パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

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【エレファント・マン】「イレイザーヘッド」の格調高き弟

僕の敬愛するデヴィッド・リンチ監督のメジャー一作目エレファント・マン(1980製作/1981日本公開)。

公開された当時は、映画史に残る文芸作のような売り込みでした。

確かにアカデミー賞候補にもなってたし。(8部門ノミネート。受賞なし)

 

でも、今では忘れられられてるのかな?

レンタルDVDになっかったり、サブスクでも扱ってるところが少ないので、なかなか気軽には見れません。

そんな「エレファント・マン」をレビューします。

 

(あらすじ)

見世物小屋で<象人間>というあだ名で見せ物となってた奇形児の主人公を、ロンドンの医師が引き取る。周りの反対を押しきって病院で面倒を見るうちに、医師は主人公が人並み以上の知性と心を持っていることを知る・・・

 


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監督は僕の大好きなデヴィッド・リンチ

この映画がメジャーデビュー作で、僕もこの映画で彼を知りました。

この映画は「実話を基にした格調高いヒューマンドラマ」とし宣伝されてたし、実際にとっても良くできた人間ドラマだったんです。

だから僕も最初はデヴィッド・リンチのことを「新進気鋭の文芸監督」と思いました。

 

それが大いなる勘違いであることを、僕はその年のうちに思い知らされます。

 

この映画のヒットにあやかって、同じ年に公開された彼のデビュー作イレイザーベッド」(1977製作/1981日本公開)。

デヴィッド・リンチが5年かけて製作した自主映画です。

それをガラガラの劇場で見た時の、恐怖にも似た衝撃は今でも忘れられません。

 

pagutaro-yokohama55.hatenablog.com

 

このデビュー作には、デヴィッド・リンチの強烈なグロテスク表現と理解不能な不条理さが濃縮されてます。

この映画を見れば、手っ取り早くデヴィッド・リンチのことが理解出来ます。

でも8割ぐらいの人は、二度と彼の映画を見ようとは思わないでしょうけど

 

それに比べて「エレファント・マン」は、実話ということもあり、話としては普通の感動ドラマ。

彼の作品の中で突出して見易いです。

 

エレファントマン パンフレット表紙

うっすらとした記憶では、この映画だけはデヴィッド・リンチ味があまりないという印象でした。

パンフレットもちょっと文芸作っぽい格調高い感じです。

 

今回、「エレファントマン」を初公開以来、40年ぶりに見直して分かったのは・・・

 

この映画もやっぱりリンチワールドだった!

 

ってことです。

 

モノクロの画面に浮かぶ19世紀の猥雑としたロンドン。

貧民窟や見世物小屋、優しさの欠片もない人間たちを容赦無用なく映し出します。

普通は仄めかすだけで止めておくとか、観客が嫌な気持ちになる前に自制するんですが、デヴィッド・リンチは観客なんてお構いなく、「現実」をガンガン見せつけます。

 

血がドバドバ出るわけでも、肉が切り裂かれるわけでもありません。

でも目を背けたくなるような光景や人間の暗部を嫌というほど見せつけます

 

この心がザワザワする質感は「イレイザーヘッド」と同じだ、と思いました。

同じモノクロだし。

 

ただ「イレイザーヘッド」の方がザワザワ感は何倍も強いし、話も不条理で理解困難ので、この映画は「イレイザーヘッド」の、格調高くて、物わかりのいい弟みたいなもんです。

 

話は普通だけど、ビジュアルはリンチワールドっていうのは、この映画に続いて監督したメジャーSF大作「デューン/砂の惑星」(1984)と同じだと思いました。

 

余談ですけど「デューン/砂の惑星」のグロテスクなビジュアルイメージは、2021年のリメイク版にも引き継がれていた気がします。

ちなみにリンチ版の「デューン/砂の惑星」は個人的なベストムービーの一つで、DVDだけでなく、Blu-rayを買い直して何度も見てます。

 

さて、主人公を演じるのは「エイリアン」(1979)で最初に犠牲になる役をやったジョン・ハート (がっつり特殊メイクしてるんで、素顔は全く分かりませんが)。

彼の面倒を見る心優しき青年医師に、レクター博士ことアンソニー・ホプキンス (「羊たちの沈黙」(1991)の10年前ですけど)。

全くレクター博士と真逆のキャラですが、ピッタリです。本当に演技上手いんだなぁ。

脇もアン・バンクロフトやジョン・ギールガットといった実力派の有名俳優で固められているところも、それ以降の個性派過ぎる俳優たちを使ったリンチ作品とは一線を画してます

(「ブルーベルベット」(1986)のデニス・ホッパー「ママー!ママー!」って言いながら暴力を振るう姿は最高だった)

 

この映画には見終わったあとには「いい映画を見たなぁ」っていう、いつものデヴィッド・リンチの映画にはない満足感があります。

そういう意味で、やっぱり他のリンチ映画とは違うんでしょうね。

だから、これから見る人には「この映画を見て、感動したからと言って、デヴィッド・リンチの他の映画を見てみよう、なんてことを安易に考えない方がいい」って言いたいです。

 

この映画のテーマ曲は、東京ディズニーランドタワー・オブ・テラーでも使われてるように、TV等で時々耳にします。ちょっとトラウマになりそうな曲です。

TVゲームの「サイレントヒル」にも使われてそうな曲です。

サントラは廃盤になってるっぽいですし、サブスクにもありませんね。


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ちなみに「エレファント・マン」は映画化される前に、舞台劇になっています。

(でもこの映画は「舞台劇をベースにはしていない」そうです)

この劇は79年にロック界のカリスマスター(で、僕が大好きな)デヴィッド・ボウイが<象男>を演じて評判になりました。美形の素顔のままで演じてます。

他にも「STAR WARS」シリーズのマーク・ハミル藤原竜也さんが舞台版で「象男」を演じてます。

 


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Blu-rayは出ていますが、あまり手頃な値段ではありませんでした。