このブログで、昭和の時代に見たっきり、数十年ぶりに見返す映画のレビューを定期的に載せてます。
時々、「公開当時、全く面白くなかったんだけど、今見たらどうなんだろう?」という、ちょっと意地悪な目(?)で再見してるのもあります。
が、その中には「今回観てみたら意外と面白かった」と、いい意味で裏切ってくれる作品もあったりします。
(勿論、「やっぱりつまらなかった・・・」の方が多いんですが)
今回レビューする「リリー・マルレーン」(1981)もそんな裏切ってくれた一本。
初公開時に劇場で見てるんですが、その時は全く楽しめませんでした。
「映画としてはちゃんと作ってあるけど、話が全然ワクワクしない」っていう記憶があります。
なかなか見る機会のない映画だったんですが、今回4Kレストア版が劇場公開されることになり、横浜・伊勢佐木町にある映画館シネマリンのレイトショーに足を運んできました!
(あらすじ)
第二次世界大戦前のスイス。ドイツ出身の歌手である主人公にはユダヤ系スイス人の恋人がいた。彼は裕福な一家の御曹司でありながら、ドイツに住むユダヤ人を国外に脱出させるために、偽のパスポートを密かにドイツに持ち込む組織に属していた。主人公は恋人とスポートの密輸のためドイツに出かけるが、その間に息子と主人公の交際をよく思わない恋人の父親がスイス政府に手を回したため、主人公はスイスに再入国出来なくなる。ドイツに取り残された主人公は、生活のためスイスで知り合ったドイツ高官の音楽プロデューサーを頼り、「リリー・マルレーン」のレコードを出し、これが大ヒットとなる。しかしその「リリー・マルレーン」により、彼女はナチス政権の宣伝として利用されていく・・・
初見から今まで43年間、一度も見直してないんです。
一つには前述の通り、初公開時に見た印象が薄かったから。
もう一つは平成になってから僕の映画の主戦場が、B級映画やカルト映画になったため、守備範囲外となってしまったから。
それでも歴史的名作や話題の文芸作はちょこちょこ追ってたのですが、この映画はそのレベルにはなかったので、僕の中で埋もれてた感があります。
先日、シネマリンに村上春樹さん原作のアニメ「めくらやなぎと眠る女」(2022)を見に行った時、映画館の壁に貼ってあった上映予告のポスターを見たんです。
「あ、リリー・マルレーンだ。懐かしい!どんな映画だったんだろう?覚えてないや」と思って、観ることにしたんです。
ちなみに映画のタイトルの「リリー・マルレーン」は二次世界大戦中にドイツ軍のみならず、イギリス軍の間でもヒットした曲のタイトル。
主人公の名前ではありません。
「リリー・マルレーン」は大女優マルレーネ・デートリッヒの持ち歌としても有名です。今は彼女のバージョンが視聴し易いです。
「リリー・マルレーン」は戦争中のドイツ歌謡曲としてはアイコンのような存在で、前述のようにドイツ軍のみらなず、イギリス軍の間でも流行りました。(イギリス軍が、敵性歌謡として兵士に聴くことを禁止しなければならいほどだったそうです)
ガンダム好きには、「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」(1991-92)の中で登場するジオン残党のシーマ・ガラハウの乗艦の名前として記憶されてるかも。
実は今回改めて調べると、実際は戦争中に「リリー・マルレーン」をヒットさせた実在の女性(ララ・アンデルセン)をモデルにした話だったんですね。
ずーっと名歌「リリー・マルレーン」をモチーフにした架空のドラマかと思ってました。
公開当時、パンフレットも買ったんですが、買ったことに満足して読んでないことがバレバレです。
さて今回見てどうだったかと言うと、
「面白かった」
の一言。
「時代に翻弄された女性」のドラマとして見応えがありました。
その大きな要因として、昔に比べて第二次世界大戦前~戦後のドイツ史についての知識が増えたこと。
例えば主人公が恋人とミュンヘンのユダヤ人に偽旅券を届けにいくシーンで、ユダヤ人の女性が「夜、ユダヤ人街が襲われて、割れたガラスが路面に散らばっていたわ」というセリフがあるんです。
これは歴史的に有名な「水晶の夜」(1938年11月9日)と呼ばれる、ユダヤ人差別への転換点となった事件のことだったんです。
そんな風にナチス政権の台頭から終焉の中で、主人公は生きてくために「リリー・マルレーン」を歌い、それにより浮き沈みを味わうも、恋人のことを心の拠り所に頑張るワケです。
そんなにしてまで、恋人を想い続けるのに、最後は彼が結婚してることを知り、彼に会わずに黙って去っていく、そんな波乱万丈のドラマです。
この映画をただの女性ドラマにしていないのは、背景となってる第二次世界大戦のドイツの状況が克明に描かれてるから。
ナチスの独裁体制、ユダヤ人を救おうとする組織、戦争に否応なく巻き込まれてく人々、厭戦感溢れる兵士達・・・
この時代の切迫感が、物語にずっしりと乗っかかります。
これがドラマに他の恋愛映画とは違う厚みを加えています。
言い換えれば、この辺りが良く分からないと面白さも半減、っていうか普通の恋愛映画っぽく見えちゃうのかも。
これが僕が初めて見た10代に、面白さが分からなかった理由なんじゃないかと思います。
最初にこの映画のことは全然覚えていないと書きましたが、実は見ていくうちに、「あー、こんなシーンあった!」って思い出すものもありました。
一番鮮烈に思い出したのが、主人公の恋人がドイツの秘密警察(ゲシュタポ)に監禁されるシーン。
彼は偽造パスポートを使ってドイツに潜入するんですが、偽造がバレて逮捕。ゲシュタポから主人公の恋人ではないか?と疑われるんです。
彼はずっとシラを切り通すんですが、遂に小部屋に閉じ込められるんです。
そこは壁には一面に主人公のポスターや写真が貼られまくり、埋め込まれているスピーカーからは24時間「リリー・マルレーン」が流れてるんです。それも針が飛ぶレコードの「リリー・マルレーン」。
レコードのことが分からない人のために説明すると、レコードって傷が付くと、同じところを何度も繰り返すようになるんです。全曲繰り返すのではなく、多分5~10秒ぐらいのフレーズを繰り返すんです。
(それでも分からない人は昭和50年ぐらいまでに生まれた人に訊いて下さい)
このシーンを見た瞬間、最初に見た時もエゲつないなぁ、って思ったことが蘇りました。
この小部屋から出された恋人は、ゲシュタポの官舎で恋人と会わされます。
彼が主人公の恋人と分かったら、二度と監禁から解放されないと分かってる二人は「どこかでお会いしたことがありませんか?」「いえ、気のせいでしょう」みたいに他人のふりをするんです。
このシーンは泣けました。
が、それ意外に思い出したのは、恋人はユダヤ人を救う秘密工作をしているのに、ヒロインとの恋愛を優先させて、杜撰な作戦行動をしてるなぁ、とか、ヒロインのことを愛してるといいながら、親に押し切られて他の女性と結婚しちゃうとか、出演者の中で頭一つちっちゃくってヒロインの恋人っぽくないなぁ、とか。
彼のダメっぷり?ばっかり思い出しました。
こんな男だから、恋愛映画として見ると、正直面白さに欠けるところがあるのかも。
ちなみに上のパンフレットの表紙に映ってる男性は恋人ではなく、出征する相棒のピアニストです。これ、絶対誤認しますよね?
今回見て改めて気づいたのは、ユダヤ人の救出組織(反ナチス組織)が話の中の大きなウェイトを占めてること。
ドイツ国内にも反ナチス組織があり、実はドイツ軍の将校の中にも賛同者がいて、いつも寸でのところで主人公を助けてくれるんです。そんなこと全く覚えてませんでした。
あと反ナチス組織の協力者で顔の半分に火傷の跡がある男が出てくるんですが、なんと怪優のウド・キアでした!
好きな俳優なので、これは嬉しい驚きでした。
今回、入場者にはポストカードが配られました。
勝手にノッペリした恋愛ドラマかと思ってましたが、実は大河ドラマでした。
恋愛ドラマが苦手でも、歴史に翻弄される人々のドラマが好きならば、一見の価値はあると思います。
映画館に足を運んだのは、ほんの思い付きでしたが、正解でした。
記憶の彼方から掘り起こして、ちゃんとした価値が分かって良かったです。
新品のDVDやBlu-rayは入手困難なようです。
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