その名前は、昭和時代の洋画ファンには映画音楽の大御所として記憶されてます。
そんなエンニオ・モリコーネのドキュメンタリー、「モリコーネ 映画が恋した音楽家」(2021製作/2023日本公開)が、先日公開されました。
昭和の映画で育った僕としては、これは見に行かなければいけません。
昭和の映画じゃないけど、昭和の映画関連ということでレビューを載せます。
(あらすじ)
ローマに生まれたエンニオ・モリコーネは、現代音楽家に師事するが、やがてTVや映画音楽の世界に身を投じていく。師や同窓の作曲家からは「映画の音楽なんかに自分を売った」と蔑まれるものの、彼は映画音楽家として邁進していく。そしてセルジオ・レオーネ監督との出会いにより、彼は世界的な映画音楽家となっていく・・・
この映画、やっている映画館が少ない上に、ほとんど1日1回上映。
どうやらミニシアター系の扱いっぽいです。
それでも一部のロードショウ系の映画館が上映してくれていて、僕も横浜駅にあるムービルという老舗映画館で観ました。
僕にとってエンニオ・モリコーネは、「綺麗なメロディを作る、めちゃくちゃ多作な人」。
もっと言えば、あんまり作品を選ばない人。
それぐらい、多くの映画で彼の名前を目にしました。
更にジャンルにもこだわりがなく、感動の文芸作から、ホラーやSF映画、軽いコメディまで何でもあり。
(晩年、文芸作の比率が高くなったのは、周りが映画音楽家の大家って見るようになったんで、そういう仕事ばかり持ち込まれたのかも)
でも、どれもが完成度が高いんです。
僕も学生の時に、彼が担当した映画のサントラを探して、よく聞いてました。
さすがに初期の名作「荒野の用心棒」(1964)や「続・夕陽のガンマン」(1966)は、いろんなところで聞き過ぎて、食傷気味でしたが(笑)
僕にとって思い出深いのは「遊星からの物体X」(1982)。
(僕の大好きな)B級映画の王様ジョン・カーペンター監督のSFホラー映画。
当時、エンニオ・モリコーネがこんな映画を担当するのか、と驚きました。
さすが、モリコーネだけあって、カーペンター監督の他の作品(基本、カーペンター監督が音楽も担当)にはない格調の高さでした。
何が凄いって、既に映画音楽の大家だったエンニオ・モリコーネの起用を思いつた人。
普通は結び付かないですよね。
ちなみに「遊星からの物体X」は、カーペンター監督の中で、最もスケール感があって、内容もしっかりしてました。
でも残念ながらこの映画の中では、「遊星からの物体X」は1ミリも触れられてませんでしたが。
(劇中の壁にポスターが貼られてたような気はします)
閑話休題。
さて、この映画の監督は「ニュー・シネマ・パラダイス」(1989)のジュゼッペ・トルナトーレ。
本編で「当時、監督作品が1本しかなかった僕のために、エンニオ・モリコーネが「ニュー・シネマ・パラダイス」を快く引き受けて、素晴らしい音楽をつけてくれた」と感動の面持ちで語っていました。
完全にエンニオ・モリコーネに心酔してます。
彼のモリコーネ愛が全面に出ちゃったのが、この映画です。
ドキュメンタリーと言いながら、冒頭からエンニオ・モリコーネが床に寝転がって体操をするシーンがいろんなアングルからアップで映ります。
正直、ドキュメンタリーっぽくない始まりです。
その後は当時のフィルムや代表作の場面と音楽を交えながら、彼の人生を追っていく展開は、とってもまともなドキュメンタリー。
ただ映画音楽家としては苦労は、「この映画にどんな音楽を付けたらいいんだろう?」と悩むところぐらい。キャリア自体は順風満帆です。
しかしドキュメンタリーとしては、「起伏」が必要なので、挫折と苦悩も描かれます。
前半は学生時代の師匠や同窓の現代音楽家との葛藤話。
現代音楽家の師や仲間から、「映画音楽になんか身をやつして」と格下に見られていたことが悩み。
最後は同窓の現代音楽家たちが「彼の作った映画音楽は凄い」と認めていったん決着。
後半はアカデミー作曲賞が取れないことが悩み(苦悩)として描かれます。
2000年までに6回ノミネートされて1度も取れず、2007年にアカデミー名誉賞を受賞。
(アカデミー名誉賞とか功労賞って、頑張ったけど取れなかった人のための残念賞みたいに思えるのは僕だけでしょうか)
これで終わりかと思ったら、やっと「ヘイトフル・エイト」(2015)でアカデミー作曲賞を受賞。
実はこの苦悩のところが予想外に面白かったです。
何故なら、アカデミー賞の候補になった有名な映画の名場面と音楽が次々と取り上げられたから。
その場面を見てるだけで、「あー、この映画見たい」と思わせてくれるんです。
その中で「アンタッチャブル」(1987)が取り上げられてるんですが、劇場初公開の時、つまり36年前に、まさにこの映画を見ているムービルの、それも同じスクリーンで、それも同じような席で見たんですよ。ちょっと感激しました。
そういえばアカデミー賞関連でちょっと感動したことが。
アカデミー名誉賞のプレゼンターを務めたのはクリント・イーストウッド。
「荒野の用心棒」と「続・夕陽のガンマン」の主演者が、その作曲者に名誉賞を渡すって粋な計らいです。
そしてアカデミー賞を受賞した時は、隣に座っていたのが重鎮ジョン・ウィリアムス。彼の受賞が発表されると、嬉しそうにおめでとうと言ってました。
ちなみにプレゼンターはクインシー・ジョーンズ。
この交友関係を見て、映画ファンは嬉しくなりますよね。
しかし穿った見方をすれば、前半の音楽的葛藤はまだしも、後半のアカデミー賞が欲しいというのは、ちょっと贅沢な悩みで、一般人からすれば挫折というレベルとは感じられないかも。
監督がなんとかドキュメンタリーとして盛り上げるための工夫でしょうが、ちょっとパンチは弱かったです。
クライマックスはいろいろな音楽関係者からの大賛辞大会。
映画関係のみならず、ブルース・スプリングスティーンやメタリカのジェームス・ヘッドフィールドまでコメントしてます。
これがモリコーネを持ち上げるコメントの連発。
とにかく長い。
監督のモリコーネ愛が爆発し過ぎです。
そこそこ長い映画(157分)なので、ラストは手際よくパッとまとめて、余韻を残すような終わり方が良かったんじゃないでしょうか。
ドキュメンタリーとしては60点ぐらい。
映画音楽に興味のない人には、ただ成功した音楽家の一生にしか見えないでしょう。
彼を知る映画ファンが感じるものの、半分も面白さを感じられないんじゃないでしょうか。
エンニオ・モリコーネを知る映画好き向けの映画としては80点。
この映画を見れば、エンニオ・モリコーネの代表作は大体網羅されているので、彼の仕事ぶりを知ることが出来ます。
個人的にはあの映画音楽も、と思うところもあるのですが、そんなこと言ったら5時間ぐらいになりそうなので我慢です。
ちなみに僕が好きな彼のマイナーな作品にジャン・ポール・ベルモント主演の「Le professionnel」(1981/日本未公開)があります。
ちょっとメロディが甘すぎますが、ヨーロッパ映画っぽいのがいいです。
見終わった後に、彼が音楽を担当した映画を見たくなりました。
特に「天国の日々」(1978)、「ミッション」(1986)、「1900年」(1976)、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(1984)といったアカデミー作曲賞候補になった映画だけじゃなく、「荒野の用心棒」や「続・夕陽のガンマン」もしっかりと見直してみたいです。
僕が彼の担当した映画を見たくなるというだけでも、この映画を見た価値があったのかもしれません。
最後にどうでもいいネタですが、エンニオ・モリコーネの幼少期の写真に、ドイツの珍しい洗車が映ってました。
ブルムベアという戦車で、学生の時にプラモデルを作った記憶があります。
映画を見ながら、一人で「おおお」となってました。
DVDはまだ公開されたばかり(今でもまだ上映している映画館があるようです)なので、発売されていません。