日本の代表的カルト映画の一つ、「爆裂都市 BURST CITY」(1982)。
日本のカルト映画ファンなら、マストアイテムの一つじゃないでしょうか。
僕も学生の時に初めて見てから、今回で三回目か四回目ですが、見る度に良さ(?)が分かってきました。
そんな伝説のカルト映画をレビューします!
(あらすじ)
架空の都市にあるスラム街。そこでは連夜、暴走族がタイマンのレースを行い、ライブハウスでは、バトルロッカーズとマッドスターリンというバンドが人気を二分していた。その街にサイドカーに乗った謎の兄弟がやってきた。タイマンレースで、バトルロッカーズの運転する車を抜き去った二人は、スラム街のリーダーに面倒を見ることになる。
やがてスラム街に原発を建設することになり、暴力団や政治家が入り込み、スラム街の住人を建設労働者と雇うことになるが、それはスラム街を一掃し、建設用地を確保するための罠だった・・・
この映画を初めて見たのは、大井町にある大井武蔵野館という名画座だったと思います。
この前レビューした「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」(1969)を定期上映してたような映画館なので、昭和時代に神奈川、東京にいたマニアックな映画ファンには思い出深い映画館の一つじゃないでしょうか?
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
見たのは多分、1985年ぐらいだと思うんですが、既に「カルトの名作」という評判が確立されてました。
(だからこそ、大井武蔵館で上映してたんでしょうけど)
その時の同時上映は、同じ石井聰亙監督の、やはり伝説的なカルト映画「狂い咲きサンダーロード」(1980)。
鉄板の組み合わせですね。
曖昧な記憶では、手塚真監督の「星くず兄弟の伝説」(1985)も一緒に見たような気もするんですが、さすがに記憶違いな気がします。
(「星くず兄弟の伝説」を大井武蔵野韓で見たのは間違いありません)
冒頭で「見る度に良さが分かってきた」と書きました。
嘘じゃないんですよ。
でも本音を言うと「初めて見たときは何がいいのかさっぱり分からなかった」んです。
名作と言われる意味が全く理解できなかったんです。
でも、回を重ねる毎に、話の構造とか、途方もないパワーとか、劇場映画の方程式に当てはまらない、自主映画的な凄さに溢れてることに気づくようになりました。
そもそも関東の大学に来るまで、映画=劇場映画で、自主映画に触れる機会なんてゼロ。
厳しい予算や制約の中で、オリジナリティを追求する自主映画的価値観なんて知りもしませんでした。
自主映画の魅力に無縁の世界で生きて来たんです。
そんな自主映画の世界を初めて垣間見たのは、大学の映画研究会に入った時です。
同期には、関東の高校出身で、既に自主映画を何本も作ってるだけじゃなく、ぴあフィルムフェスティバルでブイブイ言わしてたヤツが何人もいたんです。
同期で顔合わせの時に「お、審査員特別賞取った、○○君だよね」「君こそ、××って作品ですげー絵作りしてた撮影監督の△△じゃん」みたいな会話が・・・
大学に入ってから、映画の世界に入ればいいや、と思ってた僕は、とてもショックでした。既に高校生からどっぷり映画作りをしてる人たちがこんなに身近にいるなんて・・・
ホント、「都会は違う」、「自分は自主映画のことを何も知らなかった」んですね。
自主映画なんて、プロの映画の世界への準備期間だと思ってたのは間違いでした。
僕はその時点で何歩も遅れてることを痛感しました。
更に凄いことに、映研には、制作費を出してくれるスポンサー(お医者さんだったという噂)がいる先輩もいました。この人は、後にプロの有名監督になったので、スポンサーの見る目があったってことでしょうね。
結局、僕は途中で辞めて、バンド活動に行っちゃったんですけど・・・
ちょい思い出話に逸れちゃいました。
この映画、正直言えば、ショボいところがいっぱいです。
寧ろ「雑なんじゃね?やろうと思えばもっと丁寧に出来るよね?」と思えるところも結構あります。
絵的な優美さとか、美しさとか皆無ですし、洗練された音楽も流れません。
架空のスラム街で、ヤクザ、政治家、街に巣食う下層の人々と、そこで若さを爆発させるロックバンドとストリートレーサーたち。
正直、話はあってないようなものだと思います。スラム街に原発を作ろうとする政治家と、それで甘い汁を吸おうとするヤクザ。
ヤクザは住民を原発工事に利用しようとしたり、武装警察は生意気なロックバンドを目の敵にします。
こう書くと、いくつものストーリーが絡み合う、グランドホテル式の重曹的な話に聞こえますが、残念ながらそんな凝った作りではありません。
設定は中二病的なものが多いし、話は結構、淡白で、深みやどんでん返しみたいなものはなし。
要は話なんて画面にパワーを注ぎ込むだけの装置なんじゃないでしょうか。
そんな雑さの中で、生で猥雑な「やってやろうじゃねーか」みたいなパワーだけが観客に伝わってくるんですよ。
抽象論じゃなくて、本当にそう感じるんです。
そういうところが、キング・オブ・自主映画なんでしょう。
とにかくスクリーンの上は、休む暇がないほど、ずっと一瞬即発と暴走の繰り返し。
こんなテンションを高く保つ映画はなかなかありません。
ストーリー、絵作り、役者の演技、演出といった映画の総合点では明らかに未完成品です。
でも製作者のハイテンションな映像を見せつけるという目的は100%達成されているという意味では完成品です。
好き嫌いがハッキリと分かれる映画だし、正直、僕も好きか嫌いか問われれば、自分が好きな映画ではありません。
でも忘れられずに、あのパワーにまた触れたくなる、そんな麻薬のような映画です。
麻薬のような映画でなく、映画のような麻薬なのかも。
この映画は<見る>、というよりは<体験する>ものかもしれません。
さて、自主映画的、といっても出演者は豪華です。
泉谷しげるさんや、麿赤児さん、上田馬之助さん、ミュージシャン時代の陣内孝則さん、日本パンクの代表格スターリンのメンバーが出ていますが、みなさん、自主映画のような、マイナーワールドに理解のある人たちばかりです。
主役は映画の中に登場する架空のロックバンド「バトルロッカーズ」のリードボーカル/リーダー。
(バンド名があまりにも中二病的。いや、今の中二病なら、恥ずかしくて付けないかも。これって意図的なんでしょうか?)
最近ではちょっとお笑いの入った人の好さそうなおじさんを演じる役者さんになってますが、当時は福岡出身のザ・ロッカーズというバンドのリードボーカルで、この映画が俳優デビュー作です。
さすがに演技はちょっと・・・って感じはしますが、役の雰囲気は十分に表現していました。
泉谷しげるさんのヤクザも似合ってましたね。
スターリンの皆さんは、噂に聞いてた通りなので、あれが地なんでしょうか?
バトルロッカーズが歌う主題歌「セルナンバー 8 (第8病棟)」もカルト的な人気を誇ります。
めっちゃカッコイイ曲です。
陣内孝則さんが55才の時(2012年)にライブで「セルナンバー8」を演奏している映像を見ましたが、観客の盛り上がりといい、かなり熱いものがあります。
きっとまた何年かしたら見ちゃうんだろうなぁ、と、今回も思いました。
その前に「狂い咲きサンダーロード」を見直したいです。
こちらは大井武蔵館で見たきりなので、是非近いうちに・・・
DVDは廉価版はないですが、そこそこの値段で購入することが出来ます。