パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

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【バイオレント・サタデー】昔よりは理解したけど、やっぱり???となるペキンパーの遺作

サム・ペキンパー監督の遺作「バイオレント・サタデー」(1983制作/1984日本公開)

初公開時は、柳ヶ瀬のロイヤル劇場で見たと思うんだけど、併映が何だったかまで覚えてません。

 

とにかく話がチンプンカンプン

 

スパイ物っぽいんだけど、さっぱり分かりませんでした。

今回、話を理解することを重点に見てみたいと思います。

 

(あらすじ)

有名なニュースキャスターである主人公は、妻を殺されたCIAエージェントから、3人の友人がKGBのスパイだと知らされる。彼らが属する謎の組織オメガを追うためにm主人公は週末のパーティーを利用し、そのうち一人をアメリカ側に寝返らせる作戦に参加させられることになるのだが・・・

 


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原作は「ジェイソン・ボーン」シリーズのロバート・ラドラムだったんですね。

きっと筋立て自体は面白いんでしょう。

さすがに今回は、初めて見た時よりは理解出来た気がします。

 

それでも、やっぱり理解度は・・・・

 

60点かなぁ。

 

正直、腑に落ちないところだらけ

 

妻を殺された元CIAのスパイが、CIA長官に復讐をする、という筋立ては分かりました。

だってセリフで説明してたから。

でもね、なんでそのために、主人公に全くスパイ活動と無関係の友人たち人たちを「スパイと思い込むように」仕向けなきゃいけないのが謎。

そんな回りくどいことをする理由が、最後まで分かりません。

 

バイオレント・サタデー パンフレット表紙

結局、人気キャスターの主人公に、ニュース番組でCIA長官が自分の妻を殺したことを暴露させたかったみたいですが、だったら単純に主人公の家族を人質に取って脅せばいいだけ。

実際、ラストはそうしてるし。

だったら友達を巻き込んだ大騒動は何だったんでしょう?

 

CIA自体を騙したつもりなんでしょうけど、当のCIAは「変なエージェントの、とんちかんな作戦を承認しちゃったよー」程度。

こいつに一杯食われた!って感じはゼロです。

やっぱり、この作戦の意味はないんでは?

 

多分、原作はそれなりに手の込んだ話なんじゃないかと推測されます。

きっとこの作戦の意味もしっかり書き込まれてたんじゃないでしょうか。

でも脚本は、原作のダイジェストにもならないぐらい刈り込みすぎちゃったっぽいです

結局、この作戦で一番困ったり、犠牲になったのはCIAではなく、主人公とスパイ活動と何も関係のない友達夫婦たち。

何のために殺されたかも不明。

というか、そもそも謎の組織<オメガ>って何?です。

多分、主人公の友達たちが脱税のためのスイス銀行へのルートのことのようで、エージェントはそれをCIAに「ソ連のスパイ組織のコーネーム」だと信じ込ませた、ってことらしいです(私の推測)

<オメガ>の名前を見て、アタフタしてるのは、CIAではなく、脱税してる友達連中。

そりゃそうですよ、脱税で告発されるかも?って心配ですもんね。

 

そんな感じで、スパイ的な話と、エージェントの仕掛けた罠が繋がりません。

 

ラストのCIA長官を追い込みつつ、家族を救出する展開はなかなか良いかったですが、それ以外の部分は脚本家に大いに反省してもらいたかったです。

 

この映画でもう一つ注目するのは、サム・ペキンパーが得意とするアクションシーン。

スローモーションを多用した、バイオレンスの美学って奴ですね。

これについては、サム・ペキンパーの前作「コンボイ」(1978)よりは良かったですね。

やっぱり能天気な映画より、こういう殺伐感のある映画の方が彼の殺戮描写は冴えます。

 

pagutaro-yokohama55.hatenablog.com

 

脚本はグダグダでしたが、出ている役者さんはそれなりに良かったですね。

主演は「ブレードランナー」(1982)のレプリンカント、ロイ・バッディでSF小僧の胸に刻まれたルトガー・ハウアー

知的で、且つ行動力のあるイケメンキャスターの役が似合ってました。アクションシーンも悪くないです。

この映画の主役としては合格点。

 

でも一番存在感があったのは、妻を殺されたCIAエージェントを演じたジョン・ハート

この人もSFファンの間では「エイリアン」(1979)で、最初にエイリアンの犠牲になる(胸からエリアンが飛び出てくる)ケイン役が有名。あと「エレファント・マン」(1980)の主人公ジョン・メリックでも有名。

感情を表に出さずに、余裕のある淡々とした態度で作戦(復讐)を行っていく様が不気味な存在感を出してました。

冷酷な態度だけでなく、主人公と台所のモニターで話していたところに、友人たちが現れたのに画面が消せず、急遽アドリブで天気予報を始めるシーン等、人間味も垣間見せてくれます。

彼のお陰で、この映画は随分と引き締まっていたと思います。

 

反対にちょっとがっかりしたのは、友人の一人を演じたデニス・ホッパー

彼には圧倒的な存在感のあるキレた演技を期待しちゃうんですよ。

個人的には「ブルーベルベット」(1986)の、酸素吸入器を手にして「ママ~、ママ~」って叫びながら女性に暴力を振るう男が最高。

ここでは(小心者の)医者という、とっても似つかわしくない役を、これまた小器用に演じてます。

うーん、デニス・ホッパーはこれじゃないんだなぁ。

これだったらデニス・ホッパーがやる意味ないよな~。

 

あ、名優バート・ランカスターがCIA長官の役で出てますが、まぁ、典型的な大物俳優の扱いでした。

元々、悪役から、ルキノ・ビスコンティの文芸作まで、超幅広い演技の出来る人なので、権力を求めるCIA長官の役なんて、お茶の子さいさいって感じでした。

 

ちなみに原題は「オスターマンの週末」

主人公と友人たちの週末の集まりを、友人の一人「オスターマン」から名前を取って「オスターマンの会」となっているところからきてます。

それが「バイオレント・サタデー」っていう邦題になるって凄いです。

確かに「オスターマンズ・ウィークエンド」じゃワケ分からないですから、バイオレンスの帝王と言われたサム・ペキンパー監督作品であるってことと、週末=土曜日だから、このタイトルになったんでしょうね。

これだったら、観客もちょっとサスペンスを期待するし、丸々嘘ではないので、ある意味ナイスなネーミングかもしれません。

ただバイオレントになるのは、ラストだけなんですけどね(笑)

 

ちなみに海外版のポスターは主人公の奥さんがボーガンを構えているシーンです。

バイオレント・サタデー_海外ポスター

奥さんが終盤でボーガンで反撃するシーンがあるので、嘘ではないです。

でも映画の本質を全く表していません。

映画会社も、この映画の試写を見て、どうやって売るか悩んだ結果、いかにもアクションっぽい、ダークな雰囲気のポスターにしたのかもしれませんね。

 

この映画はサム・ペキンパー監督の遺作。

例え内容が散々であったとしても、前作の陽気なノリの「コンボイ」が遺作じゃなくて、スパイ・サスペンス映画の本作が遺作だったのは、映画ファンとしてちょっとホっとすることろがあります。

 

そう言えば、ペキンパー監督だけじゃなくて、出演したジョン・ハートも、デニス・ホッパーも、ルトガー・ハウアーももう亡くなってます。(勿論、バート・ランカスターも)

 

それだけ時間が経ってるんですね・・・

 

この映画、DVD、Blu-rayともに入手困難なようです。