子供の頃の特撮っていったらゴジラやウルトラマン、ガメラと並ぶヒーロー(?)が「大魔神」(1966)。
怒ると顔が変わるというアイディアはいろんなところに流用されました。
リアルタイムでは見てないんですが、子供の頃に繰り返しTVで放送していたので、僕らの世代でも有名なキャラです。
(実際に小学生の時に、大魔神ゴッコをやってました)
しかし他の昭和50年以前の特撮映画同様、大魔神が怒りの顔になるところは覚えているんですが、話の方はさっぱり記憶にありません。
そんなわけで今回、改めてレンタルDVDを借りてみました。
(あらすじ)
戦国時代、人格者であった丹波の国の領主は、家臣の謀反により殺害される。難を逃れた領主の子供(兄妹)は、忠臣の手引きにより脱出。山奥の魔人像を崇める巫女に預けられる。
やがて月日が経ち、新領主は砦建設のため、領民に重労働を課す暴政を行っていた。新領主を倒すべく、昔の仲間を集めに村に降りた忠臣と兄も捕まってしまう。一方、新領主は領民たちの心の拠り所が山中にある魔人と知り、それを破壊しようとする・・・
そもそも驚いたのが、これ、カラーだったんですね。
頭の中で勝手におどろおどろしいモノクロだと記憶を変換してたっぽいです。
そして次に驚いたのが、映画としてめっちゃしっかりした作りだったていうこと。
同じ大映で、同じ頃に作られた「大怪獣ガメラ」(1965)の中途半端感とはえらい違いです。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
画面には安物感がないどころか、前半の謀反から、悪玉新領主が領民を酷使して新たな城を作らせる現場のシーンまで、かなり大がかりなセットを組んでいるようで、スケール感があります。
これは当時隆盛を誇った時代劇のノウハウと、映画全盛時代の大型セットを作る技術を最大限利用したお陰なんでしょうね。
話は時代劇の定番的な敵討ち物。
悪者の部下に謀反を起こされて人格者の領主だった父を殺された兄妹が、成人して敵討ちを行う話です。
領主を倒そうとする企みや、領民の反抗が上手くいきそうになっても、土壇場で悪玉がそれを防ぐという展開に、終盤まで悪が優勢。
これでもか!これでもか!と暴虐を尽くし、見ている方はフラストレーションが溜まります。
この溜まったフラストレーションがあるからこそ、クライマックスの「大魔神の怒り」が「スカッと爽快」になるんですね。
さて、主役の大魔神は終盤までただの石像。
後半途中までピクリとも動かないので、そこまでは普通に時代劇です。
つまり話の2/3は普通の時代劇なので、子供には面白くなかったから、頭に話が残らなかったのかもしれません
そしてフラストレーションのピークは、悪者領主が「こんな石像を崇める迷信があるから領民が逆らうのだ!」と石像の破壊を命じ、腹心の悪玉が石像の額にぶっとい杭を打ち込みます!!!
これ、痛そう(笑)
そして血が流れます。
これフラッグですね。
領主と部下の全滅確定のお知らせです。
急に天気が荒れ狂い、地震が起こり、石像を破壊にしにきた腹心とその手下は全滅。
そこに兄が処刑されそうな姫が涙を流して、(ここぞとばかりに)大魔神に祈りを捧げると・・・誰もが知っている超有名シーン。
大魔神の顔が埴輪顔から怒りの顔に変身。
そして火の玉となって兄が処刑されようとしている城下町に飛んでいきます。
大魔神は怒り爆発で城を破壊しまくり、悪玉たちを虫けらのように倒していきます。
特に悪玉領主は十字架に押し付けられたと思ったら、大魔神はおもむろに自分の額に刺さっている杭を抜くと、それを領主の体に打ち付けるんです。
杭を打たれた恨み、こえー---
ちなみに杭を抜いた額にはちゃんと穴が開いてました(笑)
とにかく、直前まで溜まってたフラストレーションがスカっと抜けて、気持ちいいんですよ。
大魔神、かっけー。
どことなく水戸黄門を見ている気分です。
が、しかし悪玉が死んでも大魔神の怒りは収まりません。
え?え?え?
くそー、俺のひたいに杭なんか打ち付けやがって!
俺はパンクスじゃねぇんだぞ!
酔っぱらってワケわからなくなって怒りの収まらないおっさんみたいに暴れ続けようとします。
が、またもや姫が足元にすがって、「怒りを収めてくださいまし~」とお願いすると、
あ、そう?
まぁ、可愛い子がそう言うんなら、俺も鬼じゃないからねぇー
とばかりに、暴れるのを止めて、埴輪顔に戻ります。
可愛い女の子の涙に弱い大魔神。
男って古今東西そういうもんですよね。仕方なし。
怒りを収めた大魔神の魂らしき光が空の彼方に去っていき、大魔神はグズグズと崩れて砂の山になって、映画もTHE END。
結局、姫が鉄人28号の正太郎君みたいに大魔神をいいように使ってた、お願いをして敵討ちの代理執行してもらったてことですかね。
ともかくストレスが発散されて気持ちのいい(?)ハッピーエンドでした。
映画としてカメラワーク、美術セット、画面作りがキチンとしているというか、すごく立派。
繰り返しになりますけど、やっぱり大型時代劇を連発していた時代の底力ですね。
きっとスタッフは「特撮」じゃなくて、「特撮を利用した時代劇」っていう感覚で、「いつものように」時代劇として作っていたんじゃないでしょうか。
そして何より特撮のレベルが高いんです。
本当にビックリするぐらい。
ずっと昭和の特撮は、円谷英二さんが担当した東宝特撮映画がダントツだと勝手に思ってました。
でも、大映の特撮も引けをとってませんでした。
映画的に絵になるアングルで作っていて、昭和ゴジラシリーズ後半の怪獣プロレスのような安易な絵作りはゼロです。
ちょっとレイ・ハリーハウゼン(「シンドバッドの7回目の冒険」(1958)「アルゴ探検隊の大冒険」(1963)等の伝説的特撮マン)のように、「出来ることをする」のではなく、「映画的に面白い絵作りをするために工夫する」ように心掛けられてる気がしました。
特に最後の城下町を破壊するシーンや領主を磔にするシーンの迫力と構図は、今見ても「凄い」と声が出ちゃったぐらい素晴らしい出来です。
「大怪獣ガメラ」の時にも書きましたが、本当に大映の特撮力は素晴らしいです。
登場人物はステレオタイプだし、話の展開も定番なので、奇はてらっているものは何一つありません。
ですが、反対にオーソドックスな話を役者さん、演出を含め丁寧に作ったことが、この映画には良かったんだと思います。
だって、この映画の主人公は、やはり大魔神。
土台となる部分が地味だけど、しっかり作られていたことで、畏れる神としての彼の存在感が浮き立って良かったと思います。
ちなみに本作「大魔神」(1966)が好評だったようで、シリーズ化され続編が二本作られました。
「大魔神 怒る」(1966)
「大魔神の逆襲」(1966)
これ、誤字じゃないんですよ。
本当に3本全部1966年に公開されています。
最初が4月、次が8月、最後が12月です。
4ヶ月おきって凄くないですか?
時代劇のノウハウがあったとしても、やっぱり凄いことです。
こういうところにも当時の日本映画の熱気というか、底力を感じることが出来ます。
僅か84分の小作品ですが、これは傑作特撮映画です。
ちなみに撮影に使用した大魔神像(4.5メートル)は現存し、現在はフィギュアで有名な(僕の大好きな)海洋堂(大阪府門真市)の本社に飾られています。
最初に書きましたが、「怒ると怖い顔に変わる」というアイディアは、パロディを含めていろんなところに使われてました。
僕的に一番印象に残ったのは子供の時に見た「魔人バンダー」(1969)というsf特撮ドラマです。
これも戦闘モードになると、丸目の頭から、釣り目の角の生えた頭に変わります。
なかなか面白い番組だったんですが、版権等の関係で、再放送もソフト化も叶わない状態にあるとのこと。ちょっと残念。
「大魔神」はPRIME VIDEO、Nextflix、U-Nextの定額サブスクにはなかったので、DVDレンタル屋で借りてきました。
さすが有名作品だけあって、お手軽な値段で新品のDVDやBlu-rayが手に入ります。