パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【オーバー・ザ・トップ】肉体派スタローン全盛期に作られたMTV要素入り量産型映画

シルベスター・スタローンのフィルモグラフィ~の埋もれた一本オーバー・ザ・トップ(1987)。

 

この映画が公開されたのは、彼の代表作「ランボー」と「ロッキー」シリーズが最初の終盤に差し掛かっていた頃です。

(「ランボー3/怒りのアフガン」が1988年、「ロッキー5/最後のドラマ」が1990年)

 

「デッドフォール」(1989)の時にも書きましたが、この頃の彼は「ロッキー」や「ランボー」のイメージを払拭しようとするような映画に出演することが多かった気がします。

「デッドフォール」や「コブラ」(1986)辺りはそういうイメチェン狙いの映画ですね。

 

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ただイメチェンを図ろうにも、さすがにシルベスター・スタローンが出てるんだから、それなりにアクション的な盛り上がりがないとダメだろー、っていう線作者側の要望もあってか、「パラダイス・アレイ」(1978)のような、アクションを全然しない役を演じることはありませんでした。

 

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で、この映画も、そんなイメチェン系の一本じゃないでしょうか。

でも劇場公開時に見たんですが、見終わった後は「まぁまぁ」程度の満足感でした。

さて、今回見直したら、どんな映画に見えるんでしょうか?

 

(あらすじ)

長距離トラックドライバーの主人公には、別れた妻と息子がいる。金持ちである義父が、無理やり主人公から二人を引き離していた。重病となった妻に、遠くの寄宿学校を卒業する息子を迎えに行き、親子の時間を取り戻して欲しいと言われた主人公は、大型トラックで息子の学校に乗り付ける。金持ちの子息ばかりの学校に現れた主人公は明らかに場違いで、父親であることを明かした息子にも拒絶される。それでも、なんとかトラックに同乗させ、二人は妻が入院している病院を目指す・・・


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この映画は距離のあった父と息子が邂逅していく話。

スタローンは「俺、不器用ですから」と、自分の想いや考え方、やり方をひたすら貫く男。

想いは必ず相手に届く、というタイプです。

その想いを伝えるツール(?)として登場するのがアーム・レスリング(腕相撲)。

ボクシングや、ジャングルでのゲリラ戦のような派手さはありませんが、アーム・レスリングの試合はそれなりに緊迫感があります。

あくまでも、それなり、です。

そもそもアーム・レスリングはこの映画のメインではありません。

 

あくまでもシルベスター・スタローン(この映画の脚本も書いてます)の狙いは、人間ドラマだったと思います。

アーム・レスリングは地味になり過ぎるのを防ぐための、スパイスとして取り入れたんじゃないでしょうか。

このドラマって金持ち VS 労働階級っていう階級差ドラマでもあるんです。

そのためには主人公は、トラック運転手であることが絶対条件。

さすがにガチの格闘技だと、武骨なトラック運転手の兼業は非現実的だから、プロの世界がないアーム・レスリングが採用されたのかも。(プロがあったらごめんなさい)

または映画会社に意向で「スタローン主演でアクション要素がないのはちょっとなぁ」となって、アーム・レスリングが付け足された、なんてことかもしれません。

 

個人的には実はスタローンは正統派の人間ドラマをやりたかったのかも、と思ってます。

 

元々、スタローンは人間ドラマが好きな人。

出世作の「ロッキー」(1976 / シルベスター・スタローンは脚本・主演)も、実は底辺のボクサーが仲間に支えられて、チャンピオンとの試合に挑む話で、大半が人間ドラマです。

彼が全くアクションをしない「パラダイス・アレイ」(スタローンは監督・脚本・主演)も良質なドラマでした。

未見ですが、「フィスト」(1978 / スタローンは脚本)という社会派ドラマも作ってます。

 

そんな思惑とは別に、この映画もスタローンの映画なので、宣伝ではアーム・レスリングが全面に出てます(笑)。

 

さて、それじゃ「オーバー・ザ・トップ」が良質のドラマかというと、そこはちょっと残念

ストレートに言えば練り足りない、です。

 

悪くはないです。でもドラマとして月並みの範囲を超えてないんですよ。

とにかく展開が読める。

よく言えば安心安定。

悪く言えば十把一絡げ

見終わった後にすぐ忘れられちゃうような作品です。

 

不器用なお父さんと、ねじくれた息子の邂逅っていっても、実は息子が一方的に歩み寄ってく感じです。

お父さんは頑固で、不器用だから自分を変えられないんでしょうか?

更に金持ちの義父を悪役にして、「ほら、人生はカネじゃないだろ?スタローンは何も悪くない」的な、ベタな展開に仕上げてます。

 

しかし、冷静に考えれば、リッチな生活をしていたところに、長らく音信不通だった脳筋の父ちゃんが突然表れて、「俺のトラックに乗って、親子の絆を深めようゼ!」って言われたら、普通ドン引きですよ。

ましてお母さが瀕死の重病で入院してるなら、乗り心地イマサンのトラックでチンタラ移動してる暇なんてなくて、さっさと飛行機のファーストクラスで駆け付けたいですよね。

挙句の果てに間に合わなくて、お母さん死んじゃうし。

 

子供からすれば???

なんて簡単に歩み寄れないシチュエーション。

 

言い換えれば、そういう風に見せない(見えない)ところは、上手く仕上げてるって言えばその通り。

反発→対立→和解→絆深まる、という親子や友情ドラマの黄金律に沿って、手堅く作られてるからでしょう。

 

でも、だからこそちょっと捻ったドラマだった「パラダイス・アレイ」の出来に比べると、凡庸です。

 

オーバー・ザ・トップ_パンフレット

ラストのアームレスリング大会は盛り上がりますが、優勝賞品が豪華トラックって、完全にトラックドライバー向けの大会。

てっきりいろんな方面から腕自慢が集まる大会かと思ったら、結構狭い世界の話なのかも。

やっぱりアーム・レスリングって兼業さんが中心だと納得。

 

だったらもっとトラック運転手業界やドライバー仲間との繋がりを盛り込んで、「アーム・レスリングはトラック運転手同士のプライドを賭けた戦い」っていう風にした方がドラマが多重構造になって面白かったかも。

その中で息子がトラック運転手たちとの交流を通して、金持ち意識が薄れてくってやり方もあったんじゃないでしょうか。

「金持ちの世界とは全く違うけど、みんな胸を張って生きてるんだなぁ」っていう、階級の違いを明確化できた気がします。

 

MTV全盛期なので、この映画もロック/ポップスが満載です。

 

主題歌「Winner Takes It All」は当時ヴァン・ヘイレンに加入したばっかりのサミー・へイガー。

故エティ・ヴァン・ヘイレンリードギターではなく、リズム・ギターとベースを弾いてます。(リードギターはサミー・ヘイガー)

Winner Takes It All

Winner Takes It All

  • サミー・ヘイガー
  • ポップ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

主題歌と言っても、流れるのはエンディングなんですけどね。

 

映画の有名な曲と言えばロビン・ザンダー(チープトリック)の「In This Country」もあります。

何で有名かというと日本でのF1中継の時にテーマ曲として使われてたんですよ。

In This Country

In This Country

  • ロビン・サンダー
  • ポップ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

最近は日本でのF1中継がフジテレビからDAZNになったことで、この曲は使われなくなりましたが、今年行ったF1日本GP鈴鹿)では入場ゲートのところで流れてました。

 

手抜きはないし、お金もかけてるので、TVで見る分には飽きないと思います。

でも、やっぱりシルベスター・スタローンの映画としては、記憶に残らない一本です。

 

新品DVDはちょっと高いですが、入手可能です。