超超有名なカルト映画。
その名は「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」(1969)。
僕は、25年ぐらい前にフリーマーケットで売られていた怪しげなビデオを買って、この映画を見ました。
何故なら当時は全くソフト化されおらず、視聴不可能な封印作品と言われてたんです。
「奇形の人間を扱ってるから、封印された」
そんな噂が実しやかに流れてました。
(実際は時折、名画座やミニシアターでの上映はあったみたいです)
その後、2007年に米国でソフト化され、2017年には国内でもソフトも販売。
今ではサブスク(東映チャンネル)で見ることが可能です。
今更、倉庫でほこりをかぶっているビデオデッキを引っ張りだしてきて、フリマで買ったビデオを見るのも無理があるので、今回はサブスクを利用して視聴しました。
(ってか、もうTVに昔の三色アナログコードを繋ぐ場所がないんですけどね)
そんな伝説のカルト映画をレビューします!
(あらすじ)
精神病院に監禁されていた医学生の主人公は、自分を狙う男を殺して、脱走する。彼は自分の出自が分からないが、薄らと記憶のある謎の子守歌と海の風景だけを覚えていた。自分の出自を探し求めていた時、遂にその歌を口ずさむサーカス団の少女に出会う。彼女は何故この歌を知っているか分からないが、知り合いに裏日本の歌だと言われたと告げた途端に殺される。殺人の疑いを掛けられた主人公は、自分の出自を求めて北陸へと向かった。そこで彼は自分と瓜二つの名家の跡取り息子が急死したことを知り、埋葬後に彼と入れ替わり、身分を隠すことに成功する。しかしその家の当主は、沖にある孤島で謎の実験をしていた・・・
初めて見た時は、「凄い映画だなぁ」と思いました。
何が凄いかって言うと、コンプライアンスもモラルも欠片のない、コテコテの昭和の映画だってこと。
この映画を最後に、東映は大衆受けのためにうちだした性愛エログロ路線を終えたんですが、まさに終幕を飾る、エログロ濃縮娯楽作だったんです。
オープニングは主人公が収監されてる精神病院ぁらスタート。
鉄格子の大部屋病室では、気が狂った女性たちが、みんなオッパイぽろり、どころか丸出しで、大騒ぎをしてます。
さすが昭和の娯楽作。
お約束の「おっぱい、いっぱい」です。
スマホにダウンロードして、通勤時間に見ようと思ったんですが、あまりに女性の裸が出てくるので、電車の中で見るのは諦めました。
続いて前衛舞踏集団・暗黒舞踏主催者、土方巽さんが白塗りで摩訶不思議な踊りを見せてくれます。
まぁ、こんな雰囲気が全編続きます。
タイトルにあるように、江戸川乱歩を原作としてます。
話のメインは「パノラマ島奇談」ですが、そこに無理矢理(?)有名な「人間椅子」「屋根裏の散歩者」がミックスされてます。
精神病院を逃げ出した主人公が、地方の海沿いの村で自分そっくりの金持ちの跡取りが死んだことを知り、追手を逃れるため生き返ったことにして、その男になりすますんです。
その屋敷での生活の描写は、ことあるごとにエロ。
嫌いじゃないですけど。
後半は、自分の父親が引きこもっているという離島が舞台。
そこで父親は狂った楽園を作ってるんですね。
彼は手に水掻きがある奇形で、それが元で自虐的になっていて、奇形だけの王国を作ってるわけですよ。
それが奇形の人を集めるのではなく、普通の女性をたくさん拐ってきて、手術で奇形にしてしているという完全に頭のおかしい計画。
ただし奇形といっても伝説的な「フリークス」(1982)、「悪魔の植物人間」(1974)や「エレファントマン」(1980)のようにホンモノの方々は出演していません。
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暗黒舞踏の劇団員が、白塗りで、体を傾けたりして、それっぽくやってるだけ。
醜い男と美女を腰のところを無理矢理繋げて作られた人工のシャム(結合双子)も、どう見ても腰の辺りを布で縛り付けてるだけです。
しかし言い換えれば、「フリークス」は本物の奇形の人たちを主役にした人間ドラマとして、カルト映画になりましたが、この映画は奇抜なパフォーマンスで奇形の人たちを表現したという奇抜さで、カルトポイントが高いと言えます。
ちなみにタイトルは「恐怖奇形人間」ですが、彼らが襲ってくるワケではありません。
ただの煽りタイトルです。
「悪魔の植物人間」と同じで、襲ってくるのは奇形人間(植物人間)を作ってる人です。
(この映画では、黒幕の当主も手に水かきのある奇形という設定ですが・・・)
さて、そんな変わった映画ですが、懐かしい感じがするんですよ。
なんだろう?とよく考えたら、天地茂さん主演のテレビ「江戸川乱歩の美女シリーズ」(明智小五郎シリーズ)に似てるんですね。
同じ江戸川乱歩が原作というだけでなく、不必要に出てくる女性の裸や、時折出てくるグロい描写はまさにあのシリーズと同じ!
最後に明智小五郎(テレビだと天知茂さん)が出てきて、一気に事件を解決するのも同じ。
しかし、今思うと、そんなエログロの「江戸川乱歩の美女シリーズ」を、よく地上波でやってたぁ、と痛感します。
さすが昭和。
そんなワケで、この映画は、劇場版「江戸川乱歩の美女シリーズ」って言ってもいいんじゃないでしょうか。
さて、この映画がカルト扱いになっているのは、奇形の人々を扱ってるとか、昭和のエログロだとか、暗黒舞踏による摩訶不思議なパノラマ島の描写だけではありません。
この映画をカルト作品にした決定打はラストシーン。
(ここから完全にネタバレ)
島で知り合った女性(シャムの片方。主人公が分離手術済)と恋に落ちた主人公。
最後に父親から二人は本当の兄妹だと知らされます。
絶望するも、もう別れられない二人。
「来世で一緒になります」
と、花火の筒に入って、打ち上げられます。
抱き合ったまま空中で爆発する二人。
空に舞うバラバラになった手足や頭。(手は繋いだまま)
何度も画面を横切る生首。
「お母さーん」「お父さーん」
このシュールな絵作りは、トラウマ度100%です。
このラストシーンだけで、カルト化確定です。
監督は石井輝男さん。
娯楽作を主戦場とする監督さんですが、そのうち何本もカルト化するという、ある意味行き過ぎた監督さんで、マニアの間では人気が高いです。
晩年は自分のプロダクションで好きなように映画製作をしていたようですが、「ねじ式」(1998)といったつげ義春作品の映画化や、「盲獣vs一寸法師」(2001)といった江戸川乱歩のリミックス物、「地獄」(1999)という凶悪犯が地獄で責めをうける映画など、カルト色が強い映画を作り続けたことを見ると、意図的にカルト作を作ってたんじゃないんでしょうか。
先日レビューした「直撃!地獄拳」(1974)も石井監督の作品でした。
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この映画は普通の人にはお勧めしません。
多分、普通の人が楽しめる要素が皆無だから。
正直、カルト映画好き、昭和のB級映画好きがニヤニヤしながら楽しむような作品。
普通の映画としては45点ぐらいですが、カルト映画好きにとっては100点満点の作品。
まぁ、カルト映画ってそういうもんでしょうけどね。
今やDVDはアマゾンなどでポチれば、簡単に買えます。廉価版ではないので、値段はそれなり。
「何とか見ることは出来ないだろうか?」とマニアが頭を悩ませていた時代は遠くなりにけり、です。