パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【ソルジャー・ストーリー】渋い人種格差サスペンス。

PRIME VIDEOで100円レンタルで見つけた「ソルジャー・ストーリー」1984製作/1985日本公開)。

記憶の片隅にあった映画。

当時珍しい小型版のパンフレットが、我が家の本棚に眠ってました。

確か中野か吉祥寺の映画館で見た記憶があります。

でも残念ながら話は全く覚えてません

そんなワケで、早速レンタルしてみました。

 

(あらすじ)

第二次大戦中、南部の米軍基地で、黒人の曹長が殺害される。東部から黒人の大尉が調査のためやってきた。黒人の士官を見るのが初めての兵士たちは彼に奇異な目を向け、白人の兵士はあからさまに反発する。誰もが白人が犯人と思う中、彼は捜査を始める・・・

 


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監督はノーマン・ジュイスン。

メッセージ性のある話でも、社会派ほど堅苦しくなく、ちゃんと娯楽作として良質な映画に仕上げるいい監督。

このブログでも彼のSF映画ローラーボール」(1975)を紹介しました。

ディストピア世界を通した現代文明批判だけど、ちゃんと娯楽SF映画になってました。

pagutaro-yokohama55.hatenablog.com

 

この映画でも南部で黒人軍曹が殺された事件を通して、人種の壁、そして黒人たちのそれぞれの葛藤を描いています。

元は舞台劇ですが、同じ南部、東部の黒人のエリートが捜査をする等、彼が監督した名作「夜の大走査線」(1967)にダブるところがあります。(「夜の大捜査線」はアカデミー賞7部門ノミネート、5部門受賞)

この映画もアカデミー作品賞、助演賞、脚色賞にノミネートされているので、当時の評価は高かったようです。

パンフレット表紙

この映画で強烈な存在感を放っているのは、被害者である軍曹。

彼は冒頭で殺されちゃうんですが、兵士達の証言が劇中で再現されるので、そこに生前の彼が出てくるんです。

とにかく無学の父親から黒人の地位向上精神を受け継いだ彼は、白人に反抗するのではなく、地位向上の足を引っ張る昔ながらの黒人が大嫌い。

それが行き過ぎて、全ての黒人が嫌いに見える黒人の軍曹

このビミョーな存在感のあるキャラを徹頭徹尾、憎々し気に演じきったアドルフ・シーザーが、アカデミー助演賞にノミネートされたのは当然のことでしょう。

 

その彼と対象的なキャラが、ハーバード大学の法学部を出た、東部出身のエリート捜査官の主人公。

舞台となる南部の基地では、彼が初めて見る黒人の士官という設定。

彼は決して白人の脅しにも屈せず、自分を見下す白人の下士官たちや好奇の目で見る黒人兵士を「肩書」でねじ伏せながら調査を進めていきます。

彼もステレオタイプ的な性格のいい正義感ではなく、自分に敵対する人間にはとことんやり込める、実はちょっと嫌なタイプ

このドラマの肝って、「現実離れした良い人」が出てこないことかもしれません。

 

殺害された軍曹と捜査をする主人公は方法論こそ違え、黒人の低い地位に抵抗する人物。

同じ目的を持った人物が片や殺害され、片やそれを調査する。

このコインの裏表という関係が、構造的に面白いです。

 

さすが評判だった戯曲が原作だけあって話はかなりしっかりとしています。

舞台はただの軍隊ではなく、殺された軍曹が所属していたのは黒人だけの部隊。

更にその黒人部隊が軍隊内の野球大会で快進撃をしていた、という設定を絡めたことで話に深みが出てました。

「黒人だけの軍隊」という特殊な人間関係だけでなく、「野球」に対するいろいろな思惑が複雑に絡みます。

野球を黒人の地位向上に使おうとする軍曹、野球に積極的に協力することで軍曹に引き立てて貰おうとする兵士、地位向上に興味がなく、楽しく生きていければいいと思うエースピッチャー・・・

つまり、この映画は「白人に対する黒人の抵抗のドラマ」ではなく、黒人同士の葛藤のドラマです。

 

結局、犯人は黒人を見下している白人ではなく、同じ黒人だったというオチも黒人同士の葛藤のドラマだからこそ、意味のある終わりでした。

 

事件が解決した後に、黒人部隊にヨーロッパ出征の命令が出て、みんなが無邪気に「これでナチを殺しにいけるぜ!」って喜んでいるシーンになるんですが、彼らの多くが負傷するか戦死するだろうってことを考えると切なくなります。

 

ラストは最初に主人公を追い返そうとしていた白人士官が、捜査を終えて帰る主人公を自分のジープに乗せ、握手をするんですが、これもちょっと「夜の大走査線」のラストに似てますね。

※「夜の大捜査線」では反目していた白人署長が、主人公を駅で彼の荷物を持ってあげて、最後に握手をし、「気をつけて」と言って別れる。

 

ノーマン・ジュイスンの演出は「ローラーボール」と同じく手堅く、奇をてらったところはありませんが、それだからこそストーリーを堪能でき、ダレることなく最後まで見ることが出来ます。

 

ちなみに、部隊の中に軍曹にあからさまに反感を持つ若い兵隊がいるんですが、これが有名になる前のデンゼル・ワシントンだったんです。

今、映画化するなら彼がエリート捜査官をやるんでしょうねー。

 

PRIME VIDEO、NetFlix、U-NEXTのサブスク(定額視聴)の対象にはありませんでしたし、DVDも廃盤になっていて、なかなか気軽に見れないのは残念です。

 

渋いですが、佳作なので埋もれないで欲しいなぁ、と思います。