中学生ぐらいまで一人で映画館には行けませんでした。
また当時は家庭にビデオなんてなく、当然レンタルビデオもサブスクもありません。
だからその頃の映画の主戦場は「日曜洋画劇場」や「水曜ロードショー」といったTVでした。
話題の映画が放送された翌日の放課後は、友達とお互いの感想を熱く語り合ったものです。(たまに言い争いになる)
そんなTVで見た思い出深い一本が、今回紹介する「アラン・ドロンのゾロ」(1975)です。
(あらすじ)
時代は大航海時代。暗殺された親友になり替わり、剣の達人である主人公はメキシコに総督として赴任する。そこでは親友を謀殺した大佐が暴政を振るっていた。民衆の苦境を目の当たりにした主人公は、表向きは気弱で軟弱な総督を演じつつ、裏では黒づくめのマスクの義賊「ゾロ」として、民衆のために悪漢たちを討伐していく・・・
「ゾロ」というキャラクターは、1920年代から何度も映画化されている鉄板キャラ。2005年にもアントニオ・バンデラス主演で映画化されてます。
1950年後半にアメリカで作られたテレビシリーズは、日本でも昭和40年頃に「怪傑ゾロ」のタイトルで放送され、僕が小学生の頃まではよく再放送してました。
そんなわけで、この映画が公開された昭和50年(1970)頃、日本でも「ゾロ」のことはみんなが知ってました。
そして主演のアラン・ドロン。
1960年代から70年代にかけて、日本では「世紀の美男子」としてハンサムの代名詞として圧倒的な人気を誇っていました。映画雑誌の人気投票でも、いつも1位だったんじゃないでしょうか。
80年ぐらいまでは、毎年2、3本は彼の新作が公開されてたし、日本のCMにも出てました。
日本では娯楽作品の人っていうイメージが強いんですが、実は良質な文芸作品にも結構出てたりして、とっても芸域の広い俳優です。
「ゾロ」という有名ヒーローを、アラン・ドロンという超人気のハンサム俳優が演じる、という無敵の組み合わせ。
そして実際に黒づくめのゾロは彼にぴったりでした。本当に絵になるかっこ良さ。まさにスターとはこのこと。
更に驚いたことに、ナヨナヨとした総督のキャラもかなりハマってるんですよ。
ここでちょっと話が逸れるんですが、僕がTVでこの映画を見た時は当然吹き替え版でした。
野沢さんは本当に芸達者で、もともとオカマ言葉で笑わせるアテレコがめっちゃ上手い人。幼稚園の時に見たアニメ「悟空の大冒険」の三蔵法師のナヨナヨぶりは今でも焼き付いてます。
吹替版でも、野沢那智さんのナヨナヨ演技が炸裂。もうハマり過ぎてて、アラン・ドロンよりも野沢那智さんの吹替の方が印象に残っちゃうんですよ。
野沢ワールド全開です。
口調もナヨナヨとキリっていうのを切れ味鋭く切り替えるのも職人技。
でもね、やっぱり目を閉じると最初に浮かぶのは、かっこいいゾロのシーンよりも、「みなのもの~、どこにおるのじゃ~」とナヨナヨっとした総督のシーン。
そんなワケで最近までTVで見たこの映画の面白さって全て野沢パワーのお陰だったんだ、と勝手に思ってました。
が、今回字幕版を見て、その認識がちょっと変わったんです。
何故か?
それは総督を演じる時はアラン・ドロンも、野沢さんに負けず劣らずナヨナヨとした演技に、ナヨナヨとしたセリフ回しをしてたんです。
そして彼もナヨナヨとした総督から、キリっとしたゾロにサっと変わるんですよ。
これぞ娯楽作!!
なんだ、アラン・ドロンもやるじゃん!
これはうれしい発見でした。
野沢那智さんの吹き替えがないから、面白さ半減だろうな、と思っていましたが、十分面白かったです。
あ、でもセリフは英語だったから、やはり吹き替えの可能性も?
(アラン・ドロンはフランス人。でもハリウッド在住経験もあるから英語でセリフもいけるのかな??)
映画は軽快な主題歌「ZORO IS BACK」をバックに始まります。
この曲、当時は流行りました。僕もTVで見て、シングルレコード(死語?)を買いました。
実家を探したら出てきました!
何とカップリングは「007/死ぬの奴らだ」の主題歌!
と思ったら、歌ってるのは「ポール・マッカートニー&ウィングス」ではなく、「B・J・アーノウ」
調べたら劇中でも使われた、別の人バージョンなんですね。決して、バッタものではないようです。
話はいつ正体がバレるのかハラハラしながら話が進んいきます。悪漢成敗し、民衆のヒーローになっていくゾロ。そしてラストは悪の親玉の大佐に、正体を明かした上で倒す、というもの。
あ、書いていて思ったんですが、これって「遠山の金さん」に似てません?
脚本的に唸らされるようなところはありません。
みんなが知ってるゾロを、みんなが期待する通りの話にして、それを丁寧に、堅実に、でも重く硬くならずに仕上げています。
近年のリブート物のように変にダークにしたり、主人公の性格を複雑にしたりしてません。そういう「凝っていない」というのが、また良いんです。
総督のわざとらしいいナヨナヨぶりだけでなく、ゾロの忠実な従者や間抜けな大佐の副官(やることなすこと、ドタバタ。ヤッターマンのボヤッキーみたい)をコメディリリーフとして配置して、明るく楽しい雰囲気を作ってます。
こういう「こんなやつ、いないよ~」と突っ込みたくなるお笑いキャラは、70年代娯楽映画のお約束ですね。絶滅してしまったのが残念です。
21世紀の感覚で見ると、食い足りなかったり、リズムがまったりするところもあると思いますが、今でも十分楽しく見れる作品です。
最近ではめっきり減ってしまいましたが、昭和の時代にはヨーロッパ製の娯楽作品が、アメリカ製の娯楽作品と同格ぐらいバンバン上映されてました。
特にあの時代のフランスとイタリアの映画は、アメリカのノリとは違った、いい意味での緩さと軽さがあって、個人的には好きでしたね。イタリア映画の「黄金の七人」なんて何度も何度も見ました。この映画も典型的なヨーロッパのノリの映画です。
今回はU-NEXTのサブスクで見たんですが、実は字幕版しかなかったんです。
ここまでアラン・ドロンの演技を褒めておいて、言うのもなんですが、
やっぱり野沢那智さんの吹き替えで見たかった!
調べたところ、野沢那智さんの吹き替えが収録されているDVDが発売されていました。
買っちゃおうかなぁ・・・
この映画を見て、ある吹替の映画を見たくなりました。
個人的に「史上最強の吹替映画」
その映画とは、
というワケで次回は「モンティ・パイソン&ホリーグレイル」について語りたいと思います。