アラン・ドロンが亡くなりましたね(8月18日)。
昭和の時代では他のスターと一線を画してました。
特に僕の親の世代には、世紀の二枚目として絶大な人気を博してました。
そんな大スター、アラン・ドロンですが、僕が劇場に通い始めた頃には、人気もピークを過ぎ、日本で公開される映画が少なくなってました。
(そもそも80年代に入ると、ヨーロッパ映画自体、大々的な日本全国公開が激減しました)
そんなこともあって、僕が劇場で見た彼の映画は三本。
ルキノ・ビスコンティ監督の「若者のすべて」(1960)と「山猫」(1963)、そして今回レビューする「フリック・ストーリー」(1975)です。
「山猫」と「若者のすべて」は、アラン・ドロン目的ではなく、高校生の時にビスコンティ監督の作品にハマっていて、名古屋まで出かけて観たリバイバル上映です。
「フリック・ストーリー」は、アラン・ドロンの美貌を堪能する映画ではなく、渋い刑事ドラマだった記憶があります。
さて約50年ぶりのアラン・ドロンは、どんな顔を見せてくれるんでしょうか。
(あらすじ)
暗黒街の大物ビュイッソンが脱獄し、その逮捕を命じられる辣腕刑事の主人公。しかし主人公の捜査を後目に、ビュイッソンは自分を密告したかつての仲間を殺し、更に新たな強盗を行う。何とか隠れ家を突き止めた主人公だが、ビュイッソンを取り逃がしてしまう。やがて捜査から外された主人公だが、ある殺人事件をきかっけにビュイッソンを追い詰めるチャンスを得る・・・
これ、実話の映画化。
凶悪犯と、彼を追う辣腕刑事の物語。
アラン・ドロンが刑事役。
冷酷な犯人役はジャン・ルイ・トランティニャン。
立ち居振る舞い、セリフ、どれをとっても、まさに悪役って感じ。
僕は暫く、ジャン・ルイ・トランティニャンはそういう悪役専門の俳優かと思ってました。
が、あとから母国フランスでは人気のある俳優だと知りました。
更に高校生の時、深夜放送で恋愛映画の傑作「男と女」(1966)を見て、愛に燃えるレーサーを演じてるジャン・ルイ・トランティニャンを見てびっくり。
この全く違和感がないんです。
この人、本当に何でも演じられるんだなぁ、と感心しました。
(でも、一番印象に残ったのはヒロインを演じたアヌーク・エメの美しさ!)
この映画、母国フランスでは2大スター共演だったってことですね。
さて脱走犯人トランティニャンは、警察から逃げるっていうより、警察をかわしながら、仲間のところを訪ね歩き、裏切り者を殺し、次のヤマを狙う大胆不敵な行動をします。
それも冷静に、冷酷に。
アラン・ドロンは情報を得るために他の犯罪者に暴力振るったり、違法な取引を持ちかけたり、上司にたてついたり、と、ちょっと我が道を往くキャラ。
でも、同じ暴力振るったる、法律をおかしたりする「ダーティーハリー」のハリー・キャラハンと違うのは、彼がトランティニャンを追うのは出世と名声のため(結婚が控えているから給料も上がって欲しい)って計算しているところ。
つまりハリー・キャラハンと違って正義漢ではないんですね。
この違いは大きい。
監督はジャック・ドレー。
犯罪映画やサスペンス映画を得意としている人です。
この映画もハードボイルドの香りはしますが、当時流行っていた「ダーティーハリー」(1971)や「フレンチコネクション」(1971)のようなアメリカンハードボイルド系のムチャ振りな展開はありません。
むしろ、シニカルな雰囲気や淡々としているのは、フランス人監督っぽいです。
全般的に会話中心のシーンが多く、アクションシーンは少なめ。
最初に劇場で見た時に、僕が一番印象に残ってるのは、中盤でトランティニャンを見つけたアラン・ドロンが追いかけるところ。
トランティニャンは窓から、隣の家の屋根に飛び移り、アラン・ドロンも追っかけて飛び移ろうとするシーン。
ところがアラン・ドロンは屋根に乗った瞬間、後ろにつんのめってお尻から落ちるんですね。(下は砂の山)
これは予告編の中にも出てきます。
この、アラン・ドロンの間抜けさは、きっと史実に基づいてるんでしょうけど、「カッコいいアラン・ドロンが、カッコ悪い!」って思いました。
(結局、トランティニャンを取り逃がしてしまう)
最後は、トランティニャンが山小屋立ち寄る情報を得て、登山客を装った警察が待ち構えて、彼を捕らえるシーンはかなり緊迫感があって、盛り上がりました。
総じて言えば、アラン・ドロンはこんな役でもサマになるし、ジャン・ルイ・トランティニャンはアラン・ドロンに負けない強い悪役を演じてます。
脚本も演出も手を抜いてたり、「あらら」って思うような雑なところはありません。
でも致命的に地味。
これがこの映画の全てです。
悪い映画じゃないんですけどねー
主人公が熱い正義漢ではなく、ちょっと計算高いとこや、監督がフランス人ってこと、そして事実に基づいてる、ってことが地味さの原因だったかもしれません。
アラン・ドロンを見たいなら、他の映画をお勧めします。
ちょっと変わった「アラン・ドロンのゾロ」(1975)の方が魅力を堪能出来るかも?
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
今回は原語版で観ましたが、ちょっと吹替版も気になりますね。
TV放送時はやっぱり野沢さんが吹き替えを担当したようです。
見たかったなぁ。
調べたところ、この映画の同時上映はロバート・レッドフォード主演の「コンドル」(1975)でした。
それを見て、「あ、観たのは衆楽館(当時、岐阜にあった一番大きな洋画館)だった!」って思い出しました。
「コンドル」は好きな映画で、フュージョン音楽家のデイヴ・グルーシンが作曲したテーマ曲が秀逸です。
最後にアラン・ドロンについての薄っすらとした記憶の話。
トヨタのチェイサーという車が発売されてた時に、通学路にあるトヨタのディーラーに、同じ頃に開された彼主演の映画「チェイサー」(1978)のポスターが貼ってありました。
あれはタイアップしてたんでしょうか?それともたまたま店員の趣味だったんでしょうか?(タイアップしてような気がします。。。)
またチェイサーのCMで、朱里エイコさんの「サムライ・ニッポン」って曲が流れてたました。
何故かこの曲が今も忘れられません。
話が横にそれちゃいましたが、「フリック・ストーリー」の新品のBlu-rayやDVDは入手困難のようです。