昭和の時代の僕らにとってパニック映画大作の代名詞と言えば「ポセンドン・アドベンチャー」(1972)と、この「タワーリング・インフェルノ」(1974製作/1975日本公開)。
ちなみにどっちのプロデューサーは、災害ドラマの帝王と言われたアーウィン・アレン。
主演は当時人気絶頂だったポール・ニューマンとスティーブ・マックィーンですが、脇を固めるスターも超豪華で話題となりました。
さて、今回はそんな上演時間も2時間45分の大作をレビューします。
(あらすじ)
サンフランシスコに138階建ての超高層ビル<グラスタワー>が完成。有名人や名士を多数招いた落成式が間近となっていた。しかし建築家の主人公が電気系統の不具合を調査すると、自分が指示したものと異なる、安い電線が使われていることを発見。このままで安全性に問題があると警告するが、施工主は落成式を強行。最上階でパーティーが行われている最中に、81階でショートによる火災が発生していた・・・
当時、小学生だった僕は、母親に連れられて劇場に見に行きました。多分、衆楽館という岐阜で一番大きな洋画館だったと思います。
とにかく面白くて、面白くて仕方がなかった記憶があります。
人気があったため、昭和の時代には、よく正月のお昼に特番的な扱いで放送していた印象があります。長いので大体、前編と後編に分けられてました。
(1月2日に前編、3日に後編といったスケジュールで放送されてたんじゃないでしょうか)
でも、いつしか忘れ去られた映画になっちゃったみたいですねー。
今回見始めたら、ノンストップで見てしまいました。
3時間もあるけど、ほぼ無駄なし。
映画始まって、結構すぐに火災は起こるし、あの手、この手で脱出しようするシークエンスがいくつもあって、飽きが来ません。
とにかく面白い。
通しで見たのが50年近く前なのに、ポイント、ポイントの出来事はちゃんと覚えてるんですよ。
クライマックスの屋上のタンク爆破は勿論、ヘリコプターでの救助失敗や、展望エレベーターの転落など。
こんなに記憶に残ってるなんて、余程面白かったんでしょうね。全く記憶に残ってなかった「フェノミナ」(1985)の時とは大違いです。
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ちなみに特撮がすごく出来が良くて、高層ビルの外観に関してはミニチュアとは分からないぐらいです。CGじゃなくても、見せ方によってはちゃんとリアルに見えるんですね。
そして、更に有名俳優陣をふんだんに使って、グランドホテル形式の様々な人間模様が描かれます。
(今だと「パルプフィクション」(1994)式と言うのだろうか?)
演じる俳優陣も、往年の名優(ウィリアム・ホールデンやフレッド・アステア、ジェニファー・ジョーンズ)、現役バリバリの俳優(ポール・ニューマンやスティーブ・マックィーン、フェイ・ダナウェイ)、TVの有名スター(リチャード・チェンバレン、ロバート・ワグナー)とバラエティに富んでいます。
そんな有名俳優が、それぞれのエピソードを演じるので、当時の観客にはエピソードが覚えやすかったんじゃないでしょうか。
(ちなみにのちに殺人事件で有名になるO・J・シンプソンも警備員の役で出演しています)
そんな中で、一番強く印象に残ったのはフレッド・アステア演じる老詐欺師のエピソード。
フレッド・アステアと言えば、第二次世界大戦前後を代表する大ミュージカルスター。そんな彼が、この映画では歌わず、踊らず、しがない老詐欺師を演じます。
彼は富豪の未亡人(ジェニファー・ジョーンズ)を騙して、架空の会社の株を売りつけようとするんですが、結局騙すことが出来ません。でも彼女は彼がしがない詐欺師だとちゃんと見抜いていて、それでも一緒にいたいと言ってくれますが、脱出の時に命を落としてしまいます。全てが終わって、彼女が死んだことを知って途方に暮れる彼に、警備員が未亡人がかわいがっていた猫を渡し、彼がそれを腕に抱える、というもの。
結構、ギスギスしたドラマが多い中で、ほろりとさせてくれます。
一応、主人公はポール・ニューマン演じる建築家みたいですが、圧倒的にかっこいいのはスティーブ・マックィーンの消防士のチーフ。
彼は映画の中で唯一、女性やカネ絡みのないキャラクター。
まさに邪念なく、火災と格闘する孤高の男です。
そんなアカデミー賞クラスの俳優が多数出ているんですが、内容はまごうことなき、70年代(昭和)の娯楽大作です。
当然、今はやりの社会問題提議などみじんもありません。
(馬鹿みたいに高さを競ってビルを作ってるんじゃねぇ!っていうのはありますが)
この映画を上手にまとめあげたのは、「ポセンドンアドベンチャー」の脚本家スターリング・シリファント。
元々、高層ビル火災を扱った小説が2つあって、2つの映画会社(ワーナーブラザーズと20世紀フォックス)がそれぞれ映画化しようとしてたのを、「だったら一緒に作っちゃおう」とまとめたのがこの映画らしいです。
確かにクレジットには原作が二つ出ていました。
この二つの原作をまとめ、更にバランスのいい娯楽ドラマに仕上げたのは、彼の力に負うところじゃないでしょうか。
その脚本を無事に(?)映像化したのは、
大作・大味のプロと言われるジョン・ギラーミン監督。
彼はみうらじゅん氏に「〈大金(スター)を出したのに、つまらない〉という現象を<ギラーミン>と呼んでいる」言われるほど大味なB級監督です。
平たく言えばローランド・エメリッヒ監督の先輩みたいな人です。
相変わらずこの映画の演出でも、才気的なものは全く感じられませんが、余計なことはしていないし、この映画に求められるものを過不足なく見せてくれています。
そういう意味では、スターたちを切り盛りしつつ、且つパニック映画としてのハラハラ感を出すのに成功した、ナイスな仕事ぶりと言えます。
まぁ、だからと言って、僕の中にある、あの76年版「キングコング」を作った監督という印象は拭えませんが・・・
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言い換えればジョン・ギラーミン監督を始め、シリファントも基本B級娯楽作での実績がメインですし、製作のアーウィン・アレンもTVやB級SFが主戦場なのに、この3人でこんなに面白い豪華大作が出来たのは奇跡です。
(アーウィン・アレンとスターリング・シリファントは「ポセンドン・アドベンチャー」という実績がありましたが)
みうらじゅん氏の発言は「底抜け超大作」という本に出ています。ダメダメな大作を特集した素敵な本です。
キャッチコピーは「巨大な製作費、豪華なスター、だけど中身は大惨事」
そんなわけでちょっと長めの映画ですが、見ていてツマらない思いをすることはないんじゃないでしょうか。
DVDやBlu-rayは現在でも入手可能です。