パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【アウトランド】面白いが、これをSFと言っていいのか

今回レビューしたのはショーン・コネリー主演のSF映画アウトランド(1981)。

スターウォーズ」に始まる昭和のSF映画ブームの中で作られた一本です。

だけど、ショーン・コネリーフィルモグラフィーの中で埋もれてしまっている一本だと思います。

いや、多分、SF映画ファンの中でも埋もれてしまっている可能性があります。

僕は劇場公開の時に見ました。

その時は結構満足した記憶があります。

さて40年経って、その記憶は正しかったのか、検証します。

 

(あらすじ)

鉱山開発が行われている木星の衛星イオ。そこに新たな保安官である主人公が赴任。外界から隔絶された発掘基地で不審死が相次ぐ。調査を進めると、基地は鉱山会社の支配人に牛耳られており、不審死の原因は過酷な労働をさせるために流通させている非合法麻薬が原因だった・・・


www.youtube.com

 

岐阜県人の僕が、この映画を見たのは渋谷駅前にあった東急でした。

兄が東京に住んでいたので、中・高校生の頃は夏休みになると1週間ぐらい東京で映画三昧(岐阜で見れない映画を中心に選んでた)をしていたからです。

「ロッキーホラーショウ」と「ファントム・オブ・ザ・パラダイス」の二本立てという運命の出会いをしたのもこの頃。

また東京に来るたび、同じ渋谷にあった「すみや」というサントラ専門店にもあしげに通いました。

今や東急もすみやもなくなってしまいました。

寂しい限りです。

 

アウトランド パンフレット表紙

簡単なあらすじで、ピンときた方も多いと思いますが、要は正義感の強い保安官が悪事を暴こうとするが、街のみんなは悪玉の権力者が怖くて見て見ぬふり。そこでたった一人で悪漢たちと対決する、というお話。

いろいろなところに、アウトランド」は西部劇の名作「真昼の決闘」のSF翻案版、として紹介されています。確か監督自身もそう言ってたような気がするし、実際に見てみるとまさに「そのまんま」。

 

そんなわけで筋立てはオースドックスだけど、しっかりしてます。

ましてや監督は職人肌のピーター・ハイアムズ

A級大作は作れないけど、話の面白さを損なわず映像化し、きっちりと娯楽映画に仕立て上げるのが上手い監督さんです。

個人的に、彼の良さが一番良く分かる映画は、アポロ計画陰謀論を彷彿させる近未来SF映画カプリコン1」(1978)がじゃないかと思ってます。

反対に芸術SFの金字塔「2001年宇宙の旅」(1968)の続編「2010年」(1984)は、前作の良さが全く引き継げていない悲惨な出来でした。やっぱりそういう映画には向かないです。

ホント、「2010年」を見終わって劇場を出た時は、ピーター・ハイアムスなんてこの世界にいなければいいのに、と真剣に思いました。

 

話は逸れましたが、この映画にはピーター・ハイアムスはピッタリの人材。

そもそも脚本も彼なので、まさに自分の特性が良く分かってるってことですね。

新妻を守る「真昼の決闘」とは違い、この映画では奥さんが愛想を尽かせてショーン・コネリーの下を去っていく、とか助けてくれる女医が嫌味な枯れたおばさんといった色恋沙汰を排除して、男の決闘ドラマに徹した作りにしたので、話の焦点がはっきりしてました。

また正義感の強い、タフガイの保安官にショーン・コネリーをあてる配役もソツなくて良いです。

 

特撮も丁寧で、宇宙空間から見た基地のスケール感はしっかりあるし、「エイリアン」以降の「未来のリアルな肉体労働現場」を意識した採掘基地のデザインもナイスです。

 

こんな風に全体的にちゃんと考えられてるし、必要なお金もかけています。

この映画をまとめると、こんな感じです。

 

・話がしっかりしてる

・監督もキチンと娯楽作としてまとめあげてる

・スター俳優が出ていて、適役を演じている

・安っぽさがないどころか、スケール感や未来感がしっかりある

 

これだけ揃ってればA級とは言えなくても、間違いなく怪しいB級レベルよりはずっと上じゃないですか。

 

でも、それが反対にこの映画を埋もれさせてしまってるんです。

例えば同じショーン・コネリー主演のSF映画未来惑星ザルドスはカルト(トンデモ)映画として未だにいろいろなところで(良くも悪くも)語り継がれているんですが、この映画が取り上げられることは皆無です。

 

まず致命傷なのが、この映画が「SFである必然性がない」ことです。

木星とか、宇宙基地とかSFっぽい設定ですが、この物語の本質には全く影響してないんです。

だって舞台は北海油田みたいな、現代の絶海の採掘基地に変えても、ストーリー的には何ら問題なし。他にもSFっぽく「合成麻薬」が出てきますが、これも現代の麻薬との違いはないっぽく、ただ言葉的にSFっぽくしてるだけ。

他にもビデオメールなど当時のSF的ガジェットやアクションシーン(低重力)、宇宙空間への放出等がありますが、それはSF的なものを楽しませる小道具であって、どれも物語のカギになってません。

ちなみに主人公の武器はショットガンですよ、宇宙でショットガン。

やっぱり本質はただの「真昼の決闘」。

 

「SFブームだから、宇宙基地で「真昼の決闘」をやったら売れるんじゃね?」っていう安易な発想だったんじゃなんですかねぇ。

 

だから見終わった後に、SF映画を見た」っていう気持ちがめっちゃ薄いんですよ。

ただ、「ショーン・コネリーの面白いサスペンス映画を見た」っていう印象なんですよね。

 

そして何よりも「ただの真昼の決闘」というのがアウト。

古典ともいえる「真昼の決闘」のプロットを使うこと自体は悪くないんです。

問題はSF的エッセンスを加えることもなく、また現代的な大きなヒネリを加えることもなかったので、ただの手堅く物語が展開する安心安全の作品になってしったのも敗因です。

簡単に言えば

 

他の「真昼の決闘」モドキと何が違うんだっけ?

 

と言われるレベル。

だから見終わった直後は面白いけど、時間が経つと記憶に残らない、そんなところでしょうか。

 

唯一無二の作品にはなれず、かといってカルトにもなれない。そしてSFファンにはSF映画と認識されない映画。

そんな映画は歴史の中に沈んでしかありません。

かえすがえす、SF的要素をきちんと取り入れてさえいれば、違った評価が待っていたんでしょう。

(そしたらC級カルト映画になってたリスクもあるんですけどね)

 

さて、最後にショーン・コネリーSF映画繋がりで小ネタを。

彼が主演する「メテオ」(1979)というSF映画があります。

巨大隕石が接近、それを科学者が阻止しようとするお話です。

マンハッタンに巨大な隕石孔が開いているイラストのポスターが印象的でした。

(名イラストレーター・生頼範義さんの作品)

当時、劇場で見れなかったので、是非見てみたいんですが、日本国内ではDVD化されてません・・・何とか見たいんですが・・・

 

今回はU-NEXTのサブスクで見ました。

新品のブルーレイは入手できるようです。