パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【ビリー・ザ・キッド/21才の生涯】本当の主役はビリー・ザ・キッドではない

 

男の美学とバイオレンス。

中二病ってそういうの好きですよね。

当然、僕も憧れました。

 

男の美学とバイオレンスにまみれた映画と言えば、サム・ペキンパー

 

だから僕の世代の男の子の映画ファンって、一度はサム・ペキンパーに憧れるんじゃないんでしょうか。

 

サム・ペキンパーとの出会いは、高校の英語教師(映画とアニメ好き)が、「ワイルド・バンチ(1969)っていう映画のラストシーンは凄いぞ!」って、放課後の視聴覚室でラストシーンのビデオを見せてくれたことでした。

(確かにスローモーションの殺戮シーンがかっこ良かった!)

 

そんなサム・ペキンパー監督の西部劇がビリー・ザ・キッド/21才の生涯」(1973)。

ビリー・ザ・キッドを演じるのは当時売れに売れてたクリス・クリストファーソン。彼を倒す保安官のパット・ギャレットにジェームズ・コバーン。めっちゃ見たいけど、当時はレンタルビデオもなく、見れませんでした。

遂にこの映画を観ることにしました!

 

(あらすじ)

有名な無法者の主人公、ビリー・ザ・キッドは、友人であり保安官でもあるパット・ギャレットに逮捕されるが、仲間の助けを借りて脱獄に成功する。

主人公は、昔の仲間を訪ねながら逃亡を続けるが、パット・ギャレットは非情さを増し、仲間を失いながらも彼を追い詰めていく・・・


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この映画、邦題は「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」になってますが、原題は「Pat Garrett and Billy the Kid」。

(日本ではビリー・ザ・キットだけ有名だから、こんな邦題になったんでしょう)

つまりこの映画の主人公はビリー・ザ・キッドと彼を追う保安官のパット・ギャレットの二人。

 

ビリーは指名手配の悪人なんですが、それを追うパット・ギャレットも善人じゃないんです。むしろ悪人。

 

ビリーもパットも法律やルールなんて関係なし。

二人とも「俺がルール」なんです。

 

ビリーは、1対1の決闘の時でさえ、ルールを守らないキャラ。正々堂々とか、公正なんてどこ吹く風です。

パット・ギャレットも、法を守る保安官なのに、ルールもくそもあるか、捕まえりゃいいんだろ?みたいな態度。そもそも牧場主が彼を保安官にしたのも、法の番人としてではなく、ビリーを倒すため。実際は殺し屋として雇われたも同然です。

 

パットは元々ビリーとは無法者仲間だったけこともあって、ビリーとも奇妙な友情があります。

それでもパットは映画が進むにつれて非情さを増して、ビリーを追っていきます。

そんな二人の刹那的な追いつ追われつが、日常描写や、いくつかのエピソードを挟みながら進みます。

 

ビリーが仲間や女たちと面白おかしくやってるのに対して、パットは常に非情です。

娼婦たちと遊ぶシーンもあるんですが、本当に遊んでるだけで、心の交流なんてありません。

だから、余計にパットの方が殺伐さを感じさせます。

 

そして、ラストは大決闘!ではなく、夜中に恋人の家にいるビリーをパットが撃って終わり。

それもパットを見たビリーが、「やぁ、パット」って雰囲気になったところを無言で射っちゃうんですね。

ただ、その直後、パットは鏡に映った自分の姿を射つんです。彼はビリーを撃った自分自身を許せなかったんでしょう。ここが一番、パット・ギャレットが人間臭く見えるシーンでした。

ちなみにこの闇討ちみたいな展開は、史実に基づいてるようです。

 

この映画は、あのボブ・ディランが音楽を担当していることでも話題になりました。

彼がこの映画のために作った音楽は、アコースティックギターメインのシンプルなもの。従来の西部劇の音楽にあるような派手さはないですが、抒情性が高く、ドライな物語に見事にマッチしているんです。またそれが映画全編にわたって、まるで隙間がないように使われているので耳に残ります

 

そしてこの映画の音楽と言えば、超有名曲「天国の扉」

 

僕は高校生時代にこの映画のサントラを買って、繰り返し聞いてたんです。

そして勝手に「この曲は、ラストでビリーが死ぬシーンで使われるんだ」って思ってたんです。

でも違いました。

この曲が流れるのは、物語の中盤で奥さんと一緒にパット・ギャレットについてきた老保安官が死ぬシーンだったんです。

夕暮れの中、撃たれてフラフラと川の方に歩いていく保安官。後ろから奥さんがライフルを捨てて、彼を追うんですよ。そして石に座って息絶えるんです。

改めてこの曲の歌詞を読むと、ビリーよりもこの保安官の方が似合っているんですよ。

 

ママ、僕の(保安官)バッチを取ってくれ。もうこれを使うことはないから。

どんどん暗くなってきたよ。暗すぎて何も見えやしない。

まるで天国の扉をノックしてるみたいだ・・・

(訳:パグ太郎)

Knockin' On Heaven's Door

Knockin' On Heaven's Door

  • provided courtesy of iTunes

エリック・クラプトンやガンズ&ローゼズもこの曲をカバーしてますが、個人的には僅か2分30秒しかないボブ・ディランのオリジナル版が圧倒的に優れてると思います。

独特の寂寥感がいいんですよ。

特にこの映画を見たら、余計に唯一無二の曲だって思いました。

 

ボブ・ディランは音楽だけじゃなく、ゲスト出演してます。

どうせカメオ出演だろうなぁ、と思ってたんですが、ガッツリ出演してました。

セリフもばっちりあるし、ビリーの仲間ということで、主演のクリス・クリストファーソンとの絡みもあります。

もしボブ・ディランと知らない人が見れば、ちょっと変わった雰囲気の俳優だなぁ、と思うぐらい役に合ってました。

 

主演のクリス・クリストファースンは最初21才には見えなくて、ちょっと違和感がありました(当時37歳)

でも、話が進むに従って伝説の無法者としての大物感が出て良かったですね。

(原題には21才という表記はないですが、史実として21才で亡くなってるから21才の生涯ってことのようです)

 

この映画の主演は間違いなくパット・ギャレットを演じたジェームス・コバーン

それぐらいかっこいいですし、映画を見終わった後はクリス・クリストファースンより、何倍も彼の印象が強く残りました。

元々アクションスターで、「電撃フリント」シリーズのような飄々した役柄を得意としているんですが、この映画では元々無法者で、悪に近い保安官を魅力的に演じています。

この映画の特徴である乾いた感じは、彼の演じるパット・ギャレットのお陰です。

サム・ペキンパー監督とは「戦争のはらわた」(1977)でもう一度タッグを組んでいますが、そこでもジェームス・コバーンは軍隊という組織の不条理さsに振り回される兵士の役を見事に演じています。

実はめちゃめちゃ懐の深い俳優なんですね。

 

後年、彼は同じビリー・ザ・キッドの晩年を描いた映画「ヤングガン2」(1990)に、パット・ギャレットを雇う大物牧場主チザムの役で出演しています。

彼の出演は「ヤングガン2」の製作者によるこの映画へのオマージュじゃないでしょうか。

 

ちなみに「ヤングガン2」の音楽もこの映画と同じく、映画音楽家ではなく、ロックバンド「ボン・ジョヴィ」のリーダー、ジョン・ボン・ジョヴィが担当してるんです。

「Blaze of Glory」と題された彼のソロアルバムは、実質「ヤングガン2」のサントラです。

ジョン・ボン・ジョヴィは、この映画のボブ・ディランのように、自分の音楽でビリー・ザ・キッドの物語を彩りたかったんじゃないでしょうか。

 

彼が作った主題歌「Blaze of Glory」は全米1位になってます。

Blaze of Glory

Blaze of Glory

  • provided courtesy of iTunes

「ヤングガン2」は当時ブラッドパックと呼ばれた人気若手俳優エミリオ・エステベスキーファー・サザーランド等)が出た、ポップな感覚の若者向け映画なので、ロック調の曲自体は合ってたと思います。

でもね、歌詞の内容が、あまりにも直線的過ぎるて、僕はちょっと苦手なんですよね。

 

俺は逃亡する悪魔、6連発銃を愛する男、風前の灯なのさ

(訳:パグ太郎)

 

うーん、叙事性がない。

 

僕は強烈なボン・ジョヴィ・ファンだったですが、彼ならもっと質の高い歌詞を書けるハズなんです。

これなら最初、「ヤングガン2」主演のエミリオ・エステベスが使いたかったボン・ジョヴィのヒット曲「Wanted Dead or Alive」をそのまま使った方が良かったと思います。

 

話が脱線しちゃいましが、この映画は殺伐感こそ強いですが、人間ドラマもしっかりあり、普通に面白かったです。

ペキンパー得意の「人が撃たれる時にスローモーションで倒れる」演出は出てきますが、意外に目立たなかったです。

寧ろ銃撃は、あっけなさが強調されていて、「人が死ぬときにドラマチックなものなんてないんだよ」っていう刹那的なメッセージさえ感じられます。

 

まさに、この映画は西部劇ですが、手触りはハードボイルドでした。

 

サム・ペキンパー監督、クリス・クリストファーソンは、この映画の5年後に「コンボイ」(1978)を作るんですが、この映画とは似ていない、とても明るい映画で、期待されたほどの出来ではありませんでした。

お互いにこの頃が旬だったんでしょうね。

 

pagutaro-yokohama55.hatenablog.com

 

DVDはお手頃な値段で手に入るようです。