僕らの世代でプリンスの音楽を耳にしなかった人はいないんじゃないんでしょうか。
そんな彼の大ヒット作で、且つ代表作は「パープル・レイン」(1984/全米1位)。
このアルバムは彼が主演した半自伝映画「プリンス/パープル・レイン」(1984製作/1985日本公開)のサントラなんですね。
アカデミー歌曲・編曲賞とグラミー最優秀映画賞も取っている有名映画なですが、ちょっと意図的に避けてたところがありました。
しかし80年代の音楽シーンを代表する一本であるこの映画はやはり体験すべきだと思い
、今回初めて見てみることにしました!
(あらすじ)
ミネアポリスのライブハウスで活躍する主人公だが、バンドのメンバーとギクシャクし始めている。ライブハウスに現れたヒロインを強引に口説いて、恋仲になるが、ミュージシャンになるという彼女の夢を理解しきれず、別れられてしまう。やがてステージでも精彩を欠くようになり、人気も凋落。更に夫婦喧嘩が元で父親が自殺未遂を起こしてしまう・・・
僕にとって、プリンスっていう存在自体がちょっとビミョーだったんですね。
80年代の僕は、ゴリゴリのメタル野郎だったんです。ホワイトスネイクやゲーリー・ムーア、マイケル・シェンカー辺りにどっぷり浸てったわけです。
ただし元々、普通の洋楽から入ってきたので、Rock/Popsを聴いてなかったかというと、そんなワケではなかったんです。ポリスやスティング、TOTOは好きだったし、ブライアン・アダムスのコンサートに出かけたりもしました。そんな流れの中でプリンスも聴いてはいたんですよ。
率直に言って「マイケル・ジャクソンよりカッコイイ」と思ってました。
でも、あの奇声のような裏声シャウトと、独特なセクシーさを当時の僕は受け入れきれなかったんですね。
買ったアルバムも「パープル・レイン」と「1999」(1982)ぐらいでしょうか。
そんなビミョーな立ち位置ではあったんですけど、このアルバムからシングルカットされた「Purple Rain」(全米2位)、「When Doves Cry(ビートに抱かれて)」(全米1位)、「I Would Die 4 U」(全米8位)はお気に入りでした。
でも、やっぱり彼独特のセクシャリティがどうしても受け入れられなくて、彼の音楽にはのめり込まなかったし、この映画も避けてきたんです。
正直、頭のどこかで「どうせ、売れっ子ミュージシャンが勢いで作ったお遊び映画なだろ」と思ってました。
そして今回、初めて見て思ったのが
「俺はなんて大バカ者だったんだ」
でした。
めちゃめちゃプリンスに謝りたい気持ちでいっぱいです。
ごめんなさい。
プリンスのライブパフォーマンスが目玉というのは、間違いありません。
でもこの手の映画によくある「歌さえ聞ければ、話は適当でいいんでしょ」という安易なスター主演モノとは全く別。
この映画は音楽を除いた話の部分が、かなりしっかり作られてました。
その部分だけでも、ちゃんとした映画になっています。
メインストーリーである主人公(プリンス)が自分の感情に振り回される存在から、一段成長するという軸は、「よくある話」と言えでしょう。
この映画では、そこにバンドメンバーの確執(作った曲をプリンスに取り上げてもらえな)とか、両親の不和、彼女との葛藤、凋落するバンドなどが上手に絡められるんです。
特にその中で印象的だったのは両親の不和。
「When Doves Cry(ビートに抱かれて)」は、この両親の不和を歌った曲です。
これがステレオタイプの不和じゃなくて、とってもリアル。
妻を思う通りにしたい夫と、息苦しさを感じて夫に不満を持つ妻、という構図なんですが、これが普通じゃないんです。
父親が母親を殴ったたと思ったら、数日後にはソファーでイチャイチャ。
で、また父親が殴って、母親が家を飛び出す繰り返し。
最後は父親が拳銃自殺を図ります。
病院に収容された昏睡状態の父親に、母親がいとおしそうに覆いかぶさって寝ているんです。
これってDVされてるけど、共依存になっていて別れられない夫婦。
ある意味、超リアルな世界です。
主人公も、そんな親の複雑な関係が影響してるのか、音楽や生き方で妥協出来ないというか、我が道を行くというか、他人の気持ちを顧みないキャラ。
正直、途中まで共感しずらいです。
ホント、ドラマ部分は一筋縄ではいかないんです。
後半に入り、バンドも落ち目、恋人やバンドのメンバーともギクシャク、クラブオーナーの「お前は観客のことを見てるのか?」という捨て台詞、父親の自殺未遂が畳みかけるように起こり、主人公が我に返り、大人の階段を一つ上る展開は盛り上がります。
クライマックスは、主人公が、今まで取り上げることを拒絶していたバンドメンバーが作った曲を突如、ステージで披露するシーン。
それが「Purple Rain」。
自分の曲じゃないところがいいです。
セリフはないけど、バンドメンバーと再び心が一つになることが分かるんです。
凄く単純だけど、グッときました。
そして「Purple Rain」で終わらず、ラストは「I Would Die 4 U ~ Baby I'm A Star」。
「Purple Rain」でしっとりと観客の心をつかみ、「I Would Die 4 U ~ Baby I'm A Star」で一気にテンションを上げる演出は最高。
最近は「I Would Die 4 U」を聴きまくってます。
このクライマックスでは、ちょっとしたエピソードも効いてました。
主人公をずっと目の敵にしているライバルバンドのリーダー。
クライマックスのステージでは、主人公達の前に出演して観客を盛り上げまくります。
自分達のステージが終わると、主人公の楽屋に行って、彼らを茶化すんですよ。
でもリーダーはバンドから離れて一人になると、さっきまでの、主人公をからかった元気はどこへやら、という感じで壁にもたれて、寂しそうな表情をするワケです。
そして主人公が完全復活して、ラストの「I Would Die 4 U ~ Baby I'm A Star」で盛り上がりまくる観客の中に、みんなと同じように盛り上がるリーダーの姿が。
きっと彼らには、いつまでも手強いライバルでいて欲しかった、そんな彼らが復活したことを喜んでるってことじゃないでしょうか。
勿論、これもそんな説明的なセリフは一切ありません。
だから余計にホロっときました。
最後にこの映画を引き立ててるのは、間違いなく主演のプリンスです。
自叙伝ということもありますが、この主人公の喜怒哀楽、不安、焦燥を見事に表現しています。
演技の下手さを感じさせるようなところは全くありません。
寧ろ、本人でなければ出来ないであろう凄みがあります。
特に一人、部屋で焦燥に取りつかれている表情は最高です。
ステージのシーンでは、パフォーマー/ミュージシャンとしての彼が、いかに魅力的だったかを実感させられます。
独特のセクシャリティは好き嫌いが分かれるでしょうけど、やっぱりカッコいいですよ。
あー、何度も来日してたんだから、彼のライブを見ておけばよかったです・・・
超後悔。
この映画を見て、プリンスのことがもっと好きになりました。
あと彼のギタープレイって、意外とハードロック寄りだってことに気づきました。アレンジやバックの演奏がハードロックっぽくないので、見過ごしてましたが、ハードロックファンにも十分アピールするパワーがありました。
「When Doves Cry(ビートに抱かれて)」のイントロなんて、まさにハードロックです!
プリンスの最高傑作を堪能出来る最高の舞台装置、それがこの「プリンス/パープル・レイン」です。
ここまでドラマ部分がしっかる作られてるとは想像もしてませんでした。
音楽好きなら、見て損はない映画だと思います。
この映画の監督はアルバート・マグノリ。
あの「デッドフォール」(1989)の監督とは思えません。
(「デッドフォール」の監督はアンドレイ・コンチャロフスキーになってますが、途中で彼と交代してるみたいです。ちなみにノークレジットです)
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
Blu-rayが比較的買いやすい値段で出てます。買っちゃおうかなぁ、と思うぐらい好きになりました(笑)