ジョン・トラボルタって「サタデーナイト・フィーバー」(1977)と「グリース」(1978)で一躍注目されたものの、その後は急失速。
いろいろな映画にトライしたものの、タランティーノ監督の「パルプ・フィクション」(1994)までパっとしませんでした。
でも16年間の低迷期の作品の中にも良い作品はあります。
その一本が「ミッドナイトクロス」(1981)。
封切時に映画館で見て、とても面白かった印象があります。
今見たらどうでしょうか?
(あらすじ)
主人公はしがないB級映画の音響効果マン。たまたま野外録音をしていた時に、目の前で車が川に転落。中にいた女性は助けたものの、同乗者は死亡。病院で謎の人物から、同乗者は政治家であり、この件は忘れるように言われる。
腑に落ちない彼がテープを再生すると、そこには銃声が録音されていた。また死んだ政治家は大統領の有力候補だと知り、彼は車から助け出した娼婦と一緒に真相を探っていく・・・
監督はブライアン・デ・パルマ。
この直前には「フューリー」(1978)、「殺しのドレス」(1980)、この直後に「スカーフェイス」(1983)を作り上げ、まさに上り調子の頃です。
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まさにこの映画は「低迷期のトラボルタの映画」ではなく、「上昇期のデ・パルマの映画」。
良質な映画になったのは必然ですね。
話はシンプルな巻き込まれ型。
「音」という証拠を持った主人公が、暗殺を隠蔽したい組織から追われるという話。
テンポよくハラハラドキドキさせてくれるし、飽きることはありません。
そのシンプルな話をデ・パルマは比較的正統派の演出で盛り上げます。スリリングなシーンを、ちゃんとスリリングに演出が出来る技量はさすが。
まず冒頭のB級ホラー映画を撮影現場のシーン。
殺人鬼が女性を襲う場面の撮影ですが、殺人鬼の視点でカメラが女子寮に入っていくんですが、これがとってもヒッチコックっぽい。
証拠の「音」を、別人が偶然撮影した車が川に落ちる連続写真と組み合わせ、パラパラ漫画みたいに発砲の瞬間を映画のように再現するシーンは、今見ても面白いですし、ヒロインのナンシー・アレンが殺し屋(ジョン・リスゴウ)に地下鉄で追われるシーンのアップテンポの演出が良かったですね。
そして何よりもクライマックスで、アメリカ国旗と何発もの花火を背景に、トラボルタがナンシー・アレンを抱きしめるところを、カメラを動かしながらワンショットで捉えたシーンは美しく、印象的でした。
クライマックスからラストまでの一連の展開は本当に秀逸です。
特にラストシーンは、サスペンス映画の中で僕的ベスト1です。(後述)
ただ見終わった後に無力感が残るので要注意です。
本当にブライアン・デ・パルマがノリに乗ってる時期だったと思います。
ノッっている時期って、感覚で撮影しても上手くいくんでしょうね。
それぐらい「残念」と思えるようなシーンは皆無でした。
そしてこの映画にピッタリの演技を見せたジョン・トラボルタ。
主人公は「昔は警察の盗聴班で働いていたんだけど、今はしがない音響効果マン」。
いつも露骨に感情を出すことなく、どこか覚めていているが、行動力も切れ味もあるキャラ。
この役は彼以外想像出来ないし、彼じゃなかったらここまで面白くならなかったハズ。
盗聴班の時に、盗聴器を仕込んだ潜入捜査官が自分のミスで、相手に素性がバレて殺された、それが原因で警察を辞めた、っていうトラウマを淡々と話す姿なんかトラボルタの真骨頂ですね。
またどこか淡々としていた彼がクライマックスで感情を露呈し、そしてまたラストシーンに向かって淡々となっていく、そんな流れを自然体で演技する上手さ。
既に「パルプ・フィクション」以降の映画で見られる、演技派のジョン・トラボルタがいるんですよ。
だからこの時期にもっと作品に恵まれなかったのは、やはり「サタデーナイトフィーバー」(1977)と「グリース」(1978)の連続ヒットが大き過ぎて、「踊るチャラい人」っていうイメージが払しょくできなくて、本当に彼に合った映画のオファーがなかったことなんでしょうねー。
(そう言えばケヴィン・ベーコンもアメリカでは未だに「フットルース」(1984)の人って見られることがあるようですね)
更にサタデーナイト・フィーバー」の続編「ステイン・アライブ」(1983)が酷評されたことも、長い低迷期の一因かも。
この映画のジョン・トラボルタはチャラいキャラを残したまま、監督のシルベスター・スタローンの命令で筋肉モリモリになったのがイメージ的にイタすぎる。
当時の宣伝写真を見た僕も「おいおい、これはないよ」って思いました。
まぁ、そもそもスタローンに音楽映画を監督させるっていう発想がデンジャラス。
結局、この時期、本当の彼の魅力に気づいていたのはブライアン・デ・パルマとクエンティン・タランティーノ以外いなかったってことなんでしょう。
他の監督や製作者が偏見を持たずにトラボルタを見てたら、もっと早くに彼の面白い映画がたくさん見れたんじゃないかと思うと残念でなりません。
トラボルタの相棒となる娼婦を演じるのはナンシー・アレン。
僕はナンシー・アレンこそ、世界で一番可愛い娼婦を演じられる女優だと思ってます。
超絶お気に入り♪
でも、この映画のナンシー・アレンは「殺しのドレス」や「フィラデルフィア・エクスペリメント」(1984)に比べると、ただ可愛いだけの側面が強くて、相手を支える強さというもう一つの魅力が引き出せてないのが残念。
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ブライアン・デ・パルマとナンシー・アレンは一時結婚してました。
「殺しのドレス」は結婚の翌年なのでラブラブだったんでしょうが、片や「ミッドナイトクロス」の2年後には離婚してるんです。
そういうところにナンシー・アレンの演出の差が出ちゃってるんですかね。
小ネタなんですがジョン・トラボルタは「サタデーナイト・フィーバー」でブレイクする前にブライアン・デ・パルマ監督の「キャリー」(1976)で、ナンシー・アレンと主人公をイジメるカップルとして共演しています。
(古くから知ってるから、ブライアン・デ・パルマはトラボルタの本当の魅力に気づいてたのかも)
偏執狂の殺し屋を演じてるのは、ブレイクする前のジョン・リスゴウ。
この人は元々精神不安定な役を得意としてるんで、違和感は全くなしです。
さて、ここで僕的に「どうしても語りたい」ラストシーン。
身を案じて盗聴器を持たせたものの、その甲斐なくヒロインは殺されてしまいます。
主人公は警察時代と同じく、またもや守ることは出来ませんでした。
そして巨悪を暴くことも敵いませんでした。
彼の手元に残ったのは、最後に盗聴器を通して録音された彼女の声。
雪の降る公園で終わったら旅行に行こうとか、たわいない話をしている彼女のテープを聞く主人公。
そのテープの最後には、主人公に助けを求める彼女の叫び声が入ってます。
冒頭の撮影現場のシーンで、監督が殺される役の女優の叫び声にNGを出してます。
他の女優を試してもNG。監督は音響効果担当のトラボルタに「何とかしてくれ」っ頼んでました。
彼はそのシーンに、ナンシー・アレンの叫び声を使います。
ラストに試写会で叫び声を聞いた監督が「これ、いいね!」と言う横で、トラボルタがタバコを吸いながら、やや涙目で「いい叫び声だ」と呟くシーンが物悲しくて最高です。
この伏線回収は賛否両論あると思いますが、僕は大好きです。
そして何といっても、このラストシーンを彩るのは、ピノ・ドナジオの物悲しくも美し旋律。
これも僕的にはサントラのトップ3に入る名曲です。
何故、CDが廃盤なのか理解出来ません。
劇場公開時に「面白かった」という当時の感想に間違いはありませんでした。
超大作でもないし、超完成度が高いわけでもありません。
でも僕はこの映画が本当に好きなんだなぁ、と再認識しました。
この映画の元ネタはミケランジェロ・アントニオーニ監督の「欲望」(1967)。
これは偶然撮影した写真を引き伸ばすと、銃口が映っていた、という話。
原題は「BLOW UP」(引き伸ばし)。
で、「ミッドナイトクロス」の原題は「BLOW OUT」(吹き消す)。
「欲望」は未見なので、これも近いうちに見ておきたいです。
初公開時に見たのは岐阜の自由劇場という小さな映画館で、同時上映は「さよならジョージア」(1982)という青春映画でした。
「さよならジョージア」は当時、日本でも人気のあったクリスティ・マクニコルという女優が主演の青春映画。
「スターウォーズ」シリーズのマーク・ハミルが彼女を想う警官役で共演してます。
印象に残ってるのは、マーク・ハミルが道の真ん中で警官の制服を脱ぎ捨てて、下着だけ(それとも全裸だった?)で彼女の車に乗り込み、二人で去っていくラストシーン。
ってか、そのシーンしか覚えてないんですけどね。
「さよならジョージア」のDVDは見たありません。
そもそもマイナー過ぎて、ソフト化されてないんじゃないでしょうか。
「ミッドナイトクロス」の方もPRIME VIDEO、Nextflix、U-Nextのサブスクにもなかったですし、DVDレンタル屋にもなかったので、宅配レンタルを利用しました。
新品のDVDはプレミアムがついているようです・・・