カルト映画として頻繁に取り上げられる日本映画の一本。
それが千葉真一さん主演の「直撃!地獄拳」(1974)
何度聞いても凄まじいタイトルです。
なかなか見る機会がなかったんですが、先日プライムセールで東映チャンネルのサブスクが2か月間だけ79円だったので早速加入したら、この映画がラインナップにあったんです。
(東映チャンネルに入ったので、暫く日本映画のレビューが増えそうです)
早速、夢にまで見た(?)「直撃!地獄拳」をレビューします。
(あらすじ)
甲賀忍術の伝承者でありながら、祖父の修行が嫌で飛び出し、今は都会でしがない探偵をやっている主人公。彼は謎の美女から、死刑囚で合気道の達人を脱獄させてくれ、という依頼を受ける。忍術修行で身に着けた技を駆使して、無事、死刑囚を脱獄させた主人公は、謎の美女と元麻薬捜査官という男から、元死刑囚と3人でマフィアの麻薬を強奪しないか、と持ち掛けられる・・・
アメリカでも密かに人気の映画で、ソニー千葉(千葉真一さんの海外進出名)を有名にした作品でもあります。
監督は娯楽作品の巨匠(だけどカルト風味多し)の石井輝男さん。
噂に違わぬ昭和の娯楽作でした。
まさにプログラムピクチャー。
笑いあり、アクションあり、(本筋とは関係のない)お色気ありと娯楽の要素がたっぷりと詰まった90分です。
主演の千葉真一さんを含め登場する人物に善人はいません。
みんな、ちょっと後ろ暗い欲や思惑があります。
主人公の三人は、強引な捜査に失敗して麻薬捜査官を辞めた男、甲賀忍術の後継者なのに、それを投げ出したしがない探偵、女好きで、ちょっと抜けた元死刑囚の合気道家。
勿論、一番全面に出るのは千葉真一さんの探偵です。
そこにグラマラスで、やっぱり抜け目のない女性が絡んできます。
彼らの目的は正義を行うことではなく、マフィアの日本支部から麻薬を横取りして、大儲けをすること。
このフォーマットって、「ルバン三世」っぽいですよね。
(死刑囚を連れて脱獄させるシーンなんて、本当に「ルパン三世」を彷彿させます)
もっと言えば、60~70年代に日本で流行ったヨーロッパ系のちょっとコミカルな悪党モノが下敷きになってるんじゃないんでしょうか。
「黄金の七人」(1965)、「ミニミニ大作戦」(1969)、「大頭脳」(1969)、「狼どもの報酬」(1971)辺りがネタかもしれません。
要はピカレスクロマンっていうやつです。
そんなヨーロッパ風の設定に、日本的(東洋的?)なテイストを盛り込んだのが本作。
どこが東洋的かと言うと、まず格闘アクションが全面に出ていること。
マフィアも「日本の警察は優秀だから、銃は使いたくねぇ」と、格闘家をボディガードや刺客に雇うんですね。あざとい言い訳ですが、まぁ、よしとしましょう。
そうなると、上映時間の半分以上が格闘シーンなんです。
アクションシーンにもユーモアがある60-70年代のヨーロッパ映画と違って、格闘シーンはシリアス。
更に目玉が飛び出るみたいな残酷シーンがいっぱいです。
とっても東洋的でしょ?
その格闘シーンが凄い。
この映画には、あの「和製ドラゴン」こと倉田保昭さんも出演してるんですよ。
僕らの世代にはTV「Gメン75」(1975-1982)の草野刑事ですね。彼がメインで活躍する香港を舞台にした回は燃えましたね。
特別出演ということで、正味20分ぐらいしか出てきませんが、思う存分、格闘シーンを見せてくれます。かっこいい!!!
が、しかし、千葉真一さんの見せるアクションシーンには及びません。
僕が千葉真一さんに注目し始めたのは、「戦国自衛隊」(1979)の頃でしょうか。もうすでにアクション界の大御所で、真田広之さんや志穂美悦子さん(ビジンダー!)を育てる大物。宣伝でも「千葉真一主演」というのが売りになる俳優でした。
反面、アクションシーンは要所要所くらいで、演技主体になってました。
だが、この映画の千葉真一さんは空手をベースにしたキレキレの拳法を縦横無尽に見せてくれます。
もう休む暇ないぐらいアクションシーンの連続。
話の流れからハミ出るぐらいです。
若い時の千葉真一さん、いやチバちゃんってすげーーー、と素直に思いました。
これぞ、アクションスター!
格闘系アクション映画好きなら楽しめるハズです。
ただシリアスにアクションが繰り広げられるだけではなく、ドラマ部分にはユーモアがあります。
クスっとさせ、ハラハラもさせる娯楽作。
いつもイガミ合っている主人公達三人組の丁々発止の駆け引きも、なかなか味がありました。
チバちゃんもカッコいいだけではなく、ちょっと抜けたキャラを演じて観客をクスっと笑わせてくれます。
ただ本家のヨーロッパ系映画や「ルパン三世」(旧作ルパンと称される最初のシリーズ、1971-972)と違って、ユーモアはあってもも、小粋なところはないです。
そこら辺は、昭和の娯楽映画のバタ臭さがあります。
話に驚くような展開力はありませんが、90分をノンストップで見せてくれます。
上手くいきそうに見えた主人公たちが、反対にマフィアに追い詰められピンチに陥ったりしますが、主人公たちに犠牲者が出るわけでもないので、割と安心な作りになってます。
変な悲壮感を持ち込まないのがいいですね。
話の整合性は薄いし、「あれ?あのネタはどうなったんだっけ?」とかありますが、そういうのは「いいの、いいの」と言わんばかりに振り向かせず、突っ走ります。
こういうB級娯楽作は、脚本家が色気を出して下手に話に凝ると、中途半端になって面白さがなくなることもあるので、これはこれでいいのかな?と思いました。
さて、千葉真一さん、倉田保昭さん以外にも安岡力也さんが出ていたりしますが、意外に味があったのがマフィアの日本支部長/マリオ水原を演じた津川雅彦さん。
これがダンディ、且つ残忍でかっこいいんですよ。
津川さんと言えば、テレビシリーズ「アカギ」(2015)で悪の親玉・鷲巣をやってましたが、まさか若いときにこんな魅力的な悪役をやってるなんて思いもよりませんでした。
ラストは、徒労に終わった千葉真一さんが、いつもタバコをくれないリーダーが差し出すタバコを渋々もらうシーン。
これは小粋でしたね。
昔の日本の娯楽作にはこういうカラッとした雰囲気があったんですが、いつの間にか失われてしまった気がします。
最後の「地獄拳」について。
冒頭、千葉真一さんが忍術の修行で武術を学んでいるので、彼が格闘技の達人というのは分かります。
でも何の拳法を学んでるかは語られないんですよ。
なのに話の中盤で、リーダーがチバちゃんに、「お前の地獄拳すげーな」って言うんでよ。
突然、命名される地獄拳。
何の伏線もなかったのにw
まぁ、そういうところが昭和の娯楽作なんでしょう(笑)
石井輝男監督で続編「直撃地獄拳 大逆転」(1974)があるので、そっちも見たいと思います。
ちなみにこのシリーズの流れを汲む千葉真一さん主演の「殺人拳シリーズ」(1974~1976)も興味津々です。
DVDは廉価版価格よりちょい高めですが、入手可能です。