70年代って小作品だけど、良質なサスペンス作品が多かった気がします。
大スターを使うわけではなく、内容で勝負するような作品ですね。
そんな一本が今回レビューする「ジェット・ローラー・コースター」(1977)。
劇場では見ていませんが、中学生か高校生の時にTVで見て、「なんて面白い映画なんぁだ!」って思った記憶があります。
それから何十年も経ってしまいましたが、格安で新品DVDを発見。
早速購入して、見てみることにしました。
(あらすじ)
アメリカの遊園地でローラーコースターの事故が相次ぐ。事故を不審に思った企画安全省の主人公は、遊園地のオーナーたちがシカゴに集まっていることを知り、その場所に乗り込む。そこではオーナーたちの元に送り付けられた爆破予告と100万ドルの脅迫テープがあった・・・
舞台となる遊園地が、とっても70年代らしさが出ていて、僕の世代には懐かしく感じられる映画です。
主人公がバツイチで、禁煙に四苦八苦している冴えない中年男性というのがいいですね。
この映画はTV「刑事コロンボ」のスタッフが製作しているそうなので、刑事コロンボ的な主人公象をそのまま持ってきたのかもしれません。
こういうタイプの主人公の方が人間味があって好きです。
個人的にはジョージ・シーガルが演じる主人公と、「サブウェイ・パニック」(1974)のウォルター・マッソウが「一見冴えなさそうで、やる気もなさそうだけど、キレる中年」の双璧だと思います。
彼が禁煙に苦労しているのに、途中で挫折して、何度かタバコを貰おうとするんだけど、たまたま相手が持っていなかったり、相手も禁煙してたり、と手に入らないっていう、ちょっとしたネタがアクセントになってます。
そして事件が終わった時に、通行人にタバコを貰うんですが、それを結局吸わないのがラストシーン。
この禁煙を話に絡めて、クライマックスで主人公が「タバコをくれ」っていう映画が他にもあったんですが、どの映画だったか思い出せません。やっぱりウォルター・マッソウだった気がするんですが。
この映画の売りはなんといっても脚本。
とにかくよく練られています。
冴えない中年を主人公にしたのは、前述の通り刑事コロンボと同じ仕立て。
こういう主人公の方が親近感が沸くし、実は切れ者だって分かると爽快感があります。
この映画には、それ以外に2つポイントがあります。
一つは犯人が正体不明だってこと。
最後まで彼の背景も、動機も何にも分かりません。
この手のドラマって、犯人像を膨らまし勝ちじゃないですか。
不幸な過去とか、トラウマとか、異常なこだわりとか、複雑な家族関係とか、納得感のある動機とか。
そういうものはこの映画の犯人には一切ありません。
でも全く人間味がないとか、深みがないとか、そんなことはないです。
沈着冷静で、大胆不敵なところがとっても魅力的(?)なキャラで、観客をハラハラさせるのは十分です。
最後まで彼のことが何も分からずに終わる幕引きはナイスです。
下手に取って付けたような理由を出したら、完全に蛇足だったでしょう。
そしてもう一つはFBIが大手を振って事件に対応していること。
これは、元々犯人が「警察に知らせたければどうぞ」っていう煽りから、FBIが全面に出てるんです。
FEBIは堂々と犯人に誘導されて身代金を運ぶ主人公を監視をしたり、上司のメッセージを言付けたりします。
結局、これもFBIがいることを知っていて、裏、裏とかいていく犯人のカッコ良さを際立たせるためにあるうようなもんですが。
他の映画のレビューで何度も書いてますが、こういう対決図式のあるドラマって、いかに主人公が強いか、とかカッコイイか、よりも、いかに敵が強いか、存在感があるか、にかかってると思うんです。
結局、大半のドラマでは主人公が勝つわけですよ。
その強さを測るのが、倒した敵がどれだけ強いか、によりますよね。
倒した敵が強ければ、強いほど、「主人公、かっこいい」になるわけです。
だからダースベイダーは人気があるし、「ダーティーハリー」(1971)の犯人は狂気の男、スコルピオじゃなきゃいけないんです。
その点でこの映画の犯人は合格です。
相手の強さが描けないと「ネバーエンディング・ストーリー」(1984)のように、緊張感のない映画になっちゃいます。
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主人公を演じるジョージ・シーガルは寂れ具合がいいですね。
若いころはちょっと落ち着いた感じの二枚目だったんですが、ここではヨレヨレで、ちょっと頑固なオヤジを見事に演じてます。この人のキャスティングはナイスです。
主人公と対立しつつも、最後は協力して犯人を追うFBIの捜査官にリチャード・ウィドマーク。
先日見た「コーマ」(1978)では、黒幕外科医部長を演じていたので、「本当は悪い奴か、主人公の邪魔をするヤツなんだろ?」的な疑いの目で見ていましたが、実は最後に主人公を信じる頼れる役でした。
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ちなみに重鎮ヘンリー・フォンダが主人公の上司役で出ています。
ポスターやDVDのジャケットではリチャード・ウィドマークより真ん中に写真が配置されてますが、出演シーンは5分ぐらいしかありません。
明らかに映画に箔を付けるための出演でした。
ただ70年代のヘンリー・フォンダって、娯楽作(パニック映画)のカメオ出演っぽい大物役が多かった気がします。
「テンタクルズ」(1977)にも出てましたねー。
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さて、公開当時、この映画の売りは「センサラウンド」。
知ってる人は多分、僕と同世代かそれより上です。
これは大音響に加え、専用スピーカーから超低音を出して空気を振動させ(実際にビリビリくる)、臨場感を生むシステムです。
一番最初に採用されたのは「大地震」(1974)。次が「ミッドウェイ」(1976)、本作、「宇宙空母ギャラクティカ(劇場版)」(1978)です。
僕は「宇宙空母ギャラクティカ」を劇場で見て、センサラウンドを体感しました。
しかし残念ながらセンサラウドはこの4本で終了。
今では体感することが出来ません。
ちなみにこの映画では繰り返しジェットコースターのシーンが出てきます。カメラをジェットコースターの前に取り付けて撮影してるんですが、家のTVでも見ても本当にジェットコースターに乗ってるみたいで迫力満点。
これをセンサラウンド付の劇場で見たら面白かったんだろうなぁ、と思います。
見れなくて残演。
下は「宇宙空母ギャラクティカ」のパンフレットです。
一番上にSENSURROUND(センサラウンド)の文字があります。
とにかく面白い映画でした。
かっこいいい俳優や、美人女優は出てないし、ド派手なアクションもありません。
あるのは渋い俳優たちが演じる、コンゲーム的なミステリー/サスペンス映画。
背景や舞台となる遊園地は、時代を感じさせますが、内容は十分楽しめます。
こういう娯楽作は是非、見てもらいたいです。
小ネタですけど、この映画が劇場上映している時に、即刻上映を中止しなければ劇場を爆破するっていう脅迫があったそうです。
当時は日本でも爆弾テロがあった時代なので、結構シリアスに受け止められてたみたいです。
DVDだけでなく、Blu-rayもかなりお手頃な値段で入手出来ます。