昭和の時代に、一時ブームとなったキョンシー。
その火付け役となったのが香港映画「霊幻道士」(1985製作/1986日本公開)。
香港娯楽映画の最盛期の作品。
60-70年代の香港娯楽作にあった妙な安っぽさや、泥臭いギャグだけの路線から進化してます。
当時、この映画をきっかけに一大キョンシーブームが起きたんですが、僕自身はこの映画を見たことがありませんでした。
あれから40年。キョンシー初体験です!
(あらすじ)
道士たちが、大富豪の親族に頼まれ、20年前に亡くなった大富豪を埋葬し直そうとして墓を開けたところ、死体は20年前のままだった。風水的に間違った方法で埋葬されたことから、死霊(キョンシー)になりつつあることを悟った道士は、死体を引き取り、キョンシーにならないように処置をしようとするが、間抜けな弟子たちの失敗で、富豪はキョンシーとなり、姿を消してしまった・・・
真面目なホラー映画ではなく、笑いありのホラー。
コメディと言えばコメディ。
この設定は香港映画の伝統(?)である、笑えるアクション満載。
笑いの流れは、この映画の前にヒットしたホイ三兄弟の「Mr.BOO」シリーズ(日本で勝手にシリーズとして扱ってるだけですけどね)みたに、本人たちは真面目に取り組もうとしてるけど、失敗の連続で笑わせるタイプです。
中国古来からある民話的なお化け話を現代風にアレンジして、飽きのこない娯楽作に仕上げてます。
笑いとホラー要素を合体させたという点では、先日レビューした「フライトナイト」(1985)に似てますが、「フライトナイト」がホラーとコメディが同居していたのに対し、こちらはあくまでもコメディ主軸。
ホラーはコメディを引き立てるための装置なので、怖さやホラーとしてのドキドキ感はありません。
pagutaro-yokohama55.hatenablog.com
ちなみにアメリカ系ホラーコメディで、モンスター自体が間抜けだったり、笑わせたりするのがありますが、この映画では観客を笑わせるのは、キョンシーではなく、常に道士たちです。
だからドキドキ感が「間抜けな道士の弟子たちが、いつ失敗をやらかすか」なので、が分かり易くて良かったと思います。
この映画がコメディとして成功しているのは、「ドキドキ」と「お約束」の二つがキチンとしていることじゃないでしょうか。
コメディってバスター・キートンの時代から「ハラハラドキドキ」ってとっても重要な要素。
「成功する?失敗する?」「バレる?バレない?」ってドキドキさせておいて、「やっぱり今回も失敗かー!」(爆発)みたいなのって良くありますよね。
そしてオチに大切なのはお約束。
コメディでは観客はドキドキしながらも、「きっとこうなるだろうなぁ」って期待がありますよね。
そこは懲りすぎて期待を裏切るより、きっちり応えるのが大切なことって多いと思うんです。
吉本新喜劇が良い例。
この映画も「見たいのはこれですよね!」ってお約束のオチを出して、観客を笑わせます。
でも、それってちゃんと観客を期待させる話運びや伏線をしっかり作ってあるからこそウケるんですよね。
その辺りが職人技でした。
香港娯楽映画と言えば体を張ったアクションシーンですが、この映画でもキョンシーとのバトルで生かされてます。
特に警察の中でキョンシーに襲われるシーンとか、屋敷でキョンシーと封印しようとする追いつ追われつのシーンは、アクション満載で、ドキドキしながら笑わせてくれます。
ホント、この映画のアクションシーン(ワイヤーアクション)は面白いです。
話としては、キョンシーを巡る退治談が主軸です。
富豪の娘が娼婦と勘違いされる「間違いの笑い」や、イギリスのティータイムの作法を「知ってるふりして失敗する笑い」、「ケチな商人が混ぜ物の米を渡したため、キョンシーを封印できない」等、小さなエピソードが、大筋の中で小気味よく展開されます。
その中で弟子が幽霊に愛されちゃうというエピソードがあります。
諸星大二郎の漫画に出てきそうな古代中国の奇譚っぽいです。
このエピソードに割かれている時間は長めなんですが、実は本筋からちょっと離れてます。
でも、キョンシーの自体が中国で古くか言い伝えのある妖怪の一種なので、映画自体の「古代中国の奇譚」という雰囲気を出すのには良かったかな、と個人的には思いました。
この映画を製作したのは、日本では「燃えよデブゴン」シリーズ(1978-1980)のサモ・ハン・キンポー。
アクション・コメディの大御所です。
道理でアクションシーンのキレがいいハズです。
また道士の弟子を演じるのは「Mr.Boo」シリーズのホイ三兄弟の次男のリッキー・ホイ。
「Mr.Boo」シリーズと同じ要領の悪い間抜けな役ですが、本当にこの手のキャラをやらせたらピカイチです。
調べたら2011年に亡くなったのを知ってビックリしました。
ちょっと寂しいです。
そんなワケで、この映画は中国返還(1997)前の香港娯楽映画の魅力を上手に凝縮してた、万人が楽しめる映画じゃないでしょうか。
見終わった後、素直に面白かった~、と言えます。
「昭和の時代の香港映画はちょっと・・・」という人も是非見てみて下さい。
返還後は、香港映画界が急速に衰えたという話を耳にします。
あのバイタリティーは、時に泥臭くはあるものの、見ているこちらを元気づけてくれてたので、とっても残念です。
DVDはお手軽に入手出来ます。