パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【人類SOS! トリフィドの日】本当に怖いのはトリフィドではなく、人?

昔のTVは、夜9時になると映画の時間でした。

月曜ロードショー、水曜ロードショー、ゴールデン映画劇場、日曜洋画劇場・・・

僕は地方だったので、これぐらいでしたが、東京や大阪だと毎日のようにやってたんじゃないでしょうか。

 

僕もTVでいっぱい映画を見ました。

 

以前にも書きましたが、夏休みの楽しみの一つが、そうしたTVの映画枠でやるSF映画特集。

3週連続でSF映画を放送してくれるやつです。

 

小学校低学年の頃に、その特集で「ミクロの決死圏」(1966)、「猿の惑星」(1966)、「アルゴ探検隊」(1963)、「地球最後の男オメガマン」(1971)といったSF映画を見ました。

そんな中で面白かった~って印象に残ってるのが「人類SOS! トリフィドの日」(1962製作/1963日本公開)。

元々はただの「人類SOS!」だったんですが、今は原題の「トリフィドの日」が副題のとして付いてます。

(原作はジョン・ウィンダムの「トリフィド時代」ですが、原題はやはり「The Day of the Triffids」と映画と同じです)

 

子供の頃に見たっきりで、既に数十年。

あの頃の面白さは本物だったか確認します。

 

(あらすじ)

無数の美しい流れ星が世界中で観測された夜。誰もが夜空を見上げて流星ショーを楽しんだが、目の手術をした主人公は翌朝まで包帯を取ってはいけないと言われ、流星を見ることが出来なかった。

翌朝、医者が来ないので、自分で包帯を取って病室を出ると、そこは人が誰もおらず、廊下には医療機器が散乱。やっと見つけた医者によれば、あの流星を見た人間は目が見えなくなったらしい。彼が街に出ると目が見えない人たちで街は大混乱。世界中がパニックに陥っていた。彼は何とか目が見える少女と街を脱出する。

しかし地球を襲った危機はそれだけではなかった。流星の影響で肉食植物トリフィドが動物のように動き回れるようになり、人間を捕食していたのだ・・・


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アメリカ映画ではなく、イギリス映画。

2001年宇宙の旅」(1968)のように格調高い映画ではなく、B級映画

特撮もちょっと残念な感じです。

 

話運びや緊張感は十分水準以上。

盲目になった人々がパニックになり、文明が滅んでく描写は秀逸です。

特に駅に辿り着いた主人公の目の前で列車がホーム突っ込んでくるところが印象的でした。

脱線した客車から、盲目の人々がパニックになりながら出てくる描写はまさに阿鼻叫喚。

短いシーンですが、リアリティがあって、見ているこちらも「実際にみんなが盲目になったら、こうなるんだろか」と思わせるものがあります。

終末描写として、「宇宙戦争」(2005)の燃える列車が踏切を爆走しながら横切るシーンに匹敵するかも。

 

この映画、話の2/3が人間ドラマ。

それも人のエゴや不信で起こる「前向きにならない」展開です。

 

トリフィドの謎を解こうとする学者夫婦も、酒浸りの夫のせいでギクシャクしています。

現実逃避のように宗教にすがり、頑迷になっていく人もいれば、目の見える少女を無理やり捕まえて、自分の目の代わりに世話をさせようとする親父も出てきます。

脱走した囚人達(目が見える)が、盲目になった女性たちを集団で襲うシーンもあります。

 

本当に全員エゴのむき出し。

 

この映画で一番怖かったのはそういう人たちの行動でした。

 

また主人公も正義の人でなく、ただただこの状況から脱出することに集中し、他人と不要な馴れ合いはしません。

彼が他人のために命を呈するのは、クライマックスで仲間を逃がすためにトリフィドを引き付けるところぐらい。

 

その中で唯一救いなのは、寄宿学校を逃げ出してきた少女。

彼女は「私、目が見えなくても分かるのよ。あなたは黒髪ね」って言われ、(本人は茶色なのに)「ええ、そうよ。当たり!」って悩みながらも答えるのが、ちょっとジーンときます。

 

また流星によってパニックになって自滅していく人類の終末感もよく出ていました。

前述の脱線する列車のような直接的描写だけなく、軍事基地が次々と放棄されてくのが無線通信で聞こえてくのは、終末好きの僕としては、ちょっとリアル感があってゾクっとします。

 

全編を通して無理やり恋愛や、お涙頂戴を入れず、トリフィドと盲目になった人たちと数少ない目が見える人たちの三者関係に焦点を絞ってあるのが良かったです。

 

ラストはトリフィドを倒す方法は見つかりましたが、大半の人が盲目となってしまった世界の再生については、全く楽観的なものを示さずに終わっています。

 

穿った見方をすれば、盲目の人が多いので、トリフィドを倒す方法を十分に活用することが出来ず、少数だけが何とか生き残り、世界の大半をトリフィドが支配される未来が待っているのではないかと思っちゃいます。

 

このポジティブな答を出さずに終わるのも嫌いじゃありません。

寧ろ好きかも。

 

製作当時が冷戦下だったことも、明るい未来を示さない結末になった理由かもしれません。

 

こんなSF映画でも、ちょっと陰鬱になりそうな重めのドラマに仕立てるのは、やはりイギリスというお国柄なんでしょうか。

明らかに映画の雰囲気がアメリカ映画と違います。

 

ただひたすらトリフィドが襲ってきて、登場人物がキャーキャー逃げ回るだけだったら、かなり安っぽいB級SF映画になってたでしょう。

娯楽作のハズなのに、「楽しかった~」で終わらないところが、古典SFに挙げられる理由と言えます。

 

さて、タイトルロールにもなってるトリフィドは、実は脇役で、全然怖くないのか、というとそうではありません。

確かに作り物感は拭えないけど、ゆるりゆるりと毒を吐きながら襲ってくる様はナカナカ怖いです。

 

当たり前ですが、植物なんで無表情

当たり前ですが、感情ゼロ。

それが不気味な音を立てて近づいてくるんですよ。

 

クライマックスでトリフィドの大群が、バリケード化した家の中にゆっくりと押し寄せてくるんですよ。

木製のドアを押し壊したり、窓に打ち付けた板の隙間から触手を伸ばしたり・・・

勿論、不気味な音を立てて、無表情、感情ゼロで。

 

あ、これってジョージ・A・ロメロの映画に出てくるゾンビに似てますよね。

ロメロのゾンビも無表情で感情ゼロのところが一番の不気味ポイント。

お前ら食ってやるぞ~、っていうのがなくて、淡々と当たり前のように人にかぶりつくところが恐ろしかったんですが、この映画も全く一緒です。

 

ジョージ・A・ロメロが「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968)の制作時に、トリフィドが屋内に入ってくるシーンを参考にした、という噂があるようです。

真偽のほどは分からないですけど、「確かにそうかも」と思わせるものがありました。

 

この映画を見ると、最近の映画は蛇足が多いし、脚本の練りが違う方向にいってる気がして仕方ありません。

シンプルさの大切さを考えさせられた一本でした。

 

ビジュルアルも含めて古臭さ拒めません。

でも、そういうのを気にしない娯楽映画好きの人は見ても損はないと思います。

 

DVDは比較的お手頃な値段で入手出来ます。