「オデッサファイル」(1974製作/1975日本公開)は、当時のベストセラー作品の映画化。
原作者は僕が学生時代ハマっていたフレデリック・フォーサイスです。
先に原作を読んでた僕は、「映画は、原作をシンプルにして、ちっちゃい話にしたダイジェスト版みたい」と、あまり良い印象を抱きませんでした。
そして今回見たんですが、実は印象が変わりました。
そんな「オデッサファイル」のレビューです。
(あらすじ)
フリーの記者である主人公は、偶然見かけた老ユダヤ人の自殺がきっかで、彼の日記を手に入れる。そこにはナチスの収容所の日々が綴られると共に、「屠殺人」と呼ばれた収容所所長ロシュマンが名前を変えてドイツ国内にいると書かれていた・・・
原作は徹底的な調査と、重層的で緻密な構成を得意とする作者の渾身の一作。
元ナチス士官・兵士の逃亡・身分偽装を助ける秘密組織「オデッサ」を追う話に、高校生の僕は夢中になりました。
(wikipediaのあらすじは、露骨にネタバレしているので、読むことをお勧めしません)
ちなみにフレデリック・フォーサイスの初期三作「ジャッカルの日」「オデッサファイル」「戦争の犬たち」は傑作の呼び声が高く、どれも映画化されてます。
映画版の出来ばえは「ジャッカルの日」の最初の映画版(1973)が圧倒的に優れていて、次はこの映画でしょうか。
「戦争の犬たち」(1980)はキャスティングはいいんですが、映画としてはスケール感が全くない、B級娯楽作に成り下がってました。
また「ジャッカルの日」の二度目の映画化「ジャッカル」(1997)も同様にスターが出てる割にサスペンス感の薄い作品になってました。(話もかなり変えらてました)
この「オデッサファイル」は、たしか社会人になってからレンタルビデオで借りて見た記憶があります。
感想は冒頭に書いた通りなので、その時は「もう二度と見ることはないな」と思いました。
が、しかし前日、PRIME VIDEOの100円セールで、この映画を発見。ついつい出来心でレンタルしてしまいました。
いやー、これが2時間、弛まなくて、ちゃんと楽しませてくれる映画だったんですよ。
テンポもいいし、「オデッサ機関」の不気味さも出てる。サスペンスとしても十分に盛り上げてくれます。
時々、おや?っていう展開もなきしもあらずですが、そこは「昭和の娯楽作品」ということで苦笑いでスルーしましょう。
キャストやスタッフ的には大作っぽいですが、ちょっとこじんまり収まりすぎてる感じがあるので、渋い佳作です。
今回楽しめたのは、大好きだった原作の記憶がほとんどなくなっていたので、スケールが大きく濃密な原作と比べることなく、純粋に一本の映画として見れたからです。
そもそも若かりし頃の僕が原作至上主義だったていうのもありますが。
主人公を演じるジョン・ヴォイト(アンジェリーナ・ジョリーのお父さん)。
これがなかなかのハマり役で、英語を喋ってますが、ちゃんとドイツ人に見えます(笑)
ジョン・ヴォイトはこの映画が作られた70年代がまさに旬で、代表作はほとんどこの前後に集中してますし、アカデミー主演賞も「帰郷」(1978)で受賞しています。
追われる元収容所長を演じるのは、名優のマクシミリアン・シェル。この頃は映画に箔をつけるだけの出演も多かったんですが、この映画では冷酷な収容所長をきっちり演じています。難を言えば回想シーンでの登場が多く、現代シーンでの登場がクライマックスだけというのが残念。演出の都合上、途中で安易に出す(現代で身分がわかる)ことを避けたんでしょう。
監督のロナルド・ニームは名前が通ってる割には大ヒット作「ポセイドナドベンチャー」(1972)以外に目立った作品はありませんが、この映画では手堅いながらも、サスペンスを盛り上げる演出をうまく使ってました。
ラストのオチ(主人公が元収容所所長を追っている本当の理由)は、「なるほど、そうだったのか!」となりますが、実は原作と同じです(笑)。
この映画だけでなく、多くの小説やマンガに登場する実在の組織です。
ただここでは、ややステレオタイプのドイツ軍人風になっていて、マンガ的に描かれているシーンも多いですが、不気味さは良く出ていて、サスペンスを盛り上げるのに一役買ってました。
まぁ、ステレオタイプに描いたからこそ、「オデッサ」が観客の持つ「元ナチスの秘密組織」のイメージに合致し、すんなり「不気味な組織」として受け入れやすかったとも言えます。
やはり、サスペンスやミステリーは、悪役の存在感が主人公以上に大切です。
この頃は「ブラジルから来た少年」(1978)や「マラソンマン」(1976)と、大物俳優を起用したナチス残党組織をテーマにした映画があり、どれも質は高かったです。
この映画のDVDはお手頃な価格で入手出来るようです。