パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【マジック】不安が覆う映画。これはサスペンスか、それともホラー?

羊たちの沈黙」(1991)のレクター博士で世界的な俳優となったアンソニー・ホプキンス

でも彼は若い頃から、映画ファンの間ではそこそこ名が知れた、地味目の俳優でした。

そんな若かりし頃の彼が主演したのが今回レビューする「マジック」(1979)。

当時、渋い佳作だという評価でしたが、未見でした。

アンソニー・ホプキンス主演だから、渋いになったんだろうか?)

今や忘れられた映画ですが、レクター博士より12年前のアンソニー・ホプキンスはどんなものでしょうか?

 

(あらすじ)

主人公は、腕はいいものの、オドオドとして人を惹き付けることが出来ず、場末のバーでも観客に見て貰えない、しがない手品師だった。しかし1年後、彼はファッツと名付けたパペットを使った腹話術で手品見せることで大人気を博すようになっていた。いよいよ全国ネットのTVに出演するチャンスが巡ってきたが、彼はパペットと会話をしないと、精神の安定が得られない状態になっていた・・・


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アンソニー・ホプキンスレクター博士とは180度真逆の神経質で気の弱い手品師を演じます。

画の大半が田舎で、主要な出演者が4人という密室劇に近いこともあり、彼の常にどことなく不安定で、突然キレるかもしれない雰囲気が、終始映画を支配していて、見ている方も終始不安になります。

 

この映画はまさにアンソニー・ホプキンスの独演会です。

この映画が小作品ながら、ハイテンションを保ち続けるのは、彼の「内側には不満をため込むのに、表面は小市民」という演技が素晴らしいからです。

 

話としては、まぁ、よくある主従がひっくり返るっていうやつです。

要は日常の彼は小市民で、本音が全く言えないんだけど、パペットに本音を言わしてたら、それが観客にウケた。

 

ところがパペットに、自分の本音を混ぜて語らせてるうちに、

 

「プライベートでもパペットがいないと不安で、パペットと腹話術をしながらじゃないと、日常会話が成り立たない」

「パペットに本音を言わせないと、不安で仕方ない」

「パペットを持っていると、勝手に本音を言ってしまう」

 

という風になります。

抑圧されていた本当の自分、つまりドス黒い利己的な自分が、パペットという「抜け道」を見つけて、溢れ出てきたってことですね。

そしてパペットはどんどん毒舌になっていくき、気が付けば主人公に意見するようになっていてるんです。

つまり、パペットを操ってたはずなのに、どんどんパペットに操られる側ようになっていく主人公。

っていうか、我慢してる自分から本当の自分になっていく、ってことなのかもしれないですね。

 

しかしパペットは、毒舌で人を操るなんて、主人公の本当の姿はまるでレクター博士

さすがアンソニー・ホプキンス

 

観客はオドオドしてる主人公が、「パペット=本当の自分に命令されて、突然どんでもないことをしでかすんじゃないか」って不安になってくるんです。

途中でパペットの命令で、犬のように四つん這いで走り回って吠えてるし。(凄い自作自演)

こういう狂気の演技を見ると、後年に「羊たちの沈黙」に抜擢されるのも納得です。

 

つまりこの映画は「本音=本当の自分」と「小市民=表面的な自分」がいる、多重人格の変形もの

 

密室劇っぽいので、スケール感はないですし、出演者も地味、演出も派手さはありません。

狂気に陥ってく主人公を軸に、高校の時の片想いの相手とその旦那、マネージャーが絡んでくるんですが、話の展開上、無駄なところがほとんどありません。

片想いの相手への気持ちが狂気を加速させていくんですが、その邪魔となりそうな旦那やマネージャーの存在に「小市民側の主人公」が悩むうちに、パペット=「ドス黒い主人公」がイニシアティブを取り、立場が逆転していく展開は、見ている方の納得感が高いです。

 

ただ難を言えば、狂気に陥る様をもうちょっとじっくり見せてくれたら良かったのかな、と思います。

始まって15分ぐらいで、「ああ、こいつ完全にパペット依存症になってるな」というのが、誰にでも分かるように作られてます。

ここはもうちょっと「あれ?何かちょっと変だぞ?」ぐらいから話が始まっても良かったんじゃないんでしょうか。

まぁ、冒頭から明確に「みなさん、こいつ壊れてますよ!」宣言されてるので、すぐに見ている側は不安になるんですけどね。

 

まぁ、頭からハイテンポで観客を不安にするっていう意味では狙い通りかも。

 

ラストは主人公とパペットが同じ服装になってる、つまり最後は一心同体になってしまったってことの暗示ですね。

 

そして一心同体になったパペットが、悪魔的な言葉で主人公を追い詰めていき、ヒロインを殺させようとするんです。

あれ、やっぱりレクター博士だ。

 

ラストは何も知らないヒロインが、主人公と新たな旅立ちを無邪気に喜んでいるところでEND。

イギリス映画っぽい、ちょっと余韻のある終わり方でした。

アメリカ映画になってますが、監督、主演はイギリス人。主人公もイギリス人という設定でした)

 

脚本はアカデミー脚本賞を2回受賞している御大ウィリアム・ゴールドマン

元々娯楽色の強い映画が得意いだし、派手派手しい映画よりも内容重視系なので、この映画のクォリティーや内容重視の傾向は納得です。

 

監督のリチャード・アッテンボローは元々俳優で、大作・話題作にもいっぱい出てます。「ジュラシックパーク」(1993)にもジュラシックパークのオーナーとして出演してます。

監督としての本数も多く、大作も演出してます。僕の好きな戦争映画「遠すぎた橋」(1977)も監督してますし、「ガンジー」(1982)でアカデミー監督賞も取ってます。

この映画では、サスペンス映画に有り勝ちな思わせぶりな演出はなく、手堅目で不安と緊張感が続くような演出をしていました。

 

ヒロイン役のアン・マーグレットは70-80年代に活躍した女優。(その後もコンスタントに映画には出てます)高校時代は華があったけど、今は生活に疲れた中年女性役は、イメージ通りで良かったと思います。

 

実は意外だったのが、バージェス・メレデイス。

彼と言えば、映画「ロッキー」シリーズの情の厚い老トレーナー、ミッキー役が有名。

でも、この映画では、常に葉巻を咥え、金持ち的な傲慢さをまとうビジネス界に精通したベテランの辣腕マネージャーを演じてます。

ある意味、どちらも主人公をなだめ、すかす役ですが、この映画のマネージャーは情よりもビジネスありき。

全然違う役をバージェス・メレデイスが演じてるのが驚きでした。

(でも飄々と演じていて上手かったです)

 

確かに出演者も含めて派手さの全くない、渋い作品ですが、内容の良く練られた映画でした。

ジャンル的にはサイコ・サスペンスなんですが、あまりにもパペットが完全に別人格のようになっていくし、箱に閉じ込められたら「出してくれ~」と主人公に訴えるので、途中で

 

これは、実は二重人格の話じゃなくて、「チャイルドプレイ」(1988)みたいなホラー映画なんじゃなかろうか?

 

って疑いました。

 

それにパペットが一瞬だけ勝手に動くように見えるシーンがあるんですよ。

これ、実は監督が「本当は<生きた人形>の話かもしれないよ」っていう意図を込めた演出だったのかな?と思いました。

 

そう言えば、どこかで腹話術のシーンは実際にアンソニー・ホプキンスがやっていると読んだことがあります。

アンソニー・ホプキンス、恐るべしです。

 

今回もPRIME VIDEOの100円レンタルを利用しました。

Blu-rayはお手軽な値段で手に入るようです。