70年代って、B級ホラーの邦題によく「悪魔」っていう冠詞をつけていた気がします。
「悪魔のシスター」(1973)、「悪魔の赤ちゃん」(1974)、「悪魔のいけにえ」(1974)「悪魔の沼」(1977)「悪魔の棲む家」(1979)などなど。どれも原題に「悪魔」なんて一言も入ってないんですけどね。
で、今回見たのはそんな「勝手に悪魔」シリーズ(?)の一本「悪魔の植物人間」(1974)。
これも原題は「The Freakmaker」(畸形製造者)。
ちなみに
当時、雑誌「スクリーン」に載ったおどろおどろしいポスターを見て、ホラー映画仲間に「これ、すげー怖そう。俺、絶対見るわ」と宣言した記憶があります。
絶対・・・が、結局50年ぐらい経っちゃいましたが、ついに見ました。
(あらすじ)
植物と人間の合成という夢に取りつかれた大学教授は、見世物小屋の主人を利用して教え子をさらい、植物人間にする実験を行うが失敗。次の実験体をさらってくるように見世物小屋の主人に命じる。しかし見世物小屋では、畸形の芸人たちが主人に対し不満を募らせていた・・・
この予告編だとタイトルが「The Mutations」になってますね。
どうやら「The Freakmaker」というのは、DVD発売時に付けられたタイトルみたいです。(僕が見たPrime Videoでも劇中で「The Freakmaker」というタイトルになってました)
さて、この映画の監督はジャック。カーデフィ。
元々は名だたる作品にも撮影監督として参加するような人で、アカデミー撮影賞とアカデミー名誉賞を取ったこともあります。
そんな凄い人が、何でこんな超B級ホラー映画を監督したのか謎。
同じ年にもう一本映画を撮ってるんですが、そこで監督としてのキャリアは終了してます。
ちなみに彼はB級戦争映画「戦争プロフェッショナル」(1968)という映画も撮ってますが、こちらはお気に入りです。
ポスターがめちゃめちゃ昭和ですね。
植物人間のデザインが全く「人間」には見えないです。
オープニングは本物の植物の成長や生態を早送りで見せる映像の連続。
理科室で見せられる科学教養番組みたいなヤツです。
タイトルやクレジットが出るまで、しつこいぐらい長く続きます。
やっと映画の本編に入ると、大学の授業シーン。
一人の教授が「人が植物と一体になれば、光合成が可能になり、食料問題が解決される!」とマッドサイエンティストのサインをビンビンに出している講義をしています。
この教授を演じるのはドナルド・プレザンス。
ジョン・カーペンター監督のハロゥインシリーズに出たりと、B級映画の常連俳優です。
学校の外に出て、秋の公園を学生たちが歩くシーンはB級映画とは思えない美しさです。
さすがアカデミー賞撮影監督。
やっぱりそんじょそこらのB級映画とは違うねぇ、と思ったんですが、美しいシーンはここだけでした。
ここからは怒涛の超B級映画定番大会。
街に来ている見世物小屋の主人に、「その醜くただれてた顔を治してやる」とそそのかし、植物人間の実験台に自分のクラスに来ている女生徒をさらわせます。
犯罪がバレそうな、身近な女性をさらうB級映画のお約束です。
で、実験する時は、やはりB級映画のお約束の女性を全裸にしておっぱいポロリ。
いよいよ、悪魔の植物人間登場か?!
と思ったら、失敗だった、ってことでここでは登場せず。
そして話は予想もしない方向へ。
見世物小屋のシーンになり、次々と畸形の芸人が登場します。
特殊メイクじゃなくて、皆さんホンモノの方々。
特に自分の目玉を思いっきり飛び出さる芸人には、マジでびっくりします
多分、この映画で一番インパクトがあるのはこのシーン。
話は植物人間の実験から畸形の芸人達と、見世物小屋の主人の関係が悪化していく様が描かれます。
その間に教授は「次は男を捕まえてこい!それもかっこよくて体力のありそうなやつだ!」と見世物小屋の主人に命令。
お約束のように、主人公たちの学生グループの中に、教授の説をバカにしているハンサムな男がいるわけですよ。
はい、フラグ確定。
男子生徒は無事(?)、植物人間になるんでしが、脱走。
恋人のところにいって「植物人間にされちまった!」と泣きつきに行きます。
ここで初めて植物人間の全容が分かります。
アヴァンギャルドなデザインの上に、造形がかなり雑。顔はヒョットコだし。
デザインは初代仮面ライダーに登場した食虫植物怪人サラセニアンの方がカッコいいです。
着ぐるみ感満載ですが、雑過ぎて逆にインパクトあります。
何故か動きも含めて、キャプテンウルトラのバンデル星人を思い出しました。
最後は見世物小屋の主人は、芸人たちに殺され、教授は自分が作った植物人間に殺されます。
畸形の芸人を馬鹿にしたら、一致団結されて復讐されるのは、有名なカルト映画「フリークス」(1932)っぽいです。
そしてラストは実験のためにさらわれてきた女の子を助け出した主人公が彼女と抱き合うんですが、彼の首に回した彼女の腕が緑色に変わっていき・・・と、「ドクター・モローの島」(1977)みたいな終わり方をします。
タイトルは「悪魔の植物人間」ですが、植物人間は最後の15分ぐらいまで出てきません。
更に大暴れしたり、人を殺しまくったりしません。
彼がやったことと言えば、恋人に会いに行ったのと、最後にマッドサイエンティストを成敗したことぐらい。
全く主役じゃないんです。
そのうえ、悪魔でもないし。
悪魔なのはマッドサイエンティストであって、植物人間は犠牲者です。
そう言えば序盤にアメリカからやってくる留学生が元アメリカ軍人が登場します。軍に引き留められたにもかかわらず、生物学を学ぶためにやってきたという設定。見るからにおっさんで、不自然ですが、シナリオ段階で学生グループだけじゃ力足らずなんで、武闘派をメンバーに加えました的な設定が、いかにもB級映画。
その彼はラストで見世物小屋の主人(大男)とタイマンをするんですが、見事にのされます。
え?武闘派キャラなんじゃないの?
加えた意味ないじゃん。
終わってみれば畸形の芸人たちと、奇妙なデザインの植物人間だけが印象に残る映画でした。
カルトって言えば、カルトですが、見て楽しかったかというとさすがのB級ヲタクの僕でも「どーだかなー」っていう感じ。
マニア同士が「俺はあれを見たぜ!」って自慢する道具にしかならないような映画でした。
Blu-rayがお手頃価格で手に入ります。