「スターウォーズ」(1977)に始まったSFブーム。そのブームの中で有象無象のSF映画が作られました。その中で作られたSF映画が「タイム・アフター・タイム」(1979製作/1981日本公開)。
タイムトラベル物で、19世紀のロンドンと現代(20世紀)のサンフランシスコを舞台にした映画です。
製作が1979年なのに日本公開が1981年と、2年も間が空いていることから分かる通り、日本での注目度は低かったようです。
実は未見だったんですが、批評を見ると出来が良さそうなので、今回見てみることにしました。
(あらすじ)
19世紀のロンドン。「タイムマシン」という有名SF小説の著者である主人公は自宅に友人を集め、自分が本当にタイムマシンを発明した、とお披露目をする。同時刻、ロンドンを震撼させている殺人鬼「切り裂きジャック」の新たな犠牲者が発見される。警察が周辺の家に聞き込みを開始。主人公の家を訪問し、そこで来客の一人である医者のカバンの中から「切り裂きジャック」の凶器を発見。彼を逮捕しようとするが、時すでに遅し。切り裂きジャックは主人公のタイムマシンを使って、未来に逃げていた。責任を感じた主人公は彼を追って、未来へと向かう・・・
SF/ ホラーマニアには有名なアヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭でグランプリ賞を取っています。
まぁ、僕的にピンとこなかった「ソイレント・グリーン」(1973)もグランプリを取ってるんですけどね。
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主人公はかの有名な19世紀のSF作家H.G.ウェルズ。
代表作は「宇宙戦争」(1898)や「透明人間」(1897)、「モロー博士の島」(1896)と、どれも何度も映画化されています。
他にも古典SF映画の名作「来るべき世界」(1936)の脚本も書いてます。
そんな彼の長編デビュー作が「タイムマシン」(1895)。こちらも何度か映画化されてますが、この映画は「実はH.G.ウェルズは本当にタイムマシンを完成していた」という話。
そこに「切り裂きジャック」が絡んできたり、と実在の人物(?)がフィクションで活躍します。
上記は海外版のポスター。
夕陽のサンフランシスコを背景に、19世紀っぽい懐中時計をモチーフしたデザインが秀逸。
公開当時に雑誌に載ったこのポスターの縮小版(5センチX10センチ)を切り取って筆箱に入れてました。
19世紀のロンドンから、タイムマシンで逃げた友人(切り裂きジャック)を追って20世紀のサンフランシスコにやってきます。
話はタイムマシンでやってきた現代のサンフランシスコの文化や時代の違いに戸惑いながら、友人の手がかりを探っていく前半と、現代でも凶行を繰り返す友人と追いつ追われつの展開にロマンスを絡めた後半という構成。
切り裂きジャックと主人公の丁々発止のやり取りをするサスペンス的ドキドキの後半は普通に面白いんですが、意外と前半も面白いんです。
切り裂きジャックは瞬く間に現代に慣れていくのに、想像力豊かなはずの、SF作家の主人公はなかなか適応できない。
主人公の「未来(20世紀)は平和で、みんなが平等の理想郷になっているハズ」という思い込みと、真面目過ぎる性格が災いしてるんですね。
理想主義者よりも、現実主義者の方が状況適応が上手いってことですね。
前半は「ちゃんと現代でやってけるんだろうか?」って、後半とは違った意味でドキドキします。
まずは現代のお金が要るので、主人公は19世紀のロンドンから持ってきたお金や貴金属を銀行や古物商で換金するんです。
銀行では「これは貴重な硬貨だから、銀行だと為替レートでしか換金だきないけど、古物商に行けばもっといい値段で買い取ってもらえますよ」と言われるのに、そのまま換金しちゃったり、古物商では「これはいい貴金属だけど、身分証がないから」と足元を見られた安値を提示されても、それで売っちゃったり、と全力で主人公の人の好さが描かれます。
だから、こっちも「騙されやすいから気を付けて~」とドキドキするんですね。
この真面目で、ちょっと内気な主人公を演じるのはマルカム・マクダウェル。
マルカム・マクダウェルと言えば、イっちゃってる悪役風味のキャラばっかり演じるイメージがあります。
有名なところでは、「時計仕掛けのオレンジ」(1971)の主人公アレックス。
連日、暴力事件を引き起こし、強盗で捕まって矯正施設に入れられるものの、結局元の「ウルトラバイオレンス」に戻る懲りない人物を完璧に演じてました。彼の演じたアレックスは、今でも反逆のアイコンとしていろいろなところに使われてるぐらいです。
他にもエログロ大作「カリギュラ」(1979)のちょっとイッチゃってる暴君カリギュラや、「キャットピープル」(1982)の主人公と近親相姦を望む猫族のちょっとイッチゃってる兄、「ブルーサンダー」(1983)の主人公を目の敵にする、ちょっとイッチゃってる冷酷無比な軍人など、いっぱい思い出せます。
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そんな彼が真面目で、正義感の強い、ちょっと控えめな主人公を演じてるっていうのが驚きです。
最初登場した時は、本当にマルカム・マクダウェル???と思うぐらい、今までとは正反対の雰囲気。
あまりに控えめに、真面目に、ちょっと不器用に話す彼の姿を見て、「本当は、どっかでいつものマルカム・マクダウェルに豹変するんじゃないか?」って邪推しちゃうぐらいでした。
でも、彼はこの主人公を何の違和感もないどころか、最後まで見事に演じてます。
マルカム・マクダウェルって、上手い役者だと実感しました。
(だったら、いつも偏った役ばかり選ばなくていいのにね)
どうやってこの広いサンフランシスコで切り裂きジャックを見つけるんだろうと、思ったら、前述の換金の話から、「切り裂きジャックも換金してるハズだ!」と、銀行の両替窓口を片っ端から訪ねるのは、なるほど~、と思いました。
(ちなみに訪ねる銀行の中に「三井銀行」(現三井住友銀行)と三菱銀行(現三菱UFJ銀行)がありました。)
そこで為替両替係をしているヒロインにも出会うわけです。彼女は主人公に一目惚れ、彼はヒロインから得た情報で、切り裂きジャックが投宿しているホテルを見つけます。
凄く無理のない、上手な展開。
またヒロインを演じるメアリー・スティーンバージェンは、ぱっと見はそんなに目立つ美しさはないんですが、見ているうちにキャラとして可愛さが増していくタイプでした。
監督・脚本はこれが監督デビューのニコラス・メイヤー。
この後、初期のスタートレック劇場版を何本か手掛けたりする娯楽系で実績を残した人です。ここでも派手さはないけど、たるみのないストーリー展開を見せてくれます。
クライマックスの「ヒロインが切り裂きジャックに殺されることを知っているのに、それを阻止できない主人公」という展開はかなりドキドキしました。
SF映画といいつつも、ほとんどの舞台は現代のサンフランシスコ。
話自体は、正直、殺人鬼を追う素人、っていうだけです。
でもそこに「現代に慣れる」「予見した未来を阻止する」といった、SFらしい捻りが加わったことで、ドキドキしたり、話が一層魅力的になっています。
当時はSF映画と言えば、宇宙を派手に飛び回るか、壮大なスペース・オペラか、エイリアンに追いかけられるホラー風味が主流。
しかしこの映画にはタイムマシン以外のSF的ガジェットは出てきません。
エイリアンも光線銃も宇宙服もロボットもなし。
そのタイムマシンも最初と最後、あと後半にちょっと動くだけで、物語の大半はSF的ガジェットは登場しないんです。
でも話で十分SFを体感させてくれます。
こういう「話で魅せる」コンパクトなSF映画は興味持たれないと思われた結果、公開まで2年間も放置されたんでしょうね。
反対に当時は「SFっぽい小道具は出てるけど、話自体はSFでもないんでもない普通の話」というなんちゃってSFはいっぱい公開されてた気がします。
昨今のタイムスリップもの(タイムリープもの)からすると、素直過ぎる作りだと思いますが、それでも見ている間、ハラハラしたり、なごんだり、と楽しめる佳作です。
こんな地味目な作品にグランプリ賞をあげるなんて、アヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭の審査員は見る目があったんですね。
残念ながら国内版DVDは廃盤で、入手困難なようです。