ちょっと今までとは毛色の違う映画を。
ウッディ・アレンの「カメレオンマン」(製作1984/日本公開1985)。
ウッディ・アレンって大昔はちょっとバタ臭いコメディアン兼コメディ作家だったのに、「アニーホール」(1977)でアカデミー監督賞を取ってから、日本ではインテリ層が好む「知的な映画」の人扱いになってました。
そんな中、作られた純粋なコメディがこの「カメレオンマン」。
僕は社会人になって、中古LD(レーザーディスク。死語ですね)を購入して視聴しました。
とにかく掛け値なしに面白かったんですよ。
残念ながら我が家のLDプレーヤーが壊れちゃってるので、今回中古DVDを買って視聴しました。
(あらすじ)
時は好景気に沸く1920年代のニューヨーク。周りにいる人種、職業に同化するどころか、肌の色や体型、話し方まで全て一緒になってしまう男が発見された。色々な学者が彼を治そうとするが、これといった治療法が見つからなかった。新進気鋭の女性精神科医が、彼の変身の原因は心にあるとして、治療に取り組むのだが・・・
「ブレアウィッチ・プロジェクト」(1999)から流行ったモキュメンタリーって、僕からすると、ちょっとどうなの?っていうのがありました。
「クローバーフィールド」(2008)や「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」(2008)とか、素人が死にそうな状況でも撮影を続けるっておかしくない、アタマおかしいよね?って思っちゃうんですよ。
この「しつこいぐらいカメラを回してる」っていう設定が、反対に映画を作りもの臭くしていて、どうもダメなんです。
それに対して、この映画は徹頭徹尾、病院の記録フィルム、ニュースフィルム、当時の資料や当事者の証言等だけで構成する完全なドキュメンタリー形式。
どの映像もわざとボカしたり、フィルムに傷を入れたり、音声が不明瞭だったり、と凝っていて、観客に本当に当時のニュースフィルムを見ている気にさせます。
勿論、再現フィルム(という形式)なんて使っていません。
全て実際にあった記録だけで作った、という大ボラです。
特に当時の有名人に主人公の思い出を語ったり、ニュースフィルムの中で共演させたりすることで、フェイクにリアリティーを持たせてたのは良かったです
「フォレスト・ガンプ」(1994)はこのやり方を参考にしたのかな?
流し見していたら、NHK BSでやってるような「20世紀の記録」だと勘違いしちゃいます。
ウッディ・アレンの映画人としての才能を感じます。
さて、この映画はウッディ・アレンの「カメレオンマン」と、当時の恋人のミア・ファローの「精神科医」を中心に進んでいきます。
見どころはなんといってもウッディ・アレンの七変化。
いろんな職業、いろんな人種へと次から次へと変わるんですが、これが本当にどらもそっくり。
見た目だけじゃなくて、しぐさ、服装、アクセント、話し方まで真似ています。
これだけでもクスクス笑ってしまいます。
きっと、この七変化は、60~70年代に活躍した、イギリスの名コメディアン、ピーター・セラーズへのオマージュじゃないかって思いました。
彼の十八番もいろいろな職業、人種を演じること。
その最高峰が一人三役を演じた「博士異常な愛情」(1964)じゃないでしょうか)
ちなみにピーター・セラーズとウッディ・アレンは「007/カジノ・ロワイヤル」(1967)で共演してます。
(007が出てくる映画ですが、ダニエル・クレイグ主演の2006年版ではありません)
時代を「狂乱の20年代」に設定してあるのもナイスでした。
何でもありで、なんでも馬鹿馬鹿しいぐらいやり過ぎる、あの時代なら、こんなホラ話も「さもありなん」、ってなります。
とにかくクスクスっとするような、ホラ話を次から次へと繰り出し、90分以内というコンパクトな尺で収めてるので、飽きることは全然ありません。
よくまぁ、いろんなネタを考えるなぁ、と思うぐらいです。
話の本筋自体にも起承転結とヒネリがあって、最初から最後まで観客を壮大なホラ話に巻き込みます。
ウッディ・アレンの初期のコメディにあるような、「面白がってるのは、本人だけじゃない?」っていう独りよがり感がなくなってたのも良かったかも。
その辺りは「アニーホール」以降、磨かれたんでしょう。
そう言えばカメレオン症状が治ってから、主治医であるミア・ファローと恋に落ちるんですが、自由になったウッディ・アレンがやたらミア・ファローにベタベタするのが妙に気になったんです。
一応、自分を取り戻した主人公が、人目をはばからず感情表現をしてるって設定なんですが、この時期、ラブラブだった二人(特にウッディ・アレン)が素のままやってるんじゃないかって、いうぐらい見てるこっちが恥ずかしくなる雰囲気でした。
だって内気な男が周りに受け入れられたくて、自分を変えてまで受け入れられようとする男って、きっとウッディ・アレン本人の投影ですよね。
そして素の自分を受け入れてくれた女性に、愛情を注ぎまくるのも本人なのかも。
(まぁ、実生活では違った方向に愛情がいっちゃいましたけど)
この映画には主題歌みたいなのがあります。
1920年代に主人公のことを歌った曲がヒットしたっていう設定があるんですが、この曲がまさに「狂乱の20年代」っぽい曲なんです。
一回聞いたら忘れられません。
1929年発売の「踊るリッツの夜」を彷彿させる曲です。
この映画はサブスクにも、DVDレンタルにもありません。また新品のDVDも入手困難です。
だから中古DVDを購入したんです。
でも一つ大きな不満があります。
それは日本語吹替がないこと。
この映画の日本語吹替って、ナレーションだけが吹替だったんですよ。
これがまた海外のドキュメンタリーの日本放送みたいでリアルだったんですね。
ナレーションは矢島正明さんだった記憶があります。
(調べたら矢島正明さんはビデオ版だけのようです)
僕にとっての「カメレオンマン」と言えば矢島正明さんの吹替バージョン。
レーザーディスクは吹替版だったのに(泣)
誰か吹替版、出してー!!!!
(または誰かレーザーディスクプレーヤーが直せるかどうか教えて下さい)