横浜にある名画座シネマジャック&ベティのサイトを見たら、テリー・ギリアム監督の幻の単独監督デビュー作「ジャバーウォッキー」(1977製作/1980日本公開)が上映スケジュールにあるじゃないですか。
今回公開されたのは、4Kレストア版が出来たからです。
上映期間は僅か1週間だったので、早速見に行くことにしました。
このコラム始まって以来、初めての劇場鑑賞レビューです!
テリー・ギリアムは僕にとって神です。
特に「バンデットQ」(1981)、「未来世紀ブラジル」(1985)、「バロン」(1988)は何度も見ました。
僕がテリー・ギリアムに初めて接したのは、小学生の時に見た英TV「空飛ぶモンティ・パイソン」(1969-1974)でした。
オープニングや、コメディとコメディの間に唐突に入ってくる変なアニメの作者がギリアムだったんですね。
暫くして、高校生のときに名古屋の映画館で「モンティ・パイソン&ホーリー・グレイル」(1975)と「ライフ・オブ・ブライアン」(1981)のモンティ・パイソン二本立てを見て、再びモンティ・パイソンにハマることになります。
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そんな中で、「モンティ・パイソン&ホーリー・グレイル」の共同監督がテリー・ギリアムだと知り(監督第一作)、1983年には単独で監督した「バンディットQ」(1981)が日本で公開されました。
「バンディットQ」は岐阜の自由劇場という半地下みたいな小さな映画館で見たんです。
同時上映はアニメ「幻魔大戦」(1983)という、ちょっと奇妙な組み合わせ。
地方はこの組み合わせで統一されてたみたいですね。
この時の「バンディットQ」(原題「Time Bandits」)は日本では子供向け映画の扱いになったため、幾つかの子供向けではないエピソードがカットされた短縮改悪版での公開でした。
モンティ・パイソン出身者らしい毒が抜かれた感じでしょうか。
この映画の宣伝配給はあの東宝東和。
モンティ・パイソン愛のかけらもない公開の仕方でした。
(東宝東和の武勇伝は「バーニング」(1981)と「メガフォース」(1982)のレビューを参照して下さい)
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その悪評のせいか(?)、国内発売のソフトはノーカット版になってました。
(残念ながら現在、新品DVDは入手困難)
この頃、テリー・ギリアムの初単独監督作品が「ジャバーウォッキー」だと知ったのです。
しかし日本での劇場公開はとうの昔に終っているわ、ソフト化もほとんどされてないわ、で、見るチャンスがないまま、40年の月日が経ち、この映画のことをすっかり忘れてました。
だから、タイトルを見てキュンとしましたね。
高校生の時に思い焦がれてたものを思い出した、あの感覚。
見ないわけにはいきません。
シネマジャック&ベティで映画を見るのは初めて。
伊勢佐木長者町の、猥雑な界隈にあるのがいいですね。
僕は伊勢佐木町の混沌としているところが好きなんです。
場所も昔、横浜日劇があった反対側。
懐かしすぎます。
館内にも旧横浜日劇のイラストが描かれています。
永瀬正敏さん主演の探偵濱・マイクシリーズ(1994-1996)を思い出す人も多いんじゃないでしょうか。
(旧横浜日劇の二階が探偵事務所、という設定)
館内はほどよい狭さ。
僕的には、名画座ってこじんまりしてる方がいいんですよ。
好きな人達の集まりっぽくて。
この日の観客は10人ぐらい。
夜9時からの一回だけの上映ですが、日曜の夜ってことで、こんなもんですかねー。
みんな、映画好きな雰囲気の人ばかりで、懐かしい感じがします。
さて、前段が長くなりましたが、映画本編は65点ですね。
ギャグなんだか、シリアスなんだか、軸足が定まってません。
モンティ・パイソン風のギャグはいたるところにあるんですが、照れてるのか、突き抜けてないんです。
こっちも「きっと笑わせたいんだろーなー」とは分かるんですが、そんなに笑えない。
じゃ、話自体はどうかっていうと、意外にヒネリの少ない真面目な話。
「バロン」のような虚構と真実の迷路みたいな構造でもなければ、「未来世紀ブラジル」みたいに強烈な文明批判をしてるわけでもない。
そしてどちらも笑いと話が一体化してるんです。
話を引き立てるために必要な笑い。
でもこの映画は、普通の話にギャグをくっつけてるだけ。
テリー・ギリアムがとりあえず一人で監督してみて、どうなるか見てみよう、そんな感じ。
モンティ・パイソンでもなく、かといって後年のギリアムでもない、中途半端な作品です。
この映画の見どころの一つとして、リアルな中世世界の再現があります。
そこには僕らが知ってるカッコいい中世はありません。
汚くて、混沌とした中世。
騎士も鎧が重くて、従者の助けがないと馬に乗れないですし、剣も切るものではなく、叩きつけるのがメイン。
そんなリアルを笑いのネタにしてるんですが、モンティ・パイソンのように上手く仕上げられてないのが残念です。
きっとこの映画を作った結果、「自分はモンティ・パイソンみたいなものは無理だ」って悟ったのかもしれませんね。
この後の作品では無理に笑いを誘うことがなくなりました。
そういう意味で、「ジャバーウォッキー」は有意義な習作だったのかもしれません。
でも個人的に凄く期待していただけに、ちょっとがっかり。
幻の映画は幻のままにしておくのが良かったかも。
ちなみに国内ソフト化は、ビデオテープ時代にされているだけで、DVDやブルーレイはありません。(海外版はあります)
当然、レンタルはありません。
今回の4Kレストア版を契機にソフトが出ることを期待しましょう。