パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【勝利への脱出】サッカーヲタクになった今なら楽しめる佳作

あの時、つまらなっかた映画は本当につまらない映画なのか?を検証するシリーズはまだまだ続きます。

 

今回はシルベスター・スタローンマイケル・ケイン主演の戦争映画「勝利への脱出」(1981)。

これも今回PRIME VIDEOの100円セールでポチるまで、「気が乗らない」映画の一つでした。

 

公開当時、「ロッキー」シリーズで人気俳優となったシルベスター・スタローンと、英国の実力派人気俳優マイケル・ケインが共演し、監督は男臭い映画を得意とする巨匠ジョン・ヒューストンということで、中二病の心に刺さるようなアクション戦争大作を期待してたんです。

だけど、映画館で見終わった後の感想は「盛り上がりがなくて、超凡庸」

 

その時の感想は自分が若かったからなのか、それとも正しい判断だったのか、今回確認してみます。

 

(あらすじ)

第二次世界大戦中、ドイツ軍の捕虜収容所。イギリス将校で、元サッカー選手の主人公は、捕虜仲間とサッカーに興じていた。それを見たサッカー好きのドイツ軍将校から、捕虜連合チームとドイツ代表の試合をしないかと持ち掛けられる。片や脱走の常習犯であるアメリカ兵のハッチは新たな脱走計画を練っていた・・・

 


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この映画を見たのは岐阜のロイヤル劇場。同時上映は「ターボクラッシュ」(1981)。

「ターボクラッシュ」は実家にパンフレットがあったはずなので、この時もちゃんと見たとは思うんですが、全く記憶にありません。

ネットで調べると、主演はジョン・トラボルタの兄、ジョーイ・トラボルタ(!)。言われてみればそんな記憶があるような、ないようなレベルのネタ。

更に「ほとんどのカー・チェイスミニチュア・ワーク」という凄い記載があり、反対にいつか見たいと思ってしまいました。B級、いやC級映画好きの血が騒ぎます。

予想通りDVD販売は影も形もないですけど。

 

さて「勝利への脱出」に戻って、

結論から言っちゃうと、とっても楽しめる映画でした。

 

勝利への脱出 パンフレット表紙

 

全くの予想外。

 

理由は二つあります。

一つは勝手にアクション映画なんて思い込まずに、ちゃんと見れば良質な男のドラマだったってこと。

もう一つは当時より、僕がめちゃめちゃサッカーヲタクになっているってこと。

 

まずドラマとして、とっても良く出来てました。

要は第二次世界大戦といっても戦場の話ではなく、捕虜収容所モノ。

 

そこにサッカー好きのドイツ人士官がやってきて、捕虜たちにドイツ代表と連合国混成チームの試合を持ち掛け、試合のためにチームを作っていく話と、裏では選手全員を脱走させようとする話が平行して描かれます。そこの橋渡しをしているのが脱走の常習犯、シルベスター・スタローン

彼はアメリカ人で、サッカーなんて全く興味ないんだけど、脱走のためにサッカーチームに入ろうとするんです。

でもサッカーチームを束ねるマイケル・ケインは、サッカーを全く知らない素人のスタローンを入れようとしない。またスタローンもスタローンで、サッカーを馬鹿にしてるフシがある。

 

マイケル・ケインは一見冷徹だけど、実は情に厚く、シルベスター・スタローンが一人で脱走するのを手伝ったり、強制収容所に送られてる東欧系の選手を救おうとするリーダー。

シルベスター・スタローンはいつも「俺が、俺が」の軽いノリで、口が悪く全く協調性がないように見せて、最後は仲間のために自己犠牲をする男。

この二人のキャスティングが、とっても絶妙。

いがみ合いながらも、脱走とサッカーでドイツ軍に一泡吹かせてやろうと、ちょっとづつお互いを信頼していく姿を、二人が生き生きと演じてます。

 

更に主人公たちの周りにはサッカーだけは公平にやろうとするサッカー好きのドイツ軍将校(名優マックス・フォン・シドー)や、サッカーに真剣に取り組む主人公を煙たがりながらも、彼のチームを全員脱出させようとする捕虜キャンプの英国将校など、個性的なキャラが配置されており、ジョン・ヒューストン監督はそうした登場人物を上手に調理して、男たちのドラマに仕立て挙げてます。

 

ただガチの堅苦しいドラマにせず、ところどことウィットを交え、そしてちょっとだけロマンスも入れて、飽きの来ない娯楽作に仕上げてます。

さすが名匠ジョン・ヒューストン

ロマンスの部分で女性が出てきますが、男たちだけのドラマという印象です。

 

クライマックスは勿論、ドイツ代表と連合軍捕虜チームのサッカー試合。

前半リードされて終わったものの、徐々にコンビネーションが良くなっていく連合軍捕虜チーム。

レジスタンスの手はずで、ハーフタイムのロッカールームから脱出できるのに、選手たちは「この試合は勝てる!だから後半も試合をしよう!」って脱出せずに試合続行を希望するんです。

そんな中、一人でも脱出しようとするシルベスター・スタローンに、選手たちが「ゴールキーパーのお前がいなきゃ、俺たちは試合出来ないんだ。頼む、一緒に試合をしてくれ」ってお願いするんです。

スタローンは「やっと脱走できるんだ。そんなの知るかよ!」って言い返すんですが、次のシーンでは後半戦のためにフィールドに出てくるチームの中に、ちゃんとシルベスター・スタローンがいるんですよ。

これ、直接スタローンが「分かった。出るよ」っていうシーンを描かないところが胸熱です。

(ちなみにこの映画のシルベスター・スタローンは、これと似たようなシーンが何回かあります)

 

3-0の負けから同点に持ち込み、最後は終了間際のPKを、脱走を主張してたスタローンが渾身の力で止めて引き分け。

やっぱり胸熱です。

 

勝ちに等しい引き分けって、下手に勝つよりグっとくるものがありますね。

そりゃ、試合の観客(ドイツ軍の占領されてるフランス人)が嬉しくて、次々とグラウンドになだれ込むのは納得。

そんな観客が選手をもみくちゃにしながら、こっそり洋服を着替えさせて脱走させるエンディングはとっても爽快です。

 

ドンパチアクションばっかり期待して、ちゃんと公平に映画を見れなかった若い時の自分を叱りたくなりました

 

そして今回、楽しめたもう一つの理由が、僕がこの30年で超サッカーヲタクになっているということ。

 

初めて見た時は、世界のサッカー情勢なんて全く分からなかったんです。

この映画のサッカーネタで分かったのは「ペレが出てるなぁ」「バイシクルシュートを決めてるなぁ」ぐらい。

 

今回見直すと、サッカーファンにはツボな設定や展開がいっぱいありことを発見しました。

 

例えばサッカーはヨーロッパや南米ではスポーツの王様なのに、アメリカではメジャースポーツではないことを知っていると、アメリカ人のシルベスター・スタローンとサッカーの母国イングランド人のマイケル・ケインがサッカーのことで、いがみ合うのってごく自然なんですねー。

ちなみにマイケル・ケインは元イングランド代表のサッカー選手で、シルベスター・スタローンはサッカーがよく分からないアメリカンフットボール選手という設定でした。

 

また映画の中でナチスとは言え、サッカーでドイツ代表を倒すっていうのが当時のサッカーファンにはツボだったんじゃないでしょうか。

最近はワールドカップでグループリーグ敗退が2大会続いてますが、この映画が公開された当時のドイツ代表はサッカー界の絶対王者

ワールドカップで得点王にもなった元イングランド代表のゲイリー・リネカーフットボールとは、22人がボールを奪い合い 最後はドイツが勝つスポーツ」という名言(?)を残しているぐらいです。

 

主人公がナチスの将校に「(ベストチームを作るなら)東欧出身の選手もいるハズだから集めてくれ」と言うシーンがあります。

当時は「なんで東欧なの???」となってんですが、サッカー界では東欧は名選手の宝庫ってことは周知の事実だったんですね。

これも当時は知りませんでした。

 

この映画にはサッカー選手が何人も出てるということだったんですが、当時はペレ以外は「ふーん」って感じでした。

でも今見ると、結構有名な選手が出てたんですね。

大半は旬を過ぎた選手だったんですが、バリバリの現役選手もいました。

 

その一人がアルゼンチン代表のレギュラーだったオズワルド(オージー)・アルディレス

78年大会のワールドカップ優勝メンバー(確かレギュラーだったはず)で、Jリーグの草創期には監督としては清水エスパルスの黄金期を築き、僕の愛する横浜マリノスにリーグ優勝、東京ヴェルディ天皇杯優勝をもたらした、日本に縁のある人です。

彼がプレーをする姿を見れて、何かとっても得をした気分になりました。

 

ただクライマックスの試合では、彼と数人を除いては、正直、編集してあるにも関わらず体のキレがイマイチの選手が多かったのも事実。

主演のマイケル・ケインも軍人&元サッカー選手という割に体形がちょっとオジサンっぽくて残念でした。(それを意識してか試合のシーンで全体像が映るのは控えめ)

せっかくラストの試合が話的に盛り上がったのに、プレーにはもうちょっとキレが欲しかったですね~。

(ちなみに試合のシーンはペレが監修しています。)

 

クライマックスの試合で、連合国捕虜チームのユニフォームが白地にトリコロールのラインなんです。露骨にフランス代表のアウェイユニフォームっぽいです。

やはり試合会場がパリだからでしょうか。

相手のドイツ代表は黒基調のユニフォーム。これもちゃんとドイツのアウェイユニフォームを意識してるようなデザインでした。

分かり易いように白と黒なんでしょうけど、そこまで勘繰ってしまいました。

 

ちょっとサッカーのネタを力説し過ぎましたが、話自体がしっかり面白いので、サッカーに詳しくなくてもユーモアもある男のドラマとして十分楽しめます

 

そう言えば、サッカー不毛の地と言われるアメリカで、何でこんな映画が作られたんだろうと思ったんです。

でもよく考えたら当時アメリカでは「北米サッカーリーグ」というプロサカーリーグがあったんですね。

初期のJリーグみたいに旬は過ぎたけど世界的に有名な選手がいっぱい在籍していて、そこそこ人気があったようです。

(ペレもこの映画の数年前に北米サッカーリーグのニューヨーク・コスモスというクラブに在籍していました。その時の同僚はベッケンバウアーでした)

だからこうしたサッカーを題材にした映画がメジャーで作られたのかもしれません。(北米サッカーリーグ1984に消滅)

 

最後にどうでもいい話。

最初に見た時から忘れられないシーンがあって、それは主人公がやむを得ず部下の腕を足で踏みつけて折るシーンなんです。

踏みつけるシーンは直接画面には映さないのですが、これがめっちゃ痛そうだった記憶があったんですが、やっぱり今回見ても痛そうでした。

 

DVDはお手軽な値段で手に入るようです。