80年代って青春映画が流行りましたよね。
「アウトサイダー」(1983)みたいな不良チックな青春劇じゃなく、そこそこ普通に暮らしている若者(時に大学生)の青春ドラマ。
僕の大好きな「セント・エルモス・ファイアー」(1985)や「プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角」(1986)、「レス・ザン・ゼロ」(1987)といった類です。
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青春映画といってもシリアスな話から、ロマンチックコメディまでいろいろありますが、この時代の青春映画の共通点は、出ている俳優が大体、同じってところ。
今回レビューするのは、そんな一本「マネキン」(1987製作/1988日本公開)。
主演は青春映画の超常連アンドリュー・マッカーシー。
あ、先に挙げた映画も全部アンドリュー・マッカーシーが主演してますね。
この映画を観たのは初公開の時。
観たのは衆楽館という岐阜で一番大きな洋画の映画館で、同時上映があったハズだけど思い出せません。
かなり軽めのロマンチックコメディで、「面白かったけど、なんかちょっと食い足りないなぁ」という印象でした。
さて、36年ぶりに見た「マネキン」はどうなんでしょうか?
(あらすじ)
ちょっと芸術家肌で天然の入ってる主人公は、どんな仕事をやっても長続きしない。マネキンを作る会社でも、一つのマネキンに入れ込んで、完成までに時間をかけ過ぎたことでクビに。大手デパートに勤める恋人には、ちゃんとして欲しいと言われる始末。そんな彼が、恋人の勤めるデパートのライバルデパートのオーナーを救ったことで、そこのデパートのバイトに雇われる。そしてそのデパートには、彼が思い入れたっぷりに作ったマネキンがあった。そして夜勤をしてる時、そのマネキンが目の前で生きた人間に変わるのだった・・・
製作された時代背景や、主演が当時の青春映画の常連アンドリュー・マッカーシーだったこともあり、ロマンチックコメディ+青春映画という捕らえられ方をしてたんですが、実際には純粋なロマンチックコメディ。登場人物もみんな社会人だから、「青春」要素はありません。
まぁ、若々しい恋愛がベースにあることは間違いありませんけど。
更に突っ込むと「マネキンが主人公の前でだけ人間になる。彼女はエジプト時代の王女だった・・・」という設定から、ファンタジー映画と言う方が正しいかも。
ノリは完全に青春ロマンチックコメディに分類して問題ありません。
主演のアンドリュー・マッカーシーは、他の映画では大学生、新聞記者、金持ちの御曹司で成績優秀な高校生、と、一般的には出来る男を演じることが多いんですが、この映画では珍しくちょっと天然が入っているドジっ子キャラ。今風でいうなら社会不適合者です。
これは意外ですが、この映画の主人公をハマり役のように演じてました。
他の映画で演じる「出来るキャラ」も、ちょっと浮世離れしていて、世間と折り合わないところを持っているところがあったので、この映画の主人公との共通点があり、あながち全くかけ離れたキャラではいとも言えます。
この手のロマンティックコメディって、実は脇役の魅力がとっても大切。
「プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角」でも、主人公に片思いする親友ダッキーがコメディリリーフとして映画を盛り上げてました。
この映画では、主人公を助けるゲイのディスプレイ担当ハリウッド。
彼のハイテンションのノリと友情が効いています。
彼が主人公たちを支えるシーンは、応援する僕らを何度もホっとさせてくれました。
そして小心者で且つ裏切り者の重役を演じたジェームス・スペイダー。
この映画にはマンガに出てくるような敵役が何人も出てくるのですが、彼が最高です。
ジェームス・スペイダーと言えば、この時期の青春映画では敵役や憎まれ役の定番俳優。
他の映画ではエリート臭を漂わせたりと、ちょっと主人公より上位に位置する嫌味なキャラですが、カッコ良さのある悪役でした。(実際、カッコいい)
でも、この映画は肩書こそ重役ですが、メガネをかけて、七三分けの典型的な小役人的風貌で、小物ぶり&コミカルにドジな敵役なんです。これは同じ敵役でも、他の映画の役とは180度反対と言えます。
ともかく彼はいろいろと策を練るんですが、それが全て「お約束」の失敗をするのも、この手の軽いコメディに合ってました。(その演技がまたマンガチちっくで◎)
ちなみにジェームス・スペイダーは、前述の「プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角」と「レス・ザン・ゼロ」(1987)でもアンドリュー・マッカーシーの敵役を演じていて、アンドリュー・マッカーシーの良き相棒です。
また僕が彼を意識したのは「セックスと嘘とビデオテープ」(1989)。
知的で不思議な人物を見事に演じ、カンヌ映画祭主演男優賞を受賞しています。
だから改めてこの映画を見ると「ん?これがあのジェームス・スペイダー?」と違和感を感じちゃいます。
きっとクレジットを見なかったら気が付かなかったかも。
この映画で一番可哀そうなのは主人公の元恋人。
同僚に「なんであんな男と付き合ってるの?」と眉を顰められないからも健気に彼を支えていたのに、主人公がマネキン(ヒロイン)と出会った途端に捨てられ、そこからは復讐のために自分が勤めるライバルデパートに彼を引き抜こうとします。
でも心のどこかでは彼が好きで、最後は「こんなマネキンがあるから!」と壊そうとするところは、ちょっと可哀そう。
主人公、彼女の扱いがちょっとひどくないですか?
さてこの映画、コメディの典型的なキャラが揃っているだけでなく、話自体もマネキン=実は主人公だけに人間見える、というファンタジー要素とデパートの乗っ取り陰謀、主人公の成功談を上手にミックスさせてます。
ちょっと見ていて恥ずかしくなる展開もありますが、ダレることなく、そこそこ楽しく進んでいきます。
でも正直な話、どのエピソードもどこか他の映画の焼き直し感があるのは否定できないところ。
過去の定番展開やキャラを上手に集めてリミックスした、ってところでしょうか。
手堅いと言えば、手堅いです。
だから映画としては安心した笑いを提供してるし、一定レベルの満足感は得られます。
でも反面、驚きや他の映画では味わえないものを味わえた!という感じはありません。
だから今回も当時と同じく「面白かったけど、なんかちょっと食い足りないなぁ」という印象です。
ちなみに今回見ていて、周りからマネキンフェチとして誤解されつつも、ヒロインとの恋愛に熱を上げていく主人公の行動を見ていると、痛々しく思ってしまうんですよねー。
最初に見た時(若い時)はこんなことを思わなくて、普通にドキドキしながら見てたハズ。
年齢を重ね過ぎて、人生の表も裏も見てきたせいか?はたまたイタい、殺伐とした映画を見過ぎたせいでしょうか?
今の僕にはちょっと行き過ぎたファンタジーさが合わないところがありました。
ラストのハッピーエンドは「それしかない」けど、なんかおとぎ話過ぎて、ちょっと照れます。
さて、最後に音楽の話。
この映画の主題歌を演奏するのはスターシップ。
「スターシップ」は、1965年から活動を始めた「ジェファーソン・エアプレーン」が「ジェファーソン・スターシップ」になり、「スターシップ」に名前を変えながら活動を続ける、長い歴史を持つバンド。
「スターシップ」に改名後は、1985年に「We Built This City」と「Sara」が全米No1になり、この映画の主題歌を担当した時は人気絶頂でした。
この映画の主題歌「Nothing's Gonna Stop Us Now」も全米No1になってます。
とっても良い曲で、「これぞ80年代のポップス!」という王道さが個人的に魅力です。
この曲が流れるシーンでは、夜中のデパートでヒロインと主人公がいろいろな服を着て次々とコスチュームプレイをする様をテンポ良く見せる様はMTVそのまま、でした。
こういうシーンがあるのも、80年代の映画って感じがします。
どこかで観たことのあるような展開ばっかりだとか、手堅いけど新鮮味がないとか、いろいろと書きましたが、「じゃ、お前、この映画は十把一絡げということで忘れてるんだな?」と言われると、「それはちょっと待って」と思っちゃいます。
やっぱりリアルタイムで、同じような年代の主人公のロマンティックコメディって、「出来だけでは割り切れないもの」があるんです。
それになんか共感し易いアンドリュー・マッカーシー主演だし(笑)
というワケで、他の人から見たら、「良くあるそこそこの出来の映画」だけど、超個人的には「ちょっと忘れ去りたくない一本」なのかもしれません。
続編の「マネキン2」(1991)もありますが、僕は未見です。
監督も違うし、アンドリュー・マッカーシーも出てません。
話も続いていなく、舞台が同じデパートで、この映画の名脇役ハリウッドが出てくるぐらいの共通点しかないとか。
新品のBlu-ray/DVDは入手困難のようです。
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