ギャグ映画を装ったシリアスなSF。
そして最高の青春アニメにして、カルト作品。
それが「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」(1984)。
当時、熱狂的に支持されてたようですが、僕は「ふーん」という感じでした。
でも今見ると、ちょっとジーンとするんですよね。
それは青春の有難みが分からない学生の時に見た印象と、青春が遠い昔なった今見た印象の違いなんじゃないかと思います。
そんな名作をレビューしました。
(あらすじ)
友引高校は明日の文化祭に備えて、徹夜でてんやわんやの準備が進められていた。あたるやラム達も仲間とドタバタしながらも、準備にいそしんでいる。そして翌朝、同じように「文化祭の前日」がやってきて、同じことが繰り返される。それに気づいた温泉マークとサクラは学園祭の準備を中止させ、生徒を学校の外に出す。雨の中、外に出された面堂たちは自宅に帰ろうとするが、どこに向かっても学校に戻ってきてしまう・・・
昭和末期に、アニメ好きだった若者にとって、誰もが知ってる「うる星やつら」。
僕は毎週欠かさず見てるようなファンではなかったですが、登場人物のキャラや人間関係、おおよそのノリは知ってました。
勿論、今でも絶大な人気を誇り、コスプレイベントではラムちゃんのコスプレーヤーを必ず見かけますし、テレビでも新作が放送されるほどです。
(先日参加した名古屋コスプレサミットでも、ラムちゃんのコスプレをした人がいました)
原作の高橋留美子さん曰く「アニメと漫画は別物」だそうです。
特にこの作品は「これは私の作品ではなく、押井さんの作品」とコメントされるほど、押井色が色濃く出ています。
確かに、この映画は単なるギャグアニメではありません。
劇場版パトレーバーの一作目(1989)と二作目(1993)と似た押井テイスト。
ギャグアニメでシリアスな物語を展開する、ではなく、シリアスな物語にギャグアニメを無理やりハメてる、そんな感じ。
ギャクだけど、シリアスっていうアニメには「クレヨンしんちゃん」の劇場版シリーズが有名ですが、この作品と「クレヨンしんちゃん」では明らかに手触りが違います。
ギャグが本分にあるという前提で作られてる「クレヨンしんちゃん」は、笑いで話を引っ張ります。
でも、この映画は明らかにシリアスな筋立てで引っ張ります。
(元々、「うる星やつら」にはラムちゃんのあたるへの純愛っていうシリアスなファクターがあるも大きいのかも)
「機動警察パトレーバー The Movie」(1は1989/2は1993)では、押井監督がその路線を突き詰めた結果、特車二課のパトレイバーの活躍よりも、シリアスな人間ドラマの比重が高いという凄い構成になってました。特に「The Movie 2」はお笑いの要素のない、シリアスクーデターモノという、悶絶の出来でした。(僕は大好きです)
(押井監督は「ケルベロスシリーズ」でもクーデターを扱ってるので、クーデターにこだわりがあるんでしょうね)
いやー、冒頭にも書きましたが、今回の鑑賞はちょっとジーンときましたね。
涙が零れるとか、あのシーンが忘れられないとか、そういのはないんですが、この映画全体が遠い昔を思い出せるからなんじゃないかと思います。
永遠に終わらない文化祭の準備っていう設定が刺さるんですよ。
文化祭って友達とワイワイ相談しながら準備してる時が一番楽しい時間だと思うんです。
僕も高校生の時、いろんなサークルやクラスを掛け持ちして、前日の夜まであれやこれやと準備に追われていた記憶があります。
本当に楽しかった。
でも当時は文化祭が終わると、「やっと終わった~」という気持ちだったんですね。
今思えば、永遠に続けばいいって思うんですよ。
だからこの時間が永遠にループすればいいっていう願いは、今は痛いほど分かります。
予告編では「悪夢からの脱出」って言ってるけど、そこはちょっと違いますね。
タイムリープから抜けて現実に戻るという選択は、繰り返される学際前夜が悪夢ではなく、もっと他の楽しい、新しい日々が待ってるに違いない、先に進みたい、っていう希望。
青春ですよね。
大人になると、学生生活の先にはいっぱい厳しい現実があることを知っちゃうので、実はあの日々で止まっていてくれた方がどんなにハッピーかと思っちゃうんです(涙)。
だからこそ、この映画のテーマである「終わらない文化祭の準備」が、青春の本質をついてるなぁ、って痛いほど分かるんです。
このカラっとした雰囲気は、ギャグアニメ&青春アニメ(?)という「うる星やつら」が持つ本来の性質と、タイムリープしているのが仲間と楽しくやってる学際前夜っていう設定と組み合わせが、独特の魅力を生んでると思います。
普通、タイムリープものって、繰り返される悲惨な状況から逃れようとするのが多いじゃないですか。
例えば「バタフライ・エフェクト」(2004)とか「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014)とか。
だから登場人物たちが、このタイムリープをおかしいなと思いつつ、あんまり危機的なものと感じてなくて、適当にダラダラ過ごしたり、タイムリープから抜け出そうとするのは、知的好奇心みたいなところが、他のタイムリープ定番モノとは違います。
ラムちゃんを中心とした、個性的なキャラのやりとりを中心に、テンポ良く展開するので飽きることはありません。
ただし主人公たちが見る抽象的なイメージや摩訶不思議な幻影は、実写映画では見せられない、アニメならではの描き方で印象的なんですが、ちょっと芸実的な表現に寄り過ぎていてミスマッチっぽく見えました。
その自体はいいんですが、そこはもう少し、観客に違和感を抱かせない見せ方があったんじゃないかなぁ、と思います。
この頃のアニメで、ちょっとシリアスなものだと、こういう抽象的な心情風景みたいな描写を入れることが多かったと思います。
僕の大好きな「オネアミスの翼」(1987)でさえ、ラストの心情風景みたいなのは、ちょっと・・・って思うタイプの人間なので。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
昭和SFマニアとしては、学内の群衆キャラの中にゴジラシリーズの怪獣や「海底軍艦」の轟天号、ウルトラ怪獣がチラっと出てくるのが嬉しいですね。
今の時代だと著作権とかうるさいから、無理なのかな?
(東宝配給だから、円谷特撮系はOKだったのかも)
SF心があれば、話自体はよく出来ているので楽しめると思います。
ラストもラムちゃんの純愛がしっかりオチに結び付けられていて、上手にまとめられてます。
勿論、登場キャラのことが分かっている(お約束のギャグやセリスが分かっている)とより楽しめるのは間違いありません。
エンディングで流れる、もろに80年代JーPopな主題歌「愛はブーメラン」も、何故か耳に残っちゃいます。
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