パグ太郎の<昭和の妖しい映画目撃者>

昭和の映画目撃談&時々その他いろいろ

【モンティ・パイソン 人生狂想曲(吹替版)】 広川太一郎さんのベテラン芸を見よ!(聞け?)

モンティ・パイソンと言えば、やっぱり吹替版!って言う話は、以前「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」(1975)で書きました。

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そしてモンティ・パイソンの吹替版と言えば、勿論昭和のTVバージョン

ところが、これがサブスクではナカナカなかったりするんですよ。

 

ところが今回、何気にプライムビデオを見ていたら、モンティ・パイソン劇場版第四弾「人生狂想曲」(1983/日本未公開)の吹替版があるじゃないですか。

「どうせ、21世紀の新録でしょ?」と期待せずに再生してみたら、なんとそこには広川太一郎さんの声が!

そんなわけで、ついつい勢いで見てしまいました。

 

(あらすじ)

<前座>の窓際老人たちの逆襲短編映画「クリムゾン 老人は荒野をめざす」から、数々のエピソードで人生の意味を語り掛ける短編集。オープニングの「出産の奇跡」からモンティ・パイソン流のブラックユーモアが連発。

(あらすじ、っていうより、宣伝ですね)


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モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」や「ライフ・オブ・ブライアン」(1979)と違って、物語を通す明確なストーリーはありません。

 

人生の意義って何だ?っていうのをテーマに、モンティ・パイソンのテレビ版のような小噺的な短編が次々と出てくる構成。

モンティ・パイソンのギャグって、TV時代からイギリスの伝統や宗教、制度をおちょくるものが多いんです。

彼らの映画版の中で、そのイギリスいじりが一番色濃く出ているのがこの「人生狂想曲」。

いろんなショートストーリーの集まりとは言え、(事務的な)病院、パブリックスクールカソリックの多い炭鉱町、軍隊とイギリスらしい舞台ばかり

 

例えば第二話の「出産の奇跡2 第3世界編」は、プロテスタントの金持ちが、子だくさんのカソリックの労働者家族を馬鹿にする話なんですが、初めて見た時はどこか面白いのか、サッパリでした。

背景にはイギリスのカソリック VS プロテスタント問題や、カソリックの避妊禁止、階層社会、地方差別といったものがあって、それを全部皮肉ってるって分かったのは3回目ぐらい

(原題もThe Third World=第三世界となっていますが、舞台はイングランド北部のヨークシャーです。方言を隠そうとするイギリス人が多い中で、方言に拘りを持っている地方だそうです)

 

だから一番最初に見た時(多分、大学生?)は、その面白さが半分も分からなかったんです。

その後、数回見ていろいろと勉強した結果、今回はたっぷりと楽しめました。

 

個人的に面白かったのは一番最初の話「出産の奇跡」。

医者と看護婦の行き過ぎた事務対応とマイペースぶりがツボです。

ラストの「死」もイライラする死神がなかなかいい味を出してます。

そして密かに好きなのが、「映画の折り返し点」。

変な人物たち(ドラァグクイーン、手が異常に長い男、象人間の執事)が出て来て、「どこかに魚がいるから探して」というだけなんですが、これが強烈です。

そして続いて、「これ、面白っかったねー」と水槽の中の人面魚が語り合うシーンも好きです、

 

そして今回も一番感動したのは、日本語吹替版の素晴らしさ。

モンティ・パイソンと言えば、これですね。

 

この吹き替えを作る時に、TV版の山田康夫さんは既に故人となっており、同じくTV版の納谷五郎さんは体調不良で不参加だったそうです。

その分、広川太一郎さんがグイグイ引っ張ってます。

彼の縦横無尽なお笑いセンスが爆発していて、モンティ・パイソンを楽しんでるか、広川太一郎さんの芸を楽しんでるのか分からなくなる」んです。

この映画で、広川太一郎さんは「映画のオリジナル」に合わせるんじゃなくて、自分の持ちネタ、芸を映画にはめ込んでいくスタイルでした。

今ならお笑い芸人がアテレコをしても、ここまで自分色を出さないでしょう。

まさに昭和の吹き替えです。

 

そのため「これってオリジナルの作品にはないよね?」っていうセリフ回しがバンバン出てきますが、それが絶妙に面白くて、「オリジナルがどうだったか」なんてどうでもよくなります。

きっとオリジナル言語で、みたらこんなに楽しめなかったじゃないでしょうか。

 

正直、イギリスの文化など基礎知識が必要なネタも多いし、反面、お下劣なネタやわけのわからないネタも多く(「映画の折り返し点」が典型的にそうですね)、モンティ・パイソンを知らない初心者には、それなりにハードルが高い作品だとは思います。

また昭和の「オリジナル吹き替え」も好き嫌いが分かれるところ。

 

言い換えれば、「この映画を見れば、自分がモンティ・パイソンに向いているかどうか判断出来る」「昭和の吹き替えが好きかどうか分かる」とも言えます。

もしこの映画を見て「面白さが分からないなぁ」と思えば、モンティ・パイソンのことも、昭和のベタな吹き替えも忘れるのがいいのかもしれません。

もしこの映画を見て、ちょっとでも「面白い」と思えば、次のステップ、「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」と「ライフ・オブ・ブライアン」(1979)ではないでしょうか。

勿論、見るなら昭和のTV版キャストの吹き替え版がお勧めです。

 

そしてモンティ・パイソンにハマったら、そのままテリー・ギリアムモンティ・パイソンのアニメ担当)監督作品に進むのもありです。

その場合は「バンデットQ」(1981)、「未来世紀ブラジル」(1985)、「バロン」(1988)でしょうか。

デビュー作の「ジャバーウォッキー」(1977)が一番モンティ・パイソンっぽいですが、正直、映画としての完成度が今一つなのでお勧めしません。

 

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また「12モンキーズ」(1996)も監督していますが、普通に出来のよいSF映画だし、主演もブルース・ウィルスブラッド・ピットとハリウッド大作なので、もう「モンティ・パイソン色」はないです。(勿論、面白いです)

 

「人生狂想曲」のDVDはお手軽に入手出来るようですが、言語情報が書いてないので、日本語吹き替えは入ってないかもです。