パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【天国の日々】繊細な人間関係が描かれる、短くも美しい映画。

すごくいい映画だっていうのは、ずっと前なら知ってたけど、なんとなく避けてた、そんな映画の一本が天国の日々(1978製作/1983日本公開)。

 

寡作の名監督テレンス・マリックのデビュー作です。

特に彼の「シン・レッド・ライン」(1998)を見てから、この作品は気になってたんですが、メロドラマというイメージがあってなかなか手付かずでした。

 

しかし先日、名映画音楽家エンニオ・モリコーネのドキュメンタリー「モリコーネ、映画が恋した音楽家」(2021)に出てきたこの映画のワンシーンが印象的で、どうしても見たくなって、遂に見ました!

 

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(あらすじ)

20世紀初頭のアメリカ。農業の季節労働者として各地を渡り歩く主人公ビルと、恋人のアビー、そしてビルの妹リンダ。テキサスの農場に収穫の手伝い労働者としてやってきた3人。ビルは「家族という方が都合がいい」という理由で、アビーを妹だと偽る。

しかし病弱の農場主がアビーを見初め、収穫が終わる頃にアビーに求婚をする。農場主がこの先長くないと見込んだビルは、彼の財産を狙うためアビーを説得し、結婚させる。だが農場主はビルとアビーは兄妹ではなく、恋人同士ではないかと疑い始める・・・


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本当に見て良かったです。

メロドラマというほど、重くはなく、かと言って深みはしっかりあります。

シンプルなプロットを、凝った映像、必要最低限の登場人物、各人物像の掘り下げで飽きることなく見せてくれました。

上映時間は1時間半と短めですが、濃密な作品です。

 

語り部は、主人公の妹リンダ。彼女が回想する形でナレーションを入れてきます。

ちょっと「マッドマックス2」(1981)っぽいです。

(連想する映画が間違っている気もしますが)

 

主要登場人物は主人公のビル、その恋人アビー、若き農場主のチャック、語り部の妹リンダ。

 

無鉄砲だけど、複雑な内面を持つ主人公を、有名になる前の若きリチャード・ギアが好演してます。

というか、あまりにもピッタリ。

財産目的で恋人に偽りの結婚をさせたものの、ずる賢くなり切れず、恋人が農場主に揺れていくのに気づいて、静かに身を引く男がハマってました。

欲に取りつかれて、農場主を殺してしまわずに、欲を諦めて、自分から去っていくところがいいですね。

(でも、結果的には最後は殺しちゃうんですねど)

 

また若き農場主を演じたサム・シェパードがいいです。

僕にとってサム・シェパードは、有名な戯曲作家で、「パリ・テキサス」(1984)等の映画脚本家で、渋くてカッコイイ俳優なんです。

特に彼が「ライトスタッフ」(1983)で演じた、不屈のテストパイロット、チャック・イエーガーは最高です。

でも、ここでは純粋で繊細な農園主を演じてます。

こんな役もやってたんだ、それも自然に演じられるんだ、と新たな発見でした。

どうやらこの映画がスクリーンデビュー1~2本目だったみたいです。

 

しかし何よりもこの映画で気に入ったのは、二人の男性に愛されるヒロインを演じるブルック・アダムス

黒髪で、たれ目でアヒル口は、最初は「レイダース・失われた聖櫃」(1981)のカレン・アレンかと思いました。

正直、見た目はすごくかわいいわけではないんです。

でもその立ち居振る舞いが、とても魅力的なんです。

こりゃ、確かに二人が好きになるのも分かります。

(ついでに僕も)

最近までちょこちょこ映画やTVに出ているようですが、目立つような映画がないのが残念。

 

少人数劇の上、主演の3人の絶妙なキャスティングが、この映画の成功の50%は担ってると思いました。

 

話的にはちょっと重めな印象を持ちますが、話を繋いでいく一つ一つのエピソードが意外とあっさり終わっていくので、こってりとした重さはありません。

寧ろ、「もうちょっとひっぱってもいいかな?」と思うところもあるぐらいです。

でもその淡々としたところが、映画の叙情性を高めていた気がします。

 

しかし、その分、終盤のイナゴの大群が襲来するシーンは、かなり印象的なアクセントになってました。

まさにクライマックスという盛り上がりです。

イナゴを転換点に、それまでちょっとゆったりと、静かに進んでいた物語が、一気に畳み込むように終焉に向かう展開は上手いの一言。

 

見終わった後は、「いい映画を見た」という気持ちになりました。

 

ただし残念な点も。

それは今回の目的だった音楽。

実は音楽のないシーンが多く、意外とモリコーネの音楽は耳に残りませんでした。

 

余談ですけど、この映画と同じ頃にマイケル・チミノ監督が撮った大作「天国の門」(1980)があります。

「ディアハンター」(1978)で各映画賞を総なめした後、ノリの乗って作った超大作。

予算オーバーしなくりで、結果は惨敗。

制作会社は傾き、身売りせざるを得なくなりました。

ただ切ないBGMが印象的で、とても繊細な映画で、個人的にはとっても好きだったんです。

全く関係ないけど、その映画とこの「天国の日々」が何故か連想されちゃうんですよ。タイトルが似てることもあるんでしょうけど、同時期に作られた抒情性の高い映画ってことだからかもしれません・・・

 

天国の日々」のDVDはお手頃に入手出来ます。