「未来世界」(1976制作/1977公開)は、SF映画の佳作「ウエストワールド」(1973)の続編。
小学校の時に、雑誌<スクリーン>でこの映画の記事を読んで、とっても見たくなりました。でも、当時は一人で勝手に映画に行くことが出来ないし、親はこの映画に全く興味がなかったので、結局見られず仕舞いでした。
その後、記憶から完全に忘れ去られてたんですが、最近、TSUTATAの宅配レンタルのリストでこの映画を発見。早速注文しました。
まずは前日談である「ウエストワールド」を復習のため見た後に、準備万端この映画を見ることにしました。
これは何度見ても面白かったなぁ~
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さて、そんな面白い映画の続編だし、あの小学生の僕が期待した通りの映画なんでしょうか・・・
(あらすじ)
数年前にロボットの異常により犠牲者を出して休園となっていた近未来のテーマパーク「デロス」。数年後、「デロス」は再開し、オープニングには各国著名人が招待され、その中には新聞記者の主人公と、元恋人のテレビキャスターもいた。「未来世界」というエリアを新設し、華やかなに再開した「デロス」。しかし主人公は滞在するうちに、その裏に陰謀があるのではないかと思い始める・・・
前作である「ウエストワールド」はなりSFマインド溢れる作品でした。
製作も大手配給会社「MGM」が行い、脚本と監督を、娯楽映画のヒットメーカー、マイケル・クライトン(「ジュラシック・パーク(1993)の原作、脚本家でもあります)が担当していました。
しかし
本作の製作はアメリカン・インターナショナル。
B級映画専門の映画製作会社です。
当時は「ドクター・モローの島」(1977制作/1978公開)といった「有名俳優を使ったB級作品」を量産している頃でした。
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この映画も主演はピーター・フォンダ。
父は名優ヘンリー・フォンダ、姉はアカデミー賞女優のジェーン・フォンダという芸能界のサラブレッド。
本人も若い頃にデニス・ホッパーやジャック・ニコルソンと組んで、ニューアメリカンシネマのアイコン的な名作「イージー・ライダー」(1969製作/1970日本公開)に参加。
製作・脚本・主演を担当し、一躍スターダムに上がりました。
だけど、その後はB級映画の常連って感じでした。
軽やかで、ちょっとユーモアのある感じはいいんですが、重厚感や高度な演技力があまり感じられなく、いつでも地で演じてる気がします。
そう言えば、村上龍さん原作・監督の「だいじょうぶマイ・フレンド」(1983)って映画にも、飛べなくなったスーバーマンの役で出てました。
そういう映画にも出るんですよ、凄いでしょ?
ちょっと見てみたい映画なんですが、難視聴映画っぽいです。
ちなみに娘のブリジット・フォンダも一時、売れっ子女優だったんですが、今はどうしてるんでしょうかね?
さて、彼が演じるのは辣腕新聞記者。
ちょっと「強引」が過ぎますが、彼らしいキャラで、とっても似合ってます。
まぁ、反対に言えば、ピーター・フォンダが自然体で似合う主人公をやってるってことが、この映画をB級臭くしてるとも言えますが。
監督はリチャード・T・へフロン。
ピーター・フォンダ主演の「アウトローブルース」(1977)や「探偵マイク・ハマー 俺が掟だ!」(1982)という、B級よりも極めてC級に近い、お気楽娯楽映画を専門(?)にしてる人。
脚本も前作とは別の人です。
そう、この映画には前作のキーマンだったマイケル・クライトンは1ミリも関わってません。
そんなキャスト&スタッフですから、中身は押してしるべしです。
上はDVDのジャケットなのですが、僕が<スクリーン>で見たポスターは、ほぼ同じだったと思います。このポスターはそそられますよね?
さて見た感想を素直に言うと、ただの陰謀モノのサスペンス映画。
ロボットやクローンといったものが前作以上にふんだんに出くるし、古くなったロボットを相棒にしている修理工が出てくるなど、前作とは違ったSF感を出そうとしていますが、全くSFマインドが感じられません。
「ウエストワールド」がガチのSF好きが作った映画だとしたら、「未来世界」は「売れるために、SFっぽいネタを拾って、くっつけた」ような映画です。
その例とて、舞台である未来テーマパーク「新デロス」が、どれだけSF的に凄いところなのか、というところが描けてません。
それは前作では主人公たちが純粋に「デロス」を楽しむシーンを丁寧に描くことで、映画を見ている方にも、(中二病を熱くする)夢の近未来テーマパークの楽しさが伝わってきました。
しかし本作では主人公たちが最初から「これ、裏があるんじゃね?」と、「デロス」を疑っているので、楽しむシーンが全く出てこないんですよ。
他の客が楽しむシーンがちょこちょこありますが、この映画の肝であるロボットがおざなり。
今回は前回の事件の後、「ウエストワールド(席部開拓時代)」を廃止して、「未来世界」を作った設定になっていて、その未来世界に焦点を当てているんですが、そこでのアトラクションが「無重力体験」「火星でスキー」といったロボットと全く関係のないものになっています。
挙句の果てに「トータルリコール」(1990)みたいな脳に直接働きかける疑似体験も出てきて、「これ、続編にする必要なくない?」って思いました。
この映画ってロボットを使ったテーマパークが舞台であり、そこが物語のキーだったはず。
もう完全に本質から逸脱してます。
また普通のアトラクションっぽくなったことで近未来感がなくなり、ディズニーランドやユニバーサルスタジオに近いイメージになってしまいました。
ちなみに、デロスランドで次に開館する予定は「イーストワールド(東方世界)」になってるんですが、これが江戸時代の日本という設定になってます。
そしてそこに侵入した主人公が秘密を探ってるうちに、侍や忍者のロボットが襲ってきます。
(法被に日本刀はちょっと違和感)
これは前作のように故障しているのではなく、意図的に警備員(殺し屋)として利用しています。うーん、俗っぽい。
あとロボットが出てくるのは、主人公と仲良くなるデロスの修理工が、相棒としてる古い型のポンコツロボット。修理工がいつもバカにするんだけど、デロスから脱出する修理工が「お前を必ず連れてってやるからな」というロボットに声をかける友情シーンが出てきます。表情のないロボットが、彼を待つようにポツンとしている場面がちょっと感動・・・って、この映画に必要あります?
多分、こういう脱線シーンがこの映画の質を下げてます。
クライマックスの主人公と彼のクローン(デロスの手先)の追いかけっこ(ピーター・フォンダの一人二役)は面白かったですね。
クローンが主人公に「お前の考えてることは分かるぞ」って、お互いに相手の逆の逆を取ろうとするのは良かったと思います。
ちなみにユル・ブリンナーが前回と同じガンマンの恰好で、何故かヒロインの夢の中に理想の男性として登場します。
意味不明。
スペシャル・ゲストとして出したかったんでしょうけど、これじゃ、あんまりです。
同じ格好させるなら、せめて最後は彼が主人公たちを追いかけるか、「ターミネーター2」(1991)みたいに今度は味方になるぐらいじゃないといけないんじゃないですかね?
やっぱりSFマインド(+発想力)は足りな過ぎです。
結局、この映画はただの巨大企業の陰謀を暴露する話でした。
デロスに招待した人をクローン(ロボットの究極形という設定)と入れ替えて、自分たちの思うように世界を動かすという陰謀。
うーん、なんかどこかで、何度も聞いたことあるようなネタだなぁ。
SFっぽいけど、だったらロボット関係ないから「ウエストワールド」の設定を無理やり引き継ぐ必要なかったんじゃないでしょうか。
そして前作と最も違うのは、勧善懲悪であること。
前作の「悪人はいない。だけど謎の故障でロボットが人を襲ってしまう」という科学に対する警鐘的なものはゼロになっています。
この勧善懲悪の明確な構図が、決定的にこの映画を俗っぽくし、薄っぺらくしてます。
ともかく脚本が凡作過ぎました。
前作のどういうところが面白かったのか考察せずに、設定とあらすじだけ借りてきたような感じ。
今回は新聞社やTV局といった、前作には出てこないデロスランドの外の世界が出てきますが、それがまさに当時の普通の社会のままなので、前作にあった近未来感を損ねてました。
(「ウエストワールド」にはデロスの外の世界は出てこない)
製作者に、ちゃんとしたSFマインドがあれば、この映画は全然違ったもになった(少なくとも質は向上した)んじゃないでしょうか。
結論はこの映画に全く興味のなかった親の勝ちです。
なかなかサブスクでも対象商品となっておらず、DVDも今は廃盤になってるみたいです。まぁ、ニーズがないってことでしょうね・・・