パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【ウエストワールド】70年代的SFマインド溢れる佳作。こんなテーマパーク、今でも欲しい!

子供の頃(昭和50年代)にTVの洋画劇場でよく見ていた作品「ウエストワールド」(1973)。

「西部」「中世ヨーロッパ」「古代ローマ」のぞれぞれの世界で、人間そっくりのロボットがお客さんの相手をしてくれます。

お客さんは、その世界でロボット相手に決斗、ロマンスなどを体験し、ヒーローやヒロインになりきれる夢のテーマパーク。

正義のガンマンになって、悪党を倒すもよし、女王に中世を誓う騎士となり、ライバルに決斗を挑むもよし。

勿論、悪役ロボットは最後は負けてくれるし、美女ロボットは必ず誘いに応じてくれます。

そんなテーマパークの設定だけでワクワクしますよね?

某大手テーマパークより、中二病の夢をかなえてくれる場所です。

 

そんな近未来のテーマパークを舞台にしたSFアクション映画が「ウエストワールド」。

面白かった印象しかありません。

 

実は数年前に懐かしくて、今は亡き横浜駅西口のTSUTSYAでレンタルして見たんです。

やっぱり面白かった。TSUTAYAなくなって寂しい)

今回は未見の続編「未来世界」(1976制作/1977公開)を見るために、改めて予習として、もう一度見てみました。

どんなところが面白いか再確認です。

 

(あらすじ)

近未来。「西部の国」「中世ヨーロッパンの国」「古代ローマの国」で、人間そっくりのロボットがホストを務めるテーマーパーク「デロス」。そこにやってきた主人公は「西部の国」(ウェストワールド)に行く。友達に誘われて、渋々やってきたものの、ロボットたちを相手にするうちに傷心も癒え、デロスを楽しむ主人公。しかし舞台裏では、ロボットたちに原因不明の故障が起こるようになっていた。やがて友人が、人間に危害を加えるはずのないロボットの蛇に咬まれる事故が起こる。やがてロボットたちが一斉に狂いだし、人間を襲い始めた・・・


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脚本/監督は70年代から2000年にかけて飛ぶ鳥を落とす勢いだったマイケル・クライントン。

SF系の題材を得意とし、一番有名なのは「ジュラシック・パーク」(1993)シリーズでしょうか。(原作兼脚本)

このブログでも取り上げた「コーマ」(1978)の脚本・監督もしてます。(ただしこの映画の原作は別の人)

pagutaro-yokohama55.hatenablog.com

「ウエストワールド」の面白さは、コンパクトさと無駄のなさ。

 

上映時間は88分とちょっと短めで、一見物足りないかなって思うんですが、見終わった後は十分な満足感が残ります。

とにかく、いい意味でシンプルで、僕の好きな「不必要なところが極力少ない」のが魅力

 

この映画に悪人は出てきません。

ロボットは元々、人間=客に奉仕するように作られてます。

悪役ガンマンロボットだって、役割通り憎々しげに客に決闘を挑んで、ちゃんとやられます。

後半で人を襲うんですが、それも壊れてるからだけで悪意はありません。

客もルールに従って楽しもうとしてる。

テーマパーク「デロス」を運営する科学者たちも真面目に、ちゃんと事故がないように最大限務めてます。

 

そういうところが、とっても「科学のミス」という現実にありそうな感じが出ています。

 

盛り上げようと思って勧善懲悪を持ち込むと、反対に現実味が薄くなって、安っぽくなるんですよね。

陰謀論って「困った時の理由付け」みたいなことが多いので。

そういえば「ジュラシックパーク」も悪人がいないくて、恐竜が本能のまま襲ってくるだけでしたね。

 

エストワールド ポスター

主人公は男二人組。

この遊園地に遊びに来たことある男が、嫁さんに裏切られた友人を誘って来たという設定。

 

イントロは飛行機らしきものに乗ってきます。

これが現実にはなさそうな、SF的な流線形をしている姿が管制塔のモニターに移しだされます。こういう上手なチラ見せで「近未来感」を出します。

はっきりと見せて無理やり未来感を押し付けるより、好感があります。

 

嫁さんに逃げられた男は、ウジウジしていて、全く遊園地を楽しむ気はなかったんですが、友人に楽しみ方を教えて貰ううちに、気持ちが少しづつほぐれてきて、口説いた美人ロボット(口説けば100%落ちるんですけど)と、一夜を共にしたら、

 

「ここって最高だな!」

 

って満面の笑顔。

 

そりゃ楽しいですよね。

男って単純です。

(でも気持ちは良く分かる)

 

更に好きだけ銃をぶっ放せば相手は負けてくれるし、銀行強盗しても捕まらないし。

 

デロス、万歳!

僕も行きたい

 

舞台(デロス)の説明って、他の映画だとナレーションでやっちゃって、説明臭くなったりすることが多いじゃないですか。

でもこの映画では、友人が傷心の主人公に、いろいろとデロスの面白さを無理やりに「体験」させて、気持ちを盛り上げようとするのを見せることで、映画を見ている僕らにもデロスの面白さをサラリと疑似体験させてるんです。

上手いなぁ。

 

二人が「ウェストワールド」を楽しんでいる間、バックヤード(ロボットのメンテナンスや管理)の描写もちょこちょこ出てきます。

ロボットを管理したり、修理したり、夜中に決斗で倒れた(死んだ?)ロボットを手際よく回収したりと、裏方がプロフェッショナルとして、しっかりテーマパークを運営している様が描かれます。

どんなにリアルでも「デロス」は、所詮、人間が作ったテーマパークであることを見ている側に忘れないようにさせます。

つまり人が危険にならない完全に管理された安全な場所、人工の楽園であることを印象付けてるんですが、これは物語の後半にとって大切な布石です。

 

中盤ではデロスの世界に没入して、満喫する主人公たちと、反対に裏方で何か異変が起きてる?という危機の芽がコントラスト的に描かれ、後半への不安を煽ります。

 

そしてロボットの蛇が友人を咬むという些細な事故から、物語は急加速で暗転。

 

そして遂に中二病の夢が詰まったデロスのロボットたちが、客(人間)を襲い始めます。

 

彼らが二回倒している悪役ガンマンロボットが、再び決斗を挑んできて、友人が「また楽勝だよ」って感じで勝負するんですが、今度は自分が撃たれて、死にます。

そして、その悪役ガンマンロボットが主人公を執拗に追ってきます。

 

正直、ここからは普通のアクション映画。

でも、前半が完璧な人工の楽園を描いてた分、一挙に地獄に転落する様は盛り上がります。

人って完璧なものが壊れていくのに、エクスタシーを感じるっていいますよね。

それと同じかもしれません。

 

アクションシーンはクライマックスまで小細工なしのストレートな作りで、最後は潔くジ・エンド。

 

さて、この映画のポスターを見ても分かる通り、この映画のアイコンは、後半で主人公を追い詰める悪役ガンマンロボット。

演じるのは名優ユル・ブリンナー

また彼の服装が泣かせるんですよ。

名作「荒野の7人」(1960制作/1961公開)で彼が演じた主人公と全く同じ服装。

 

「荒野の七人」は、かの黒澤明さんの超名作「七人の侍」(1954)を西部劇でリメイクした大ヒットした作品。

その主人公は当時は誰もが知ってる(正義の)キャラなんです。

それをそのまま悪役に転用するアイディアがいいですね。

 

また名のある俳優が無敵の悪役ロボットを演じるのは、「ターミネーター」(1984制作/1985公開)の先駆けと言えます。

 

妙なひねりも、説教も、説教臭い文明批判もない、良く出来の純粋なSF娯楽作品でした。

 

最初にも書きましたが、この映画の上手いところは、無駄な説明を一切しないこと。

完璧な近未来テーマパークの面白さと、ロボットたちの襲撃にすべての焦点が合わせてあります。

 

例えば主人公は奥さんに逃げられたみたいだけど、原因は何だったのか?

ロボットが一斉に異変を起こした原因は何か?

と、いった他の映画だと説明したくなっちゃうようなことを説明しません。

はっきり言えば、「分かったところで、話の幹の部分に影響がないものは説明しない」というスタンス。

 

だって実際の事故や災害って、起こっている時は分からないことだらけ。

そういう意味でリアルです。

 

ネタとしては今も新鮮なのか、2016年からTVシリーズが始まり、シーズン4まで作られました。TV版はサブスクで見られるようです。

 

こんな秀作なのに、続編の「未来世界」ときたら・・・と、「未来世界」のレビューはまた別の機会に掲載します。

 

「ウエストワールド」のDVD、Blu-ray共にお手軽な値段で手に入るようです。