は「エンドレスラブ」なんかに1ミリも興味はなかったんですが、スター達が共演するアメリカ横断ウルトラレースっていうのは燃えるぜ!ってことで劇場に向かいました。

 

そして劇場を出る時は虚無感がいっぱい

貧乏性なんで我慢して見た「エンドレスラブ」の生ぬるさのせいだけではありません。

キャノンボール」は僕の想像していた大人のユーモアを交えた血のたぎるレース映画・・・ではなかったのです・・・

 

今回もまた宣伝に騙されました。

だってパンフレットの表紙はこんなんですよ。

キャノンボール パンフレット表紙

いろんな俳優のイラストと、カウンタックを中心にズラズラと並んだ車たち。

娯楽レース大作ですよね?

僕は間違ってないですよね?

 

そう、お気づきの方もいると思いますが、この映画の配給会社はあの東宝東和

昭和のカルト宣伝の金字塔「メガフォース」を始め、今なら誇大広告で消費者から訴えられてもおかしくない宣伝を連発したツワモノ会社だったんです。

そりゃ、高校生では勝てません。

pagutaro-yokohama55.hatenablog.com

主演は男臭い、アクション系映画で活躍してたバート・レイノルズだし、監督もスタントンマン出身のハル・ニーダム

このコンビでカーアクション娯楽作「トランザム7000」等のヒットを出してた頃なんで、東宝東和の黒マジックがなくても、間違った方向に期待していたと思います(自己弁護)

 

この映画、結論から言うと懐かしのアニメチキチキマシン猛レース」の実写版みたいなイメージです。

(あ、本当の実写版は、僕の心の映画「デスレース2000年(1975年)」ですけどね)

要は実力で勝つレースではなく、「いかに狡賢く、ライバルと警察を出し抜くか」というお話。

 

さて、冒頭で映画会社のロゴが出ます。

あれ?この映画会社は・・・20世紀フォックスでも、コロンビアピクチャーでも、MGMでもありません。

 

ゴールデンハーベストです。

 

そう、ブルース・リージャッキー・チェンの映画、Mr.BOOシリーズで有名な香港の大手映画会社、あのゴールデンハーベストです。

アメリカ映画じゃないんだ・・・

ここで警戒すべきでした。

劇場公開時は、まだ警戒能力が低かったんですね。

 

やがて、主人公(バート・レイノルズ)が乗る車が、ポスター(確かパンフレットと同じイラストだったと思います)の中央に描かれているカウンタックどころか、スポーツカーでさえないことが発覚。

なんと救急車!

畜生、ここでも東宝東和の罠が!!!

救急車ならパトカーも止めないだろう、という発想。

それも万が一止められた時を考えて、金で雇った医者まで乗り込ませる主人公。

更に途中で無理やり乗せた写真家(ファラ・フォーセット)まで乗せます。

もうリアルレースの高性能+軽量化の追求なんて関係ありません

 

ファラ・フォーセットは1秒もハンドルを握りません。

要は映画に華を加えるためにいるようなキャラです。

でも当時、彼女はTV「チャーリーズ・エンジェル」に出演して、日本でも大人気。

なので彼女はデカデカとポスターのど真ん中に描かれました。

それもレーシングスーツ姿。

繰り返します。彼女の役は写真家で、全くハンドルを握りません。

当然レーシングスーツなんか着ません。

出ました、東宝東和の黒マジック。

 

脱線したので本編に戻って、他の参加者のインチキぶりも似たようなものです。

 

神父の化けてフェラーリを飛ばす二人組や、「新婚旅行は警察に捕まらない」と相棒に女装をさせてバイクを飛ばす金持ち、警官を色仕掛けでかわすことをモットーとしている女性ペア等、一癖も二癖もあるキャラ達。

いろんな設定のキャラを出し過ぎて、存在感の薄い人たちも少なくないですが、それでもどこか懐かしい面白キャラ達が堪能できます。

勿論、こういう映画に欠かせないドジな敵役(執拗に追ってくる交通安全協会のおじさん)もいます。

 

とにかくフェアで真面目なレースなんて発想はありません。

これぞ、チキチキマシン猛レースです。

 

そんなキャラの中で印象的だったのが、ロジャー・ムーア

出演したのは007役で売れてた頃です。(「007/ムーンレイカー」の翌年)

彼の役柄は「自分のことをロジャー・ムーア+ジェームス・ボンドだと思ってる金持ちのボンボン」。

勿論、乗っている車は秘密武器満載のアストンマーチンDB5!初代ボンドカーです。

そんななりきりドジキャラを、ロジャー・ムーア本人が真面目、且つ楽しそうに演じてるんですよ。これは一見の価値ありです。

 

次に印象的だったのは、ジャッキー・チェンとマイケル・ホイ(Mr.BOO)の日本人コンビ。

ハイテク改造をしたスバルに乗るんですが、真面目だけどハイテク過ぎて失敗ばかり、という当時の日本人イメージを反映してます。

ジャッキー・チェンが運転しながら、こっそり車載ビデオで伝説のポルノ映画「グリーンドア」を見るシーンも、ある意味むっつりスケベという日本人観を反映してます(笑)

この二人、日本語と中国語、英語のちゃんぽんで会話するんです。英語と日本語は分かりますが、何故中国語?中国と日本をごっちゃにしてる?と思ったんですが、製作が香港の会社なので、ワザとなんでしょうね。

ちなみに終盤、キャノンボールの参加者と暴走族の乱闘シーンがあるんですが、途中で他の参加者が「さぁ、行くぞ!」って去っていくのに、ジャッキー・チェンだけが「俺はまだやるぞ!」と一人残ってたっぷりカンフーアクションを見せるんです。

これってジャッキーのアメリカへの売り込みも兼ねていたのかもしれませんね。

 

当時がっかりした記憶があったので、今回はかなり警戒して見始めましたのですが、終わってみれば意外に面白かったです。

今の時代には失われた80年代テイストに溢れた娯楽作(勿論、B級レベルですが)と言えるかもしれません。

もし最初からお笑いレース映画だと知ってたら、当時の印象も違ってたんでしょうね。

 

ハル・ニーダム監督は、これでゴールデンハーベストに見初められたのか、前述の怪作「メガフォース」の監督をすることになります。(合掌)

 

そう言えばアメリカ横断公道非公式レースはこの映画の5年前(1976年)に「爆走!キャノンボール」という映画がありました。

これを作ったのは香港の映画会社ショウ・ブラザーズ。

ゴールデンハーベストは、同郷のライバルに対抗してこの映画を作ったのかもしれませんね。

 

さて、最後に口八丁手八丁の偽神父に黒人スターのサミー・デイヴィス・ジュニアが扮してるですが、そんな彼をバート・レイノルズが「黒人の神父なんかいるか?」「黒い神父」「チョコレート神父」ってディスるんです。

今なら間違いなくコンプライアンス違反になる発言を連発。

20世紀は遠くなりにけり、です。

 

今回はU-NEXTのサブスクで見ました。

新品のDVDは手に入ります。