デヴィッド・ボウイ財団唯一の公式ドキュメンタリー「ムーンエイジ・デイドリーム」(2022年製作/2023年日本公開)。
デヴィッド・ボウイ好きとしては、やはり見ておかないといけません。
そこで横浜・伊勢佐木町にあるミニシアター、ジャック&ベティに行ってきました。
一般の人にとってデヴィッド・ボウイは、昭和の時代に「Let's Dance」(シングル全米6位、アルバム全米4位)でとても売れたミュージシャンという認識ですよね?
だから(?)強引に昭和ネタの映画ということで、このブログでレビューします!
(あらすじ)
2016年に亡くなったカリスマ・ロックスター、デヴィッド・ボウイ。無名時代から、未公開フィルムを交え、彼の音楽を追体験するの唯一の公式ドキュメンタリー。
劇場へのドアがこんな風になってました。
デヴィッド・ボウイの有名アルバムジャケットを飾るなんて嬉しすぎます。
劇場の人たちのデヴィッド・ボウイ愛を感じます。
この映画館で見てよかった。
さて、先日、若き日のデヴィッド・ボウイを主人公にした映画「スターダスト」(2020)を見て、恐ろしくストレスが溜まってしまいました。
ここは、本物のデヴィッド・ボウイで口直しです。
そんな気持ちだったのですが・・・
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正直、この映画もシンドイ部類でした。
出来が悪いっていう意味じゃなくて、敷居が高いっていう意味で。
手を抜いてるとか、知ってる映像ばっかりだったとか、TVレベルの個性のかけられもないドキュメンタリーだとか、そんなことはありません。
さすが、デヴィッド・ボウイ財団がちゃんと公認しているだけあって、かなりしっかりとした出来です。
僕的にガッカリドキュメンタリーだった「ランディ・ローズ」(2022)とは違います。
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じゃ、何が問題か?
それは、あまりにもコアなマニア向けの映画だってこと。
デヴィッド・ボウイ愛が溢れすぎてて、多分、一般の観客は置いてけぼりにされます。
普通、ドキュメンタリーって、物語のように主人公の人生を語っていくじゃないですか。
子供の頃の写真から始まって、ナレーション入れて、関係者(大体、有名人)のインタビューを入れて、その人を知らない観客にも楽しめるような構成になってるが普通。
だけど、この映画ってそういうのを一切無視してるんです。
ナレーションなんて、ほとんどお飾りみたいなレベル。
観客が彼の人生を理解するのに役に立ってません。
つまり観客に「デヴィッド・ボウイのことを十分知っていて当たり前」という必要条件が課されてるんです。
「Let's Dance」ぐらいしか知らなくて、「おお、デヴィッド・ボウイかー。懐かしいなぁ。あの頃に<Let's Dance>を聴きまくったよ」っていうオジサンは相手にしていないってことです。
この辺りが「プロのデヴィッド・ボウイのファン」向け映画の所以です。
オープニングの曲は「Hallo Spaceboy」(1995)。
アメリカではチャートにすら入ってないシングル曲です。
ここからして、マニアック。
マニアにとっては、デヴィッド・ボウイが「Space Oddity」から続けていた宇宙モノの一つなので、ニヤリとするところ。(トム大佐は出てきませんが)
しかしデヴィッド・ボウイファンじゃなければ、「???」ってなってそうです。
そして尻尾の生えた少女が月面を歩くイメージ映像や、「月世界旅行」(1902)、「吸血鬼ノスフェラトゥ」(1922)、「メトロポリス」(1927)、「来るべき世界」(1936)、「赤い靴」(1948)等の古典映画の断片が次々と出てきます。
これらがデヴィッド・ボウイに関係してるのか、何を意味しているのか全く説明なし。
多分、ただのイメージ映像扱いだと思います。
最後のイメージ集には大島渚監督の「愛のコリーダ」(1976)も出てきます。
さて本編に入ると、これでもかというぐらいデヴィッド・ボウイが出てきます。
たまにファンの言葉が出てきますが、ほとんどが独白とインタビューで固められてます。勿論、ライブシーンもたんまりあります。
流れる曲もスタジオバージョンより、ライブバージョンの方が多かったかも。
こういうのが、ふんだんに使えるのは、さすが公式映画です。
コアなファンではないので分かりませんが、未公開の映像や音源もかなり多そうです。
デヴィッド・ボウイと言えば、時代、時代でイメージや曲を大きく変遷させていったことで有名。
ジギー・スターダストという架空のグラムロックスターを演じていたかと思えば、ベルリン三部作で内省的な雰囲気を醸し出し、「Let's Dance」の頃はポップスターでした。
ドキュメンタリーを見る側としては、何故変遷していったかというのを分かり易く知りたいんですが、そこはほぼスルー。
インタビューでの「ミュージシャンとしての僕は白いキャンバス。そこに描かれた人物を演じる」「本当の自分は出て来ない」といった、彼の人生観を物語る抽象的なセリフから推測するしかないです。
それぐらい説明らしい説明がありません。
他にも「彼は初めてブロードウェイに出演したニュージシャンだった」と紹介されてます。
ここで出てくるのは、以前「エレファント・マン」(1980)のコラムの中で紹介した、彼が舞台でエレファントマンこと、ジョン・メリックを演じる姿。
でも、それが「エレファント・マン」だっていう説明は全くありません。
更に彼が出演した「戦場のメリークリスマス」(1983)や「ハンガー」(1983)、「ビギナーズ」(1986)のシーンも出てきますが、一切説明がありません。
それらの映画のことを知らなければ、ミュージックビデオのワンシーンだと勘違いするんじゃないんでしょうか。
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構成としては、「Let's Dance」を超えると、急に駆け足になるのは、ちょっと残念。1990年代以降も良い曲を書いてると思うんですけどね。
それでも上映時間は2時間超と、見応えはあります。
個人的にはやはりベルリン時代がカッコよかったです。
特に一番好きな「Heroes」のライブが見れたところ。
これだけでも痺れました。
そして僕が一番感動したのが、彼の日本愛(京都愛)が一つのトピックとして紹介されていたこと。
「京都に家を買おうとしてた」「年に1回はお忍びで京都に来てた」というぐらい京都愛に溢れてると言われてたデヴィッド・ボウイ。
でも、今までは「彼の日本愛」って、日本向けのリップサービスじゃないの?、一時のノリだったんじゃないの?、日本人だけが注目してる話なんじゃないの?って疑うところもあったんです。
でもこの公式ドキュメンタリーが彼の日本愛を特別に取り上げたことで、本当に日本の文化や京都が好きだったんだと分かって、嬉しかったです。
その中で、僕がデヴィッド・ボウイが一番かっこよく映ってると思ってる写真も出てきました。
家にポスターとして飾りたいぐらい好きな写真です。
ちなみにデヴィッド・ボウイが亡くなった時、阪急電鉄はTwitterでこの写真を追悼として載せたそうです。阪急電鉄、センスが良すぎます。
既に当該Twitterは削除されていますが、以下のリンクでこの写真についての阪急電鉄さんの解説が読めます。
デヴィッド・ボウイ様。その姿は、皆様の心の中に、永遠に。(阪急電車と写った写真解説) - Togetter
でも、この懐かしいCMが日本愛のシーンに出てきた時は、日本人としてちょっとこっ恥ずかしくなりました(笑)
勿論、これも日本のCMだって説明はなしです。
最後の商品紹介のところはカットされてるので、日本語が分からないと、何の映像か分かりません。
総論としては、濃密で良く出来てた映画でした。
とっても丁寧に作られてます。
貴重な映像もいっぱい出てきます。
でも、やっぱりマニア向け。
ちょっとデヴィッド・ボウイに興味があってみて見たいなぁ、という方は、事前にWikipediaなどを読んでおくことをお勧めします。
そしたら何倍も楽しめます。
音楽シーンがいっぱい出てくるし、音像も迫力があるので、音楽好きな人は「映画館で見て良かった~」と思えるんじゃないでしょうか。
そういう意味で、この映画は普通のドキュメンタリーではなく、「デヴィッド・ボウイを追体験する”超体感型”ミュージック・オデッセイ」というチラシの謳い文句通りです。
誰か「素人でもわかるデヴィッド・ボウイの話」みたいな映画作るといいんですけどね~。
(WOWOWで放送した「デヴィッド・ボウイの愛した京都」はとっても分かり易いドキュメンタリーでした。WOWOWに加入すれば、今でもアーカイブで見ることが出来るんじゃないでしょうか)
DVD/Blu-rayは来月(2023/6)に発売されます。