「ゴルゴ13」って僕の世代のマンガ好きなら一度は通ってるんじゃないんでしょうか。
うちも兄が集めていて、中高校生の頃によく読んでました。
ちょっとエッチな場面もあったし。
昭和な喫茶店や食堂に置いてあることも多かったですね。(今でも時折見かける)
調べたら1968年連載開始ですから、かれこれ55年やってるんですね。すげー。
そんな大ベストセラーマンガですが、僕の記憶している限り実写化は2回しかされていません。
最初の映画化が今回見た「ゴルゴ13」(1973)。
なんと主演はあの高倉健さん!!!
見た目だけでなく、無口キャラはデューク東郷のイメージにピッタリ。
「自分、不器用ですから」
そこは違いますね。デューク東郷は万能の人ですから。
さて、どんな映画になってたんでしょうか?!
(あらすじ)
某秘密警察の依頼で、イランに潜伏している犯罪組織のボスの暗殺を依頼された超敏腕スナイパー、ゴルゴ13。素性の分からないボスを探し、テヘランに渡るゴルゴ13だったが、イラン警察と犯罪組織の両方から追われることになる・・・
イランの映画会社と東映の共同製作。
そのため、舞台はイランです。
出演者も健さんを除いて、全員イランの俳優さん。
珍しいですよね。
まぁ、ゴルゴ13自体が無国籍マンガなので、無理して日本人を出すよりいいです。
冒頭、イラン人俳優同士の会話から始まるんですが、この会話が字幕じゃなくて、全員吹き替え!
これ、最後までずーっと続くんです。
勿論、健さんとイラン人の登場人物のやり取りも日本語。
そう言えば、昭和の時代はこういう吹き替えが当たり前でしたね~。
昭和感全開。
ちなみにイラン人の刑事を吹き替えているのは、故山田康夫さん。
ルパンか、ダーティーハリーか?って感じです。
健さんは、ほぼ完ぺきにデューク東郷を再現しています。
立ち居振る舞いもほぼマンガのイメージ通り。
有名な「俺の後ろに立つな」「握手はしない」も再現されてます。
本人もノリノリで演じてたとか。
こんな大物俳優がこの役を引き受けてくれたなんて奇跡です。
(原作者のさいとうたかおが映画化を諦めさせるために出した条件が「主演は高倉健さん」だったそうです)
しかし出来は残念ながら65点。
マンガの映画化で、ここまでナチュラル主役のキャスティングに恵まれることなんてないのに、勿体です。
とにかく話がイマイチ締まりがない上に、凡庸。
これが敗因。
「ゴルゴ13」と言えば、その時々の政治、経済などの時事を反映させる、ち密でリアルなプロットが売り。
なのに、この映画では世界的犯罪組織のボスを暗殺するという、とっても、とってもありきたりの話。
オールイランロケなのに、イランらしい話運びがないんです。
この話じゃ、イランでも日本でも、どこでも変わらないですよね。
マンガのゴルゴ13なら、絶対にイランの宗教か政治絡みのネタを持ってきたハズです。
まぁ、反対にそんなイランの問題点をつくような脚本なら当時のイラン政府(革命前の王政)が許可しなかったかもしれませんね。
わざわざゴルゴ13じゃなくいても良くない? そんな話。
ただ無国籍を表現するために、イランを舞台に、イラン人俳優と一緒にやっただけなのは勿体ないです。
健さんが情報屋を使って探るなど、依頼主の某国秘密警察の力を借りずに謎のボスに迫る大筋自体は悪くないと思います。
ただ要所要所の展開がありきたり過ぎ。
昭和のプログラムピクチャーによくある「ええーーー?!?」っていう、B級マニアの心をくすぐるようなモノもなければ、大作にある「なるほど~」と唸らせる要素もありません。
要はこの映画が「プログラムピクチャーなのか、それとも大型娯楽大作なのか」が分かり難い立ち位置にあったからかもしれません。
ヒット娯楽劇画の映画化と言えば基本は「プログラムピクチャー」なんですが、高倉健さん主演&オール海外ロケ言えば大作です。
脚本をどっち寄りで書けばいいのか分からないまま、中途半端になった気がします。
謎の犯罪組織が次々と美女を誘拐し、そこに現地の刑事が絡んでくるエピソードになんて取ってつけたような感じで、邪魔だし。
さて、標的のボスは用心深い男で、いつも影武者を何人も立てているんです。
戸外でお茶をする時は複数の影武者と一緒にテーブルを囲むという「誰がホンモノか分からないでしょう作戦」をしています。
小学生が考えたみたいな作戦?
だったら建物の中でお茶しようよ。
でも実はここが意外とゴルゴ13っぽい展開になるんです。
健さんもどれがホンモノのボスだか分からない。
そこで健さんは、彼が溺愛している小鳥のカゴを撃つんです。
カゴから逃げ出した小鳥は一人の男の肩の掴まります。
そいつがボスだ!!!
マンガの「ゴルゴ13」なら、ここでボスをビシっと撃って任務完了。
依頼主が「小鳥とはな・・・」とつぶやいて、ゴルゴ13のファイルを焼却して終了となる筈です・・・が、この映画ではそこを敵に阻まれます。
なんたって健さん、丸見えの塔の上にいますからねぇ。
すったもんだあって、今度は敵が潜伏している遺跡まで追いかける健さん。
健さんを密かに慕っている依頼主の秘密警察の女性捜査官が人質として捕まってます。
「出てこい、ゴォルゴォ!!!じゃないと、こいつをブっ殺すぞ。大人しく出てくるか、この女が殺されるか、どっちかだぁ~」
ここで僕はドキドキしました。
だって健さんの売りは「朴訥で人情深いキャラ」。
ここ「分かった。その女を放してくれ」って武器を捨てたら、健さんっぽいですが、ゴルゴ13ではありません。
このまま健さんが健さんらしく振舞うのか、それともゴルゴ13を演じ切るのか。
ドキドキ。
健さんは出てこず、殺される女性捜査官。
ここは自分芸風を封殺し、非情な殺し屋を演じてくれました。
ゴルゴ13っぽくて良かったです。
その後は荒野を徒歩で渡り、ボロボロの恰好になりながらも油断しているボスを狙撃して終了。
健さんは頑張ってましたが、全体的にゴルゴ13の売りである機械のようなスマートさが足りなかったですね。
ゴルゴ13と言えば用意周到、沈着冷静のスナイパーです。
誰もが無理だと思うな難易度の高い狙撃をやってのける男。
でもこの映画では射撃の上手い殺し屋っぽいです。
そこはちゃんとして欲しかったですね。
これは僕が、この映画が作られた頃のゴルゴ13の愛読者だったから、こういう感想を持ったことは否めません。
でも、それを差し引いても良くできた娯楽作というレベルにはないと思います。
繰り返しになりましが、かと言ってB級ファンが喜ぶようなネタもありません。
ちょっと残念な映画、そんな評価です。
未見だけど、ゴルゴ13実写映画化第二弾「ゴルゴ13 九竜の首」(1977)でデューク東郷を演じるのは千葉真一さん。
熱い男の代表格である千葉さんって、ちょっとゴルゴ13とは違うなぁと思ってたんです。
でも予告編を見ると太い眉毛など意外に再現性が高く、超B級娯楽作として面白そうでした。
ちょっと気になるので、いつか見たいです。
健さんのゴルゴ13は、DVDでそこそこの値段で手に入ります。