パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【ダラスの熱い日】ケネディ暗殺陰謀論の正当な映画化だけど、何か足りない

子供の頃からケネディ大統領の暗殺は、オズワルドの単独犯ではなく、巨大な反ケネディ派による組織暗殺だった、っていう話はありました。

今でもいろんな人がオズワルド単独犯説には懐疑的で、オリバー・ストーン監督も「JFK」(1991)という映画で単独犯説に疑問を呈してました。

そんなケネディ大統領暗殺を組織的暗殺として取り扱った硬派なドラマが「ダラスの熱い日」(1973制作/1974日本公開)。

タイトルがカッコイイですね。

 

子供の時って陰謀論って大好きじゃないですか。

だから家にあったこの映画のパンフレットを見て、ずーっと気になる映画でした。

そして遂に見ることが出来ました!

 

(あらすじ)

ケネディ大統領の政策がアメリカに危機を招くと危惧する元CIA高官は、石油王などケネディ排除に賛同する実力者たちを集め、ケネディ暗殺を画策する。プロの狙撃手を雇う傍ら、暗殺を政治的狂信者による単独犯行に見せかけるために、リー・ハーヴェイ・オズワルドが容疑者として逮捕されるように仕立てていく・・・


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脚本は反骨の名脚本家ダルトン・トランボ

この人、赤狩りと呼ばれる反共産主義の嵐の中、議会証言を拒否し、ハリウッドを追放された経歴の持ち主。

しかし追放されてる間も、偽名で活動を続け、ロバート・リッチ名義で脚本を書いた「黒い牡牛(1956)」でアカデミー原案賞を獲得しちゃう、凄い人なんです。

 

陰謀を先導する元CIA高官を演じるのはバート・ランカスター

派手さはないものの、身内であろうとケネディ暗殺の障害となる人間は容赦なく排除していく冷徹な主人公を、観客の期待通りに演じています。

 

彼は「ドクター・モローの島」(1977)や「バイオレント・サタデー」(1983)という、とってもB級な娯楽作で悪役を演じてますが、ビスコンティ監督の重厚な文芸作「山猫」(1963)やアルドリッチ監督の硬派な政治サスペンスの佳作「合衆国最後の日」(1977)といった作品の主役もこなせる万能の人です。

 

pagutaro-yokohama55.hatenablog.com

 

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その他の主要キャラには渋めの俳優を揃えたり、ヒロイン的な女性を一切登場させない(というか、ほんとんど女性が登場しない)などドキュメンタリータッチを強く意識したと思えるキャスティングです。

 

こういう硬派なキャスティングは、玄人系の映画ファンに好まれるんじゃないんでしょうか。

ダラスの熱い日_パンフレット表紙



有力者たちが政府内の反ケネディ勢力を利用します。

雇われたプロのスナイパー達は、何度も暗殺の訓練を繰り返し、精度を上げていきます。

組織的犯罪だと分からないように、目を付けたオズワルドを単独犯として逮捕されるように仕立ていきます。

ざっくり言えばそんな暗殺の準備をしていく話です。

 

ハイライトは荒野で櫓を組んで、三人の狙撃手が移動する車に乗ったダミーの人形を狙撃しながら、暗殺の手順の修正をしていくところでしょうか。

ここはミッションを粛々と進めていく感じがあって良かったですね。

 

反対にオズワルドのそっくりさんに、反政府や反ケネディ的な行動をさせて、犯行後にいろんな人に「オズワルドはケネディアメリカ政府を嫌っていた。彼なら暗殺をやりかねない」と証言させる下準備をするところも面白いんですが、そっくりさんの行動があまりに大袈裟過ぎて、リアリティがないのがいただけませんでした。

 

最後のケネディの暗殺~逮捕されたオズワルドがジャック・ルビーに殺害されるところをあっさりです。

クレジットでは、不自然な数の証人たちが短い間に亡くなってる、と語られます。

 

ほら、やっぱり組織犯罪でしょ?と仄めかす終わり方は嫌いじゃありません。

 

上映時間は1時間半と短めということもあって、飽きることはありません。

組織犯罪の怖や冷酷さも良く描けてます。

 

でも全体的に食い足りない出来。

面白かったかと言えば「かなりビミョー」。

全体的に淡々とした作りが気になります。

これは作為的な盛り上がりを作ることのない、ドキュメンタリータッチを意識したせいかもしれません。

 

そして何よりも話に起伏がないんです。

この手のスリラーって、バレそうになるとか、止めようとする側との追いつ追われつが話を盛り上げるじゃないですか。

有名なところだと「ジャッカルの日」(1973)の、追い詰めようとするルペル警視と巧妙に逃れていく暗殺者ジャッカルの「直接対決しないけど、ドキドキさせる」展開ですね。

残念ながら、この映画にはそういう緊迫感は全くありません。

だって優秀な主人公が、完璧な計画を立て、それを完璧に準備を進めてくんですから、ヘマなんてありません。

 

そしてラストは作戦が成功することを誰もが知ってるわけですから、意外性が全くないんですよ

 

そもそも冒頭にも書きましたが「ケネディ暗殺は反共産主義の保守層の陰謀!」っていう話は、昔から有名な都市伝説ですよね。

TVの「歴史裏話」系の番組で何度も取り上げられてそうなレベルです。

 

だから僕的には、この映画は「巷の一番有名な噂話を、正当に作ってみました」という印象かな。

 

まぁ、当時はこの陰謀説自体が、世間に広まってなくて新鮮だったのかもしれませんが。

もしそうなら、当時は今とは全然印象が違うんでしょうね。

 

そんな「見るタイミング」の問題を考慮しても、やっぱり起伏の少ない展開は期待以下です。

 

この映画がダルトン・トランボの最後の仕事でした。

最後までダレない作りはさすがだと思わせますが、中途半端感はぬぐえず、最後の余力でやった仕事感があります。

全盛期にこの映画の脚本を書いてたら、どんな作品になってたんでしょう?

 

残念ながら現在はDVD、Blu-ray共に新品では入手困難なようです。