「ゾンビ」(1979)の世界的ヒットで、ゾンビブームが起こりました。
当然、柳の下の二匹目のドジョウを狙った作品も多かったわけで、その中の一本が「サンゲリア」(1979製作/1980日本公開)。
製作はイタリア。
監督はホラーマニアの支持が熱いB級の巨匠ルチオ・フルチ。
明らかに胡散臭い映画ですが、カルト的な人気はあるようです。
(あらすじ)
ニューヨークに無人のクルーザーが流れ着き、中を調べた警官が腐乱死体に襲われた。クルーザーの持ち主の娘は父を探しに、新聞記者と一緒に南の島に向かった。そこにはゾンビを研究する医師が住んでいた・・・
( ↓ 海外版予告編。結構グロいシーンがあるので閲覧注意です)
僕が子供の頃、TVで時々、「ホラー映画特集」っていうのを放送してたんですよ。
1時間半~2時間枠で、過去のホラー映画から怖そうなシーンを寄せ集めて、ゲストがそれを紹介する番組。
放送タイミングによっては、最後の方でMCが
「来週、いよいよ、今までご紹介した作品を上回るホラー映画が公開されます。視聴者の皆さんには今回特別に、その映画の一部をお見せしちゃいます!」
って、新作ホラー映画のタイアップになってたりしました。
ちなみに、よく取り上げられてたのが「サスペリア」(1977)の天井から女の人が吊るされるシーン、オーメン(1976)の板ガラスで首が切断されるシーン、「ソンビ」のエレベーターが開いて、ゾンビが中になだれ込んでくるシーンでしたね。
初めて「サンゲリア」を見たのは、そういう特番の中でした。
そこで出てきたのは、ゾンビに髪の毛を引っ張られる女性の眼が尖った木片に引き寄せられるシーン。
目に突き刺さる直前で、場面がスタジオに切り替わってゲストが「キャー!」って叫んでるんです。
このシーン、マジで痛そう。
トラウマレベルです。
(リンクを貼った予告編にも出てきます。怖いものみたさの人はどうぞ)
そんな思い出のある「サンゲリア」ですが、封切当時、劇場では見ていません。
初めて全編見たのは20代の頃。
TVの深夜枠で、たまたま見たんじゃないかと思います。
しかし覚えていることと言えば、冒頭でゾンビを乗せたヨットが都会にたどり着くシーン、墓場からスペイン人の死体が蘇るシーン、例の残酷シーンぐらい。
(本編ではぶっすり突き刺さるところまでやります)
とにかく超B級だなぁ、という印象のみ。
話なんて全く覚えてません。
そして今回見直しても、残念ながらその印象は全く変わりませんでした。
予算の関係もあるんでしょうが、メインの舞台を南の小さな島にしたのは、閉鎖空間っぽくて、設定としては悪くないです。
ただし、現代のゾンビ映画のように「自分たちが日常を過ごしている街に、ゾンビが徘徊する」というリアルな怖さに比べると、レベルが一つ落ちます。
話の展開として、定期的に主人公たちがピンチになるんで、飽きることはありません。
この辺りはさすがルチオ・フルチ監督、B級映画の見せ方、演出の仕方が分かってます。
が、この映画の本質は「ゾンビブームが冷めないうちに、低予算でちゃちゃっとゾンビ映画作って儲けましょうよ」っていうの不純な動機。
そのため話や出来、俳優は二の次だったんじゃなかろうかと思います。
島で行方不明になった富豪の娘と、彼女に同行する新聞記者が主人公なんですが、この新聞記者が見た目も含めて、全く主人公っぽくない。
主人公をカッコいいヒーローにしろとは言いませんが、やっぱりホラー映画には、話の軸となるリーダー的な人物が必要です。
話を通して、主人公のグループがゾンビに追われて、行き当たりばったりにうおさおするだけで、見ている方は共感しません。
そして、この映画の肝のゾンビなんですが、とにかく設定が雑。
ゾンビの怖さって、無気力に人肉を食べたいという本能だけで動いているところ。
いつでも生気がない虚ろな目がポイント。
ロメロの「ゾンビ」やゲームの「バイオハザード」の第一作目のゾンビで確立されたスタイル。
昔のモンスターにあった「人を襲う怪物だぜー。怖いだろう」というのがなく、視線を合わさなければ、近寄ってもこないという不気味さが、余計に怖さを引き立ててました。
しかしこの映画のゾンビは最初のうちは、今風だったんですが、途中から露骨に近寄ってくる等、明確な殺意を持ったゾンビが中ボスとして登場。
海の中に腐乱死体ゾンビなんて、襲ってくるときの目が眼光鋭くてマジなんですよ。明らかに殺意を持った目(笑)
もうちょっとロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968)や「ゾンビ」を研究して欲しかったです。
更に終盤には300年ぐらい前のスペイン兵(南米を征服したスペイン人ですね)のミイラが墓から蘇ってくるんですよ。
それって動けるんですか?
スカスカのミイラですよね?
もうゾンビじゃなくて、妖怪です。
まぁ、ゾンビが発生した原因が、軍の実験や新種の細菌ではなく、ブードゥー教なんで、ミイラが蘇るっていうのも、アリと言えばアリなんですけど、ブードゥー教でゾンビが蘇るなんて話は、今ならホラーよりも、ファンタジーの分類ですよ。「ハリポタ」や「ロード・オブ・ザ・リング」の遠い親戚になっちゃいますよね。
ラストはニューヨークがゾンビで溢れているシーン。
これはスケール感もあるし、終末感もあります。
お!、と思ったら、画面の真ん中はゾンビの群れが歩いてますが、両端の道は車が普通の流れてます(笑)
通行止めした仮装行列みたいな感じで、苦笑いでした。
やっぱり予算なかったのね。
(これも予告編で確認出来ます)
さて、映画全体の感想ですが、ノリは1960-70年代のB級ホラー映画。
B級巨匠のルチオ・フルチが監督をしているだけあって、その手の映画が好きな人なら、見ている間は飽きないでしょう。
ただ話は序盤の無人のヨットがニューヨークにたどり着いたところは、不気味なホラー度満点だったんですが、島に行ってからは、ただのサバイバル映画。伏線とか、どんでん返しはなく、ひたすら逃げてるだけです。
見終わって印象に残ったのは、最初に書いた3つのシーンぐらいで、あとはすーっと頭の中から消えてしまうレベル。
今見ると、「痛いそうだなぁ」と思うシーンはあっても、「怖い」と思うシーンはありません。
結局、若かりし頃に深夜で見た時の感想はとても正しかったです。
この映画の原題は「ZOMBIE 2」。
(文献によっては「ZONBIES」となっていますが、今回見たバージョンは「ZONBIE 2」でした)
明らかにロメロの「ゾンビ」の続編と誤認させることを狙ってます。
(ロメロの「ゾンビ」の原題は「Dawn Of The Dead」ですが、日本など一部地域では「Zonbie」のタイトルで公開されてます)
勿論、日本のタイトル「サンゲリア」は、日本独自のタイトル。
名付けたのは配給会社の東宝東和。
Wikipediaによればイタリア語の血を意味する「Sangue」から作った造語だとか。
確かに意味不明のおどろおどろしさがあります。
東宝東和と言えば、このブログでも「メガフォース」(1982)や「バーニング」(1981)で取り上げている昭和の映画誇大広告王。
バンボロ(「バーニング」)やジョギリ(「サランドラ」(1977))といった俺ジナルなネーミングは、この会社の真骨頂です。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
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これ、更に驚愕の話があるんです。
世界最大の映画のデータベースIMDb(英語)では、この映画のタイトルがこう紹介されてます。
「Sanguelia」(original Title "Zombie 2")
遂に東宝東和のオリジナルタイトルが世界標準になったようです!
すごいぞ、東宝東和。
テーマ曲は不気味で、意外にカッコいいです。
Prime Video、Netflix、U-Nextのサブスクにはなく、DVDレンタル屋にもなかったので、今回もTSUTAYAの宅配サービスを利用しました。
Blu-rayは手に入るようですが、マニア向け販売なので、いい値段です。