「コーマ」(1978)
これも子供の頃に雑誌スクリーンでポスターを見て以来、気になってた作品。
だって天井から吊るされた人たちが並ぶ薄暗い部屋なんですよ。
(下に貼ったポスター参照)
ワクワクするじゃないですか。
きっとかっこいい近未来SFだって思うじゃないですか。
そんな長年夢見てた(?)映画を観る機会が出来たのでレビューします。
(あらすじ)
ボストンの大病院に勤める主人公は、親友が簡単な手術中に原因不明の昏睡状態(コーマ)になったことを知る。納得のいかない主人公が周りの制止も聞き入れずに、調べまわると不自然な昏睡状態から植物人間になってしまう事例が定期的に発生していることを知る・・・
最初に懺悔します。
ごめんなさい、当時の僕はポスター「しか」見てませんでした。
どんな話かノーチェック。
そして今回もノーチェックで見たんです。
あ、SFじゃない。
これ、医療スリラーだったんだ。
見たいって言ってたくせにこれかよ、ですね。
恥ずかしいです。
だが、しかし、映画としてはなかなか面白かったです。
言い訳じゃなくて、本当に。
臓器売買を目的に、病院が若くて健康的な患者を手術中の事故に見せかけてにコーマ=昏睡状態=植物人間にし、専門の研究施設に送って臓器を取り出して売買してる、って話は、今でこそ斬新ではないですが、この映画が公開された時はすごく先鋭的だったんじゃないか、と思います。
サスペンスとしては王道過ぎる展開やキャラ設定ですが、筋立てがサスペンスとして飽きない作りになっています。
それを真面目にキチンと作ってます。
そのお陰で設定や筋立てが素材が損なわれてません。
変に凝ったことをするより、素材を生かすことに集中した良い例です。
監督と脚本を担当したのはマイケル・クライトン。
SF映画の佳作「ウェストワールド」(1973)の監督や「ツイスター」(1996)の脚本でも有名ですが、何よりも小説家として、「アンドロメダ・・・」(1971)、「ジュラシックパーク」(1993)、「ライジングサン」(1993)の原作者でもあるんですね。
この映画の原作はベストセラーの小説とは言え、きちんとそれを面白い作品に仕上げたのは彼の「話を語る上手さ」のお陰なんじゃないでしょうか。
親友の身に起きた事件から、ゆっくりと大きな陰謀に近づいてく主人公を演じるのは
ジュヌビエール・ビジョルド。
この頃、日本でも人気があった女優さん。
確かに日本人好みの、ちょっと華奢で可愛い感じです。
でもね、この映画ではキツいキャラなんですよ。
性格がとってもキツい。
絶対に嫁さんにしたら、しんどくなりそうなキャラ。
彼女の恋人を演じるのは、スターになる前の、若き日のマイケル・ダグラス。
そんな彼に対して冒頭から優しさゼロの塩対応。
マイケル・ダグラス、可哀想。
彼女の親友が、簡単なはずの手術中に植物人間になったことで、謎を探っていくんですが、これがかなり強引。
巻き込まれた人はみんな大変です。
ついつい「おいおい」って言いたくなるのは、僕がサラリーマン歴が長くなっちゃったからでしょうか。
それでも後半になると、彼女が物語をグイグイ引っ張っていくので、応援しちゃうんですが。
クライマックスはそんな勝ち気な彼女が罠にハマって、無理矢理手術をされてしまうんです。
このままだと、親友と同じ昏睡状態にされて、闇に葬られちゃう!
彼女が盛られた薬で朦朧となって手術室に運ばれていくと、こりゃヤベーとなり、俄然緊迫します。
この勝ち気なキャラだった主人公がピンチになるクライマックスは盛り上がります。
そして更に話に仕掛けがあるんです。
ずっと「病院だって組織だから、ちゃんと上手に立ち回らない。オレ、出世したいし」っていう恋人と主人公はしょっちゅう喧嘩してるんです。(勿論、彼女がすぐキレることが原因)
中盤では出世のために彼が主人公を病院側に売ってるのでは?っていう描写も。
まぁ、気持ちは分からでもないですけど(笑)
それが最後の最後でマイケル・ダグラスはやっぱり正義の味方だった、って分かるのは爽快でした。
贅沢を言えば、ちょっとご都合主義的な終わり方でもあるので、「チャイナシンドローム」(1979)のような、70年代娯楽作に多い、一般人の無力感を感じさせるアンハッピーエンドでもアリだったかな、と思います。
リチャード・ウィドマークはこの頃、「合衆国最後の日」(1977)、「ジェットローラーコースター」(1977)、「スウォーム」(1978)といった、僕が好きな(B級)娯楽作に出てました。
存在感のある演技で、作品の引き締め役ってこところでしょうか。
この映画では病院の外科部長を演じてましたが、黒幕は彼ぐらい存在感がないと映画って引き締まりませんね。
やはり絵柄的に印象に残るのは、昏睡患者をコンピューターを管理する研究所のシーン。
無機質で、未来っぽく、殺伐感が強調されて、非人間的な雰囲気が上手く出ていました。
やっぱり天井から患者を吊ってるシーンはSFですよね。
当時は臓器売買や臓器工場って斬新だったことを考えると、やっぱり近未来的=SFっていう僕の思い込みも間違いじゃなかったですよね?(苦)
死体とか、手術のシーンでは、意外に直接的に見せるのでグロいです。
また臓器販売の営業をするシーンは、「今、注文しないとなくなっちゃいますよ」とか「また臓器の買値が上がってきてるぞ」と言った、ガチ営業っぽい描写が、ちょっと笑えました。
今見ると、目新しさしないけど、弛みのない、良質なサスペンスなので、娯楽作好きなら見ても損のない映画だと思います。
DVDはお手軽な値段で手に入ります。