「決して一人では見ないで下さい」
公開当時、このキャッチコビーがめちゃめちゃ流行りました。
当時の怪物番組「8時だよ、全員集合!」でもパロディにされてたぐらいです。
(確か、志村さんか加藤さんがいかりや長介さんの顔を指差して、「決して一人では見ないで下さい」って言ってた)
そんな名宣伝文句もあって映画は大ヒット。
それが昭和のホラー映画史に名を残す「サスペリア」(1977)です。
実はとっても好きで、何年かおきに見てるし、Blu-rayも持ってます。
そんな「サスペリア」を今回改めてレビューします。
(あらすじ)
豪雨の深夜、アメリカからドイツの名門バレエ学校に到着した主人公は、学校から飛び出してきた女性と鉢合わせする。彼女は「回すの、青いアイリス。秘密のドア」という言葉を残して、暗闇の中へ逃げていき、助けを求めた友人の家で、友人共々惨殺されしてまう。そんなことも知らずにバレエ学校に入学した主人公だが、その学校では奇妙なことが起こっていた・・・
この映画は「決して一人では見ないでください」というキャッチコピーだけでなく、「映画を見ている間にショック死したら、保険金1,000万円」という宣伝もしてました。
この宣伝を考えたのは、その後、話題作りで有名になる配給会社、東宝東和。
これで気を良くしたのか、東宝東和はこの後、宣伝で暴走していくのですが・・・
(「メガフォース」(1982)や「バーニング」(1981)、「サランドラ」(1977)のアウトな宣伝が有名です)
ちなみにパンフレットにも書かれている血を流したバレリーナのイラストが秀逸だと思ってるんですが、海外版のポスターや予告編には出て来ないので、日本オリジナル(東宝東和オリジナル)だとしたら、そこは素晴らしい仕事をしてます。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
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不老不死の魔女が支配するバレエ学校に、右も左も分からない主人公がやってくるわけです。
教師を始め、スタッフは全員魔女の手下。
そんなワケで画面にいつも不穏な雰囲気がいっぱいです。
当然、彼女はどんどん不安になっていきます。
そんな不安を盛り上げるのが、ダリオ・アルジェントのトレードマークである原色のライティングとゴブリンの音楽。
ダリオ・アルジェントは冒頭の空港から原色ライティング全開!
明らかに「そんなところに真っ赤や、真っ青の光なんてないだろ!」ってところでもガンガン原色で照らします。
でも、そんな原色ライティングが、この映画では嘘臭く見えない。
そもそも舞台となるバレエ学校や、歴史ある街が重厚感があって美しいです。
クラシックな雰囲気だけでなく、冒頭に殺される女性が身を寄せる友人のマンションはアールヌーボー的なモダンなデザインの建物。
これが本当に美しい。
実際に見に行きたいぐらい、デザイン的に素晴らしい。
バレエ学校もクラシックとモダンが融合したデザインで、それを見てるだけでも得した気分になります。
この舞台とライティングが、尋常ならぬ不穏な雰囲気を作りだしています。
そしてその不穏な雰囲気を作っているもう一つの要素はイタリアのプログレッシブバンド・ゴブリンが作る音楽。
ダリオ・アルジェントの音楽と言えば、ゴブリンです。
彼の最盛期である70年代半ばから80年半ばにかけて作られた7本(製作とヨーロッパ版の編集、音楽を担当した「ゾンビ」(1977)を含む)のうち、実に6本でゴブリンが音楽を担当しています。
この映画でも前作の「サスペリアPART2」(※)に続いて、ゴブリンが音楽を担当しています。
(※)「サスペリアPART2」(原題 Profondo Rosso / Deep Red)は「サスペリア」より2年前の1975年製作の作品なのに、日本では「サスペリア」のヒットにあやかって1978年に公開されたため、配給会社の東宝東和によって続編のようなタイトルで公開されました。勿論、内容は「サスペリア」とは何の繋がりもありません。現在では「サスペリアPART 2/赤い深淵」という原題訳を付けることもあります。
この映画のテーマ曲は、「エクソシスト」(1973)のテーマ曲「チューブラーベルズ」と並んでホラー映画の代表的な曲の一つとして、取り上げられることが多いです。
ただ「チューブラーベルズ」は映画のために作られた音楽ではなく、マイク・オールドフィールドというミュージシャンが作った大ヒットロックアルバム「チューブラーベルズ」(1973)の冒頭部分を、映画が使っただけなので、この映画のために作られた「サスペリア」のテーマ曲と同列にならべるのはどうかと思いますけど。
「サスペリア」のテーマと、「チューブラーベルズ」ってちょっと似てるんですよね。どっちも大好きです。
「サスペリア」には全編ゴブリンの、独特の美しくも禍々しい音楽が使われ、ダリオ・アルジェントワールドを作り上げています。
特にテーマ曲は要所要所で繰り返し使われるので、映画が進むにつれて、この曲が流れるだけで不安な雰囲気になりました。
ちなみにダリオ・アルジェント全盛期にゴブリンが担当しなかった映画は「インフェルノ」(1980)のみ。
音楽を担当したのは世界的なプログレッシブバンドELP(エマーソン、レイク&パーマー)のキーボディスト、キース・エマーソン。
「インフェルノ」は「サスペリア」の続編ですが、「サスペリア」が海外でもヒットしたこともあってアメリカ資本で作られたんです。そのため映画の舞台もNY。音楽もアメリカ市場での話題作りに、キース・エマーソンが選ばれたんじゃないでしょうか。
曲自体はとっても綺麗です。(ゴブリンのような禍々しさはないです)
ホラー映画のカリスマ、ダリオ・アルジェント監督のトレードマーク(原色ライティングとゴブリンの音楽)が二つ揃った本作は、「サスペリアPART2」(1975)と並ぶ、
彼の代表作とされています。
「サスペリア」の後に作られた作品でも、彼のトレードマークを見ることはできます。
じゃ、何故、この映画が代表作になったか?
それは最初から最後まで手を抜いてないんです。
言い換えれば、他の作品では必ず「手を抜いただろ!」って突っ込みたくなるんです。
最も手抜きになるのが、話そのもの。
「サスペリア」の脚本はダリオ・アルジェントと、その奥さんのダリア・ニコロディ。
ダリオ・ニコロディの本業は女優で、この映画には出ていませんが、アルジェントの映画には大体出演してます。
この映画の話自体はよくある筋立てなんです。
魔女の存在に気付いた邪魔者を次々と殺されていることに気付いた主人公が、魔の手を逃れつつ、魔女を倒しにいくという話は、ホラー映画としては正統派だけど、悪く言えば目新しさや、斬新さがありません。
いたって普通なんです。
でも、他のダリオ・アルジェントの映画って、途中で話が破綻するか、テキトーな展開になってくるんですよ。
前半の謎の殺人の時は監督自身気持ちが入ってるみたいなんですが、後半の謎解きになってくると、もう早く映画を終わらせよう、とか、無理やりに好きな(?)惨殺シーン入れるとか、しちゃうんです。
え、そいつが犯人でいいの?
え、そこで人殺して意味あるの?
みたいな展開になります。
言い換えれば好きなシーンだけ撮れればいいや、的なところがあって、ちゃんと話を語るっていうことに興味が薄そうなんです。
ちょっとその辺りは同じB級ホラーのカリスマ、ジョン・カーペンターに似てるかもしれません。
まぁ、「手を抜いてる話こそ、ダリオ・アルジェントらしさだ!」と言ったら身もふたもないんですけどね。
(確かにジョン・カーペンター監督の映画で、明らかに雑な展開になると「きたーー、カーペンター節!」って変に満足する自分もいるんですけど)
「サスペリア」の話は他の名作映画と比べればヒネリもなく、凝った話でもないですが
、破綻せず、普通にハラハラさせてくれます。
他のアルジェント映画のように映画の足を引っ張ることなく、素晴らしい美術と、原色ライティング、絵画のようなカメラ構図と音楽が作る雰囲気を生かす土台として十分に役に立ってます。
さて、魔女の支配する不穏な世界にポツンと放り込まれる主人公を演じるのはジェシカ・ハーバー。
不安げで、ちょっと華奢なんだけど、ラストで魔女の力に覚えながらも、意を決して倒しに行くヒロインを見事に演じてます。
この人はこの映画と「ファントム・オブ・ザ・パラダイス」(1974)のヒロイン、フェニックス役で70年代ホラーファンのアイコンになりました。
僕の親世には有名なアリダ・ヴァリが、厳格なバレエ教師を演じてました。
1940年代から1960年代にかけて、文芸作や名作に頻繁に出ていた美人女優です。有名なところだと「第三の男」(1949)のヒロインでしょうか。
僕の大好きな俳優です。彼の出演作リストを見ると、B級映画、カルト映画が多くて痺れます。この映画の頃はまだ若いんですよね~。
TVドラマ「キングダム」(デンマークのオリジナル版)のラストシーンでの登場がトラウマ級に印象に残ってます。(ちょっとここでは書けないので、気になる方はネットで調べてみて下さい)
「サスペリア」は、ダリオ・アルジェントの作る幻想的なホラーワールドに浸る映画です。
そういう意味で、雰囲気重視の映画です。
さて、じゃ、ダメなところがないかって言うと、そうではありません。
まずオープニングのタイトル、キャスト&スタッフクレジットが安っぽいです。
呪術的な音楽からスタートするのはいいんですが、真っ黒の中に白い文字が出るだけ。その文字も凝ったフォントじゃなく、ただこれでいいや的な感じがします。
ここで「あー、やっぱりB級映画だ」と思われても仕方ないです。
せっかく本編が素晴らしいのに、残念。
もうちょっとワクワクさせる、本編のレベルにあった質の高いオープニングにして欲しかったです。
あと血糊やコウモリが作り物くさいです。
でもこの頃の技術では仕方ないのかも。
でも翌年の「ゾンビ」ではリアルな血糊や人体破壊が行われてるので、ここはもうちょっと頑張って欲しかったです。
(「ゾンビ」は特殊メイクの才人、トム・サヴィーニが担当してるから比較してはいけないんでしょうけど)
そして一番気になったのは、クライマックス手前で「説明しよう!」(by ヤッターマン)みたいに、突然登場した人物が言葉で謎の説明を一気にやるのは如何なものでしょうか。
確かに説明にはそこそこ説得力があり、合理的でもあるので、例の「ダリオ・アルジェント的破綻」はないのですが、やっぱり謎はゆっくり、バラバラのものが一つ一つ繋がるように解かれていくのがいいです。
これこそ、まるで時間がなくなったから「これで解決したことにしちゃえ!」的な展開に思えました。
ちらっとダリオ・アルジェントの悪い癖が垣間見れた感じがします。
ホラーファン、B級映画好き、個性的な映画好きな人には満足できる作品だと思います。
今見ても残酷描写(痛々しい)は多いので、スプラッター系が苦手な人は注意した方がいいです。
この映画は2018年にリメイクされてますが、どうなんでしょうか?
ちょっと気になります・・・
Blu-rayはHDリマスターと4KウルトラHD版が出てます。
(僕はHDリマスターを購入しました)