昔から気になってた「欲望」(1967)が、PRIME VIDEOで100円レンタルになってたので、見てみました。
監督が三大映画祭全てで受賞している名監督ミケランジェロ・アントニオーニってことで、ちょっと小難しいかな?と警戒してるところもありました。
(あらすじ)
1960年代のロンドン。やや強引な売れっ子写真家の主人公は、公園に居合わせたカップルを撮影するが、女性から執拗にフィルムを寄越すように言われる。断ったものの、女性は彼のスタジオに現れて、再びフィルムを要求。不審に思った主人公がフィルムを現像し、拡大すると、そこには殺人の現場が映っていた・・・
たまたま撮った写真に殺人の瞬間が映っていたことから事件き巻き込まれる、っていう展開は、このブログでも紹介した「ミッドナイトクロス」(1981)の元ネタ。
実は原題も似てます。(「欲望」=BLOW UP、「ミッドナイトクロス」=BLOW OUT)
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
ただ映画自体は全然別物と言ってもいいでしょう。
比較的、早い段階で主人公が事件に巻き込まれる「ミッドナイトクロス」に対し、この映画は冒頭から暫く、主人公の華麗な生活を通して、スウィンギングロンドンと言われた、当時の若者文化を延々と映します。
まぁ、あの「オースティン・パワーズ」(1997)の世界ですね。
そう言えばオースティン・パワーズもカメラマンだったなぁ。
僕的にはこの時代が好きなので飽きませんでしたが、そういう趣味がない人にはちょっと冗長に見えるかも。
主人公が問題の現場をたまたま撮るのが、30分過ぎ。
それを引き伸ばして(引伸し=BLOW UP)、殺人らしきものが映っていることに気がつくのは映画も半分過ぎたところです。
更にそのあとは「ミッドナイトクロス」のようにサスペンス/ミステリーになるかと思いきや、この映画の主人公に調査力はありません。
そして手伝ってくれる人も現れず、結局殺されたのが誰か、殺した組織は誰か、被害者と一緒にいた女性は巻き込まれたけなのか、それとも暗殺者側なのかも分からず。
ただ部屋を荒らされ、フィルムを取られ、死体も消えて、あれはなんだったんだろう?って終わり。
結局、主人公は正体不明の事件の傍観者だったってことですね。
ミケランジェロ・アントニオーニという監督は、そもそも文芸系の監督。(残念ながら僕はこの作品以外見たことがないです)
ベルリン映画祭、ベネツィア映画祭、カンヌ映画祭でそれぞれ大賞受賞しているという映画史に残る大監督です。
この映画もミステリーやサスペンスではなく、「不条理劇」という分類だとか。
だから主人公が事態を理解できなくても、物事が解決されなくても仕方ないみたい(笑)。観客が、そういう映画だと割り切るしかないようです。
でも言い換えれば、ミステリー的な要素があったことと、当時のロンドンの風俗描写がふんだんに盛り込まれたことで、「不条理劇」という小難しいジャンルでありながら、意外にすんなり見れたと言えます。
ラストのパントマイムのテニスをやってる集団から、見えないボールを拾って(拾うふりをして)てというリクエストに応えて、主人公がボールを拾ったフリをして投げるポーズをするのは、実際にあったのか、なかったのかわからない事件と主人公の関係を例えたんでしょうね。
主演のデヴィッド・ヘミングスは、この映画が初主演作。
かっこよくて、おしゃれな辣腕カメラマンを見事に演じています。
この映画でブレイクしたのも納得。
眠そうな表情なのに、やり手っていうキャラは、同時代のマイケル・ケインと双璧なんじゃないんでしょうか。
そして謎の女性を演じているのはヴァネッサ・レッドグレイブ。
僕が映画を見始めた頃には、既にカンヌ映画祭の主演女優賞やアカデミー賞、ゴールデングローブ賞を取る英国の重鎮女優でした。
作品ラインナップも文芸系や娯楽作でも大作系が多くて、めっちゃ格上の女優ってイメージ。
でもこの映画では、一見真面目そうなキャラだけど、途中から妙にセクシーな雰囲気を出すんです。実際にすぱっとヌードになるし。若いころはこんなキャラも演じてたんだと驚きました。
(僕的には「(あの重鎮女優の)ヴァネッサ・レッドグレイブがヌードになった」っていうだけでも、結構軽い衝撃でした)
あとは何人かキャラが出てきますが、実際はデヴィッド・ヘミングスの一人劇みたいなもんなので、ほとんど印象に残りません。
音楽ファンとして、この映画で見逃せないのは劇中に出てくるバンドのライブ。
演奏してるのは、当時人気バンドだったヤードバーズ。
エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジという後の音楽史に名を残す有名ギタリストが在籍したことで有名です。
貴重なライブ映像というだけでなく、珍しいジェフ・ベックとジミー・ペイジのツインギター編成。
このツインギターの期間は1年もなく、公式には3曲しかレコーディングされてないそうです。
ジェフ・ベックはこの頃からストラップを片方の肩だけにかけて演奏してるんですね。
曲はスタンダードのロックナンバー「Train kept a rollin’」なんですが、楽曲使用料で折り合わなかったため、「Stroll on」という替え歌で演奏しています。
曲の終盤にはジェフ・ベックが機材の不調にイライラして、ギターを床に叩きつけて壊します。(これは監督からの要請による演出)
ライブ演奏シーン自体は音楽ファンとして痺れる映像なんですが、観客がシラーっとしてるのがすげー不気味。ギターを壊し始めると、急に熱狂してステージに殺到するんですが、そういうところも演出なのかな?と思っちゃいます。
ちなみに映画全体の音楽を担当したのは、ジャズの大御所、ハービー・ハンコック。
このサントラも60年代の雰囲気満載でお勧めです。
超余談ですが、彼が担当した「狼よさらば」(1974)のサントラも,70年代テイスト溢れる名盤です。
この映画のDVDもお手頃に入手可能なようです。